第六話 3 “結界破り”の準備の間
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
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靖國上級大尉の航海日誌
三二日目。第一探査艦隊の銀山は、第一護衛艦隊と共に行動する事になった。穢れを退治するにあたって、信じられない事態に直面する。
そして泊地島の悪意が、この状況で襲い掛かってくる。
◇◇◇
「で、ボク達にお呼びがかかったんだねぇ。毎回穢れに当たっているね。荒事があるたびにお呼びがかかる宿命かにゃ。」
「確かに、毎回貧乏くじを引いている感じはするが、それは後回しだな。今は任務に専念するぞ。」
場所は戦闘指揮所。司令官席に座っている軍医殿は、プリン片手に愚痴を言っている。愚痴は言っているが、声音を聞く限り、それほど不満は籠っていない。
余談だが、時間は甘味を楽しむティータイム。我が帰還艦隊では士気向上のため、可能な限りおやつを出すようにしている。だが、任務中に甘みを楽しむ余裕はない。
吾輩達は第一護衛艦隊と共に、閉じた世界の穢れの対応に当たる。以前の巨大艦の時と同様に、情報能力を買われての編入だ。
現在、靖國大佐が“結界破り”の術の準備をしている。術の行使と同時に、閉じた世界に侵入する手はずになっている。
「しかし面倒だよねぇ。このまま侵入すると囚われるんだっけ。閉じた世界に。」
「どうもそのようだな。空間が閉じかかっているか、開きかかっているか。いずれにせよ不安定だから、“結界破り”でそのあたりの枷を取り払う算段だな。」
“結界破り”で安定化と言うのは、厳密には変な表現だ。だが、“結界破り”の術で閉じた世界内の不安定化の原因を、強制的に破壊すのだろう。緩い次元断層が、閉じた世界全域に広がっているかもしれない。細かい話は分からないが、時空の歪みを“結界破り”の術で取り除けると、判断したのだろう。
細かい理屈は頭の良い連中に任せる。吾輩は艦長として確認を行う。
「船務長。各艦とのデータリンクの状況はどうだ。」
「はい。データリンクの状態は良好です。」
「砲雷長。穢れ払いの曳光弾。装填準備はどうだ。」
「主砲、副砲ともに、穢れ払いの曳光弾の準備ができています。」
「そうか。」
「もへへ。緊張ちているのかにゃ。上級大尉。」
軍医殿は半分からかうように言いながら、空になったプリンの紙容器を握りつぶす。その表情は明らかに余裕がある。あるいは、表情を作っているだけかもしれないが。吾輩は軽くため息を吐いて、心情を落ち着かせる。
「確認しただけだ。軍医殿のように、プリンを食べてられる身分じゃないのでな。」
吾輩の言葉に軍医殿は僅かに笑う。軍医殿は握りつぶした容器を、ポケットにしまう。
「もへへ。チミも食べて良いんじゃない。甘味を食べるくらいの余裕。持っても良いと思うよ。」
「そうか。参考にしよう。」
吾輩はそう言うだけにする。本当に実行するかは別の話だ。
「艦長。少しよろしいでしょうか。今報告がありましたが、閉じた世界から電波が送信されています。」
「電波か。」
「電波ねぇ。」
閉じた世界から発せられる電波。認識できるという事は、少なくともノイズの類では無いだろう。
「了解した。船務長。観測員に電波の件を伝えて、警戒を怠らないように言ってくれ。」
「了解しました。」
電波の件を伝えるという事は、上層部が中に何かがいると判断したのだろうか。それともただの懸念の類だろうか。いずれにせよ、今ここで考えていてもしょうがない。
「電波ねぇ。そう言えば泊地島も電波を発していたね。今回もその手の類かなぁ。」
軍医殿が泊地島の単語を指した瞬間。戦闘指揮上の空気が一瞬強張った。泊地島については二日前、大量の穢れが消失した報告は入っている。
「軍医殿。泊地島の穢れの件は、報告が入っている。今は目の前の事に集中する時だ。」
「そうだね。ごめんごめん。時間の流れが極端に遅いみたいだから、早送りすれば内容が分かるかなぁ。」
軍医殿は頭を掻いて誤魔化しているように見える。失言に反省してくれれば良いと、吾輩は内心に思う。
この時は無論、軍医殿の軽口かと思っていたが、また泊地島がしゃしゃり出てくるとは、この時思いもよらなかった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
今回は私用により投稿が遅れました。申し訳ございません。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は”結界破り”の術の行使になります。
それではまたお会いしましょう。




