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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第六話 過去との遭遇
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第六話 2 “結界破り”の準備

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。

 靖國(やすくに)大佐は衣装棚を開く。用があるのは中にある、布にくるまった錫杖(しゃくじょう)だ。


 靖國大佐は布を取り除く。そこには曇り一つない錫杖が、反射光で輝いている。


 純金でできた錫杖。豪華な装飾が施されている。杖の先端にはゴルフボール大の翡翠(ひすい)が取り付けられている。他にも小粒の宝石が、各所にちりばめられている。この悪趣味な錫杖は、本国が送り付けた祭儀用の錫杖だ。


 靖國大佐はこの高価な錫杖に、徹底的な改良を加えた。


 巨大な翡翠には莫大な理力を貯蔵させる術。散りばめられた宝石にも同様の処置を施してある。


 この錫杖には花が彫り込まれているが、これに加工を加える。


 花の装飾におしべとめしべを彫りこみ、葉の筋はくっきりと判るほどに彫る。茎の部分もくっきりと浮き出るように彫る。これらの加工を術を行使しながら行う。これにより蓄えられた理力を、効率よく流す仕組みになっている。


 他の装飾も掘り込みを加えて、理力を注ぎ込んだ。


 更に握る部分も加工が加えられている。握り手の皮張りを取り去り、魔法銀を巻き付ける。そして術の制御を行う呪文が、びっしりと書かれている。これにより術の制御が容易になる。


 その結果、この錫杖を通した術は強力かつ安定する事になる。


 靖國大佐はこの錫杖の改良に、一年の月日を費やしている。ちなみにこの錫杖には名前が無い。靖國大佐自身は悪趣味な錫杖と呼んでいるため、この呼称が錫杖の固有名詞になっている。



◇◇◇



 次に軍服の上着を脱ぎ、ベッドに放り投げる。そして革製の外套(がいとう)を手に取る。


 ただの革製の外套に見えるが、このローブも普通のローブとは明らかに違う。


 最初に材質だ。この外套が革製である事には違いない。ただしただの皮ではなく、魔法銀と呼ばれる素材でできている。


 魔除けの銀の特性を有し、防弾性、防爆性、防刃性に優れ、耐久力が高い。さらに術を書き込むことで、容易に強化が可能である。靖國上級大尉の重皮鎧もこの材質で作られている。


 ここまで書くと良いこと尽くめだが、もちろん欠点もある。それは生産性が低い点にある。


 術を行使しながら加工するため、加工時間と使用する皮素材の量が三倍もかかる。


 当然、経費も掛かる。だがこの手間のかかる素材を、黄泉軍の軍隊は軍服に使っている。


 そのため淺糟軍曹などは、鎧代わりに使用している。鎧代わりにしている者は意外と多い。


 そして魔法銀の外套の裏側には、呪文がびっしりと書かれている。理力を増幅させ、術を安定させる効果がある。


 この外套は泊地島で作られた物で、靖國大佐は大枚をはたいて購入した逸品だ。



◇◇◇



 靖國大佐は外套を羽織ると、秘薬(ひやく)箱を取り出す。“保存”の術が付与されている箱で、中身を常温で長期間保存できる。


 本来、術を使用するのに秘薬は必要ない。昨今の術はそれだけ洗礼されている。


 だが術の強化を(ほどこ)したり、古い術を行使する場合には、秘薬が必要になってくる。


 今回の“結界破り”の術は古い術だ。洗礼され簡略化された術式もあるが、古の術の方が往々にして、安定性や効果が優れている事が多い。今回はその例だ。


 靖國大佐はいくつかの秘薬を取り出す。


 秘薬はその材料に霊薬を使っている事がほとんどだ。本国では霊薬を作る傍ら、秘薬作りで生計を立てる者もいると聞く。


 もっとも靖國大佐に言わせれば、秘薬を作れない術師は二流だと考えている。靖國上級大尉に術の指導した時も、霊薬と秘薬の作り方を、みっちりと叩きこんである。


 破邪の力を補強する丸薬。理力をかき乱す干し肉。理力に穴をあける、自分の血で呪文を書いた札。強力な理力から体を守るための練り物。ほかにもいくつか取り出し、これらの秘薬を小分けにして、携帯用の小箱に分ける。


 そして本棚から巻物を一本取り出す。そして中身を黙読して、“結界破り”の術である事を確認する。この巻物を使用すれば、術の強度と術の確実性を高める。


 本棚には拳銃が一丁置いてある。古く古風な燧石(すいせき)式銃、俗に言うマッチロックガンだ。


 黒色火薬の入った袋を取り出す。これらの道具は術に使用するために、特殊な加工を施してある。黒欲火薬も厳密には秘薬の一つだ。


 靖國大佐は黒欲火薬の袋に、“乾燥”の術を行使する。火薬を換装させて、不発を防ぐ処理だ。


 最後に理力回復薬の瓶を一本取り出す。これで準備完了だ。小箱と瓶を布製の袋に入れると、靖國大佐は艦長室を後にした。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は、場面は銀山に移ります。


 それではまたお会いしましょう。

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