第五話 4 “二回行動の秘術”と副作用
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
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「チミの調合した霊薬。血管にぷすっと行っといたよ。」
「すまない。軍医殿。」
「にしても“二回行動の秘術”。術の後遺症がここまで響くのは、本当に珍しい事だよ。」
軍医殿に霊薬を血管に打ってもらう。栄養剤と疲労回復薬を混ぜたものだ。眩暈と吐き気が収まり、いささか体が楽になったように感じる。
本来、霊薬を血管に直接注入する行為は危険行為で、細心の注意を払う必要がある。
「艦にあの術を付与するのは初めてだからな。理力面で、相当負荷がかかったのだろうな。」
吾輩はこの数日、体調不良を起こしている。理力不均衡症と、継続する疲労だ。
原因は“二回行動の秘術”の術を、巡洋艦に付与した弊害だ。
“二回行動の秘術“。吾輩の開発した術で、身体の思考速度と反応速度を、過度に上げる術だ。
体が軽くなり、時間が遅く流れるように感じる。体は俊敏に動き、思考も鮮明になり、結果としてとても素早く思考したり、体を動かすことができる。
これを術者以外が観測すると、まるで早送りで動いているように映る。そしてそれは幻でもまやかしでもない、現実の起きている現象だ。
術の名前の由来はコンピューターゲームで、敵が二回行動する現象に例えたものだ。この名前は的を射ていると自負している。
ただしこの手の術には、副作用も存在する。当然だ。体に過度の負担をかけているからだ。
この“二回行動の秘術”の術の副作用は、極度の疲労に襲われる事だ。それも当然だ。通常の倍の速度で体を動かして、それで何も起こらないわけがない。
ただし今回は、それだけではすまなかった。軍艦に付与する暴挙を行ったからだ。
術の効果で誘導弾の迎撃率が向上したが、それに伴う副作用も出ている。
その副作用は、数日たった今でも、疲労感が回復しない。さらに吐き気と眩暈のおまけつきだ。
普通なら、疲労感は一日だけだが、今回はそうはならなかったようだ。
「理力不均衡症は厄介だね。霊薬の効きが悪いよ。ま、後二、三日は、術の仕様はやめた方が良いね。」
そう言うと軍医殿は、注射針を捨てる。少しもったいない気もするが、衛生上の問題と言う話だ。
「それと摩訶不思議装置。あの装置、こわれやすいのかなぁ。」
「どうだろうな。“二回行動の秘術”は複雑な術だ。そのせいだろう。」
摩訶不思議装置は壊れやすいかもしれない。頻繁に壊すなと言う誰かの愚痴を、聞いた事がある。
「二回行動の秘術。結構高度な術みたいだねぇ。論文出して発表すれば、特許料がウハウハだよ。」
「そうか。それは考えておかないとな。」
“二回行動の秘術”はいくつもの術がその根底にある。論文を発表すれば、注目されるかもしれない。もっとも、軍医殿の言う特許料については、どうなるかは別の話だ。
「それにしてもチミ。“黄金石炭鋼”術と言い、“二回行動の秘術”と言い、
チミは術の天才だねぇ。普通は、術をいくつも開発できないよ。」
「そうらしいな。ただ術の実力は、特別上では無いがな。」
「チミ。それは嫌味にしか聞こえないよ。」
軍医のツッコミを受けつつ、しばし思考にふける。
確かに術の開発は容易ではない。それも複数の術ならなおさらだ。
吾輩より卓越した術使いは、この帰還艦隊の中でも手足の指では収まらない。
吾輩は単に、術のセンスの違いだと考えている。
靖國大佐のように卓越した術師だが、系統立てられた術を、より高度に行使できる人材。吾輩のように新しい術を作る事ができる人材。センス以外の差は、全くないと吾輩は考えている。
「あ、ちょっと待って。思考無線だね。ちょっと無線に出るよ。」
そう言うと軍医殿は思考無線に意識を傾ける。時折独り言を言っているようで、周りから見ると、少し気味が悪い。
短い応対の後に、軍医殿は吾輩に向き直る。どうやら思考無線でのやり取りは、終わったようだ。
「さっきの思考無線だけど、ひとつ面白い事があったよ。」
「面白い事?」
軍医殿の言った面白い事。おそらくろくでもない事だと、吾輩の本能が囁いている。
「泊地島から電波が発信されたんだって。そしてその電波だけど、動画を送信してきたんだって。」
「動画だど。電波で送信してきたのか。」
泊地島から動画の送信。これも泊地島の意思の仕業だろうか。
「上級大尉。中身、気になるよね。」
「それ以前に、不気味さが先に出るな。」
「そんな不気味な動画。ここにあるパソコンから見る事ができるって。」
そんな事を話しながら、軍医殿は問題の動画ファイルにアクセスする。楽しそうに見えるのは、気のせいだろうか。
「この動画ファイルだね。再生するけど、良いかにゃ。」
「よろしく頼む。」
吾輩は怪奇小説のような不気味さを、頭の隅に追いやる。そして問題の動画の視聴を開始した。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は二人と読者の方々は、奇妙な物を目撃する事になるでしょう。
それではまたお会いしましょう。




