表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第五話 泊地島の意思
45/134

第五話 2 軍医が危うい理由

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。

「ああ、ペプーリアだが、自分自身を危険にさらしてるんじゃねえかと、心配していたぜ。」


「具体的には、どう言った内容じゃ。」


 羊羹(ようかん)を食べる手を止めて、浅間中佐が問いただす。


「ペプーリアの危険を買う行動。原因はペプーリアとしての信頼を勝ち取るためじゃねえかって、言っていたぜ。」


「どういう意味だ。」


 靖國(やすくに)大佐は魔法瓶の中身を飲む手を止める。


「どうもペプーリアの野郎。生まれつきのペプーリアじゃねえことを、よっぽど負い目に感じているんじゃねえか。」


「そういえば一七代は、生まれつきのペプーリアじゃないのぉ。」


 ペプーリアは代々生まれつきのアルビノだった。それゆえ時として、神童や現人神として敬われていた。


 しかし一七代ペプーリアは生まれつきでは無い。ペプーリアになった過程は軍機になっているが、元々は腕の良い軍医だったようだ。


「それが無理にでも危険を買うと言う理由か。」


「曽根康の奴はそう言ってたぜ。俺も同意見だ。」



 ◇◇◇



 そこまで言うと、八坂中佐は粉末珈琲を一口啜り、気分を落ち着かせる。


「この帰還作戦が発表された時、真っ先に名乗り出たという話じゃねえか。危険だと承知でだぜ。」


 靖國大佐は思いなおす。今回の帰還作戦は、本国にとっては前人未到の地からの帰還だ。


 黄泉軍の象徴のペプーリアを送る。その行為は泊地島の住人の士気を奮い立たせた。


 しかし、黄泉軍の象徴を危険な任務に就かせることは、普通考えられない。万が一の事が、万が一では無くなるからだ。


「当然、本国でも反対意見が上がったぜ。だけどそれを強引に押し切ったって聞くじゃねえか。」


八ヶ城(やかぎ)様が動いたって話ですね。」


「守護神自ら動いたってと言う話ですね。」


「八ヶ城様の派閥が陣頭に立って、今回の帰還策を指揮しているようじゃな。」


 八ヶ城様とは、黄泉軍の守護神の一柱で、神話の時代より黄泉軍の守護を担っている、八百万の神だ。


 今回の帰還作戦についても八ヶ城派閥が主導して、物資の輸送から本国製の艦の輸送まで機密理に行った。


「ペプーリアの野郎。てめえ自身が出しゃばる事で、帰還作戦の士気を上げやがった。背景には、八ヶ城様がこの件を押し通したようだがな。だけど曽根康の奴、それとは別にペプーリアの野郎、危険を買う姿勢があるって言っていたな。」



◇◇◇



 八坂中佐は説明する。


 靖國上級大尉が懸念を抱いたのは、先の穢れとの対話だった。ただし、漠然とした不安は、軍医が反対を押し切った話と、生まれつきのペプーリアでは無いという話を聞いた時から抱いていた。


 その情報から導いた結論は、軍医は生まれつきのペプーリアでない事に、強い負い目を感じている。そしてペプーリアの尊厳を保つため、無理を引き受ける節があるという結論に至った。


 一部の黄泉軍からは高い支持を得ているが、生まれつきのペプーリアでないため、強い不信感を持っている者も、一定数いる。


 さらに先代までのペプーリアの信仰が、軍医を追い詰めているのではないかと。


 おまけに、先代まで行われていたペプーリアの英才教育も、軍医は受けていない。幸い、軍医自身が有能な人材のため、表立っての問題にはなっていないようだが、一部の不信に拍車をかけている。


 軍医を注視していないと、取り返しのつかない事になるかもしれない。それが靖國上級大尉の懸念だ。


「もっとも曽根康の奴は、自身の気苦労かもしれないと言っていたけどよ、俺はあいつの意見に賛成だな。」



◇◇◇



 そこまで言うと、八坂中佐は粉末珈琲を一気に飲み干す。


 一同はしばし沈黙する。靖國上級大尉から上がった懸念に対して、最悪のケースを考えたからだ。


「現状、一七代が囮役を買って出たが、帰還作戦は我々の問題。頃合いを見て、一七代の敵意を、こちらに向ける必要があるのぉ。」


 浅間中佐は羊羹を一口頬張ってから言う。


「さっきも話題に出たが、一七代の取り扱いを誤れば、帰還作戦の士気にも大きくかかわる。かと言って、今、泊地島の住人に敵意を向けるのも、危険が伴う。」


 浅間中佐は緑茶を飲んで一拍置く。まるでわだかまりを、一杯の緑茶に溶かして飲みこんだようだった。


「多少の備えをする時間が必要じゃな。一部の艦艇の対空砲火じゃが、最適化が終わっておらぬ。しばらくは一七代の策に乗って、時間を稼ぐとするかの。」


 軍医の策に乗って帰還民の危険を回避する。そして準備が整ったら、帰還民に敵意を向けて軍医の負担を減らす。この二つの矛盾する命題に対して、浅間中佐の折衷案(せっちゅうあん)が採用される事になった。



 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は泊地島の存在は、不安を引き起こしているようです。


 それではまたお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ