第五話 1 思考無線会議 泊地島の意思
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。
靖國大佐の航海日誌
一八日目。泊地島との意思と言うべき存在が確認された。その意思は、我々帰還民を取り戻そうと、行動を開始した。
泊地島の意思の正体を置いておいても、対処すべき問題が増えたことに、先の苦労が思いやられる。
◇◇◇
場所は希望の艦長室。靖國大佐は魔法瓶に、粉末珈琲を二人分入れる。次に水を入れて軽くかき混ぜる。粉末珈琲を水で溶かそうとするが、やはり溶け方は良くないようだ。
次に靖國大佐は“湯沸かし”の術を行使する。器用に魔法瓶の中の水だけをお湯に変える。魔法瓶から湯気が立ち上り、珈琲の香りが漂い始める。
もう一度珈琲をかき混ぜる。今度はしっかり溶ける。靖國大佐は一口飲み珈琲を味わう。
本物の珈琲は、粉末珈琲より美味いらしい。一度珈琲豆で淹れた珈琲とやらを、飲んでみたいと思った。
「八坂中佐。思念妨害装置の方はどうなっている。」
靖國大佐は艦長室の席に着く。周りから見ると、珈琲の入った魔法瓶片手に、物思いにふけっているようにしか見えないが、この瞬間も艦隊司令と会議を行っている。
「念力防壁に手を加えれば、問題無く完成するぜ。ちょっと面倒だけど、その方が資材を節約できるぜ。」
八坂中佐は戦闘糧食を机に広げていた。どうやら遅い昼食のようだ。
「改造が済めば、泊地島の声は遮断できるのぉ。」
浅間中佐は緑茶を湯飲みに入れている。机には羊羹も置いてあるようだ。
泊地島の声。これは前回の海戦の前に、泊地島から発せられた声を指す。その正体は“念話”の術と同等のものと判明した。
この不気味な、地獄の亡者のような声を遮断するために、八坂中佐に依頼して対策を任せていた。
「あれから声はないです。ですが、モールス信号で呼びかけは続いています。」
諏訪中佐はコップにお湯を注いでいる。コップの中には紅茶のティーパックが入っている。
「後は実際に改造を施すだけだぜ。それと話は変わるけど、泊地島に対する対策、方針を決めておいた方が良いぜ。」
八坂は野菜のトマト煮を一口食べる。トマト煮の味と匂いが、思考無線を通して情報が伝わってくる。
靖國大佐は思考無線の情報を一部遮断する。味覚と嗅覚の情報は、いささか邪魔に思えたからだ。
「方針と言っても、とりあえずは無視でしょう。間違っても泊地島に戻っての対処は、できません。」
諏訪中佐は紅茶を啜る。本国に帰還している現状、泊地島に戻るという選択肢はない。
「そうなると、対処療法じゃの。穢れを送ってきたらそれを祓う。それが基本方針じゃて。」
そう言うと、浅間中佐は羊羹をひと欠片齧る。
「確かに対処療法になると思うぜ。だが俺が考えているのは、ペプーリアについてだ。あの野郎。事を起こして事後承諾できやがったぜ。」
八坂中佐は野菜のトマト煮を黙々と食べる。
ペプーリア。軍医の愛称でも呼ばれている、第一七代ペプーリア。先の穢れとの戦闘で行われた、穢れとのやり取り。これについては、いささか問題が生じている。
「一七代は泊地島の意思に対して、宣戦布告をしたからのぉ。」
「穢れは、ペプーリア様が我々をたぶらかしていると、考えているようです。これではますます、ペプーリア様が狙われるでしょう。」
諏訪中佐と浅間中佐は揃ってお茶を啜る。
先の戦闘で軍医は、泊地島に対して挑発を行った。これが高官達の悩みの一つになっている。
「だぜ。本人は囮役のつもりだが、これは危険な綱渡りだぜ。」
太いウィンナーを齧りながら八坂中佐が言う。
「戦闘面だけでは無く、政治的な問題でもな。」
魔法瓶に口を付けて靖國大佐が答える。
ペプーリアは黄泉軍の象徴だ。代々英才教育を受け、ペプーリアとして振る舞うように教育される。
「政治的にですか。」
「そうだ。政治的に、だ。黄泉軍の象徴とも言えるペプーリア殿。それが危険の矢面に立っているのが、大問題だ。」
「もし死なせたら、儂らは政治的に、窮地に立たされる事になるのぉ。」
「そうだ。ペプーリアを死なせたら、俺達帰還民は政治的に追い詰める事になるぜ。本国の黄泉軍からの
追求や非難だけじゃねぇが、これで帰還民の立場は一気に悪化する。さらに、帰還作戦はペプーリアが先導してきた。それが死んじまったら、帰還民の士気にも関わってくるぜ。」
そこまで言うとウィンナーを食べ終える。
「そこでお前らに聞きたい。今後泊地島は、ペプーリアを目の敵にしてくるぜ。このままペプーリアの策に乗るか。」
八坂中佐は二本目の封を開けながら訪ねる。
「とは言っても、既に既成事実になっているからのぉ。」
浅間中佐は緑茶を飲み干したのか、湯飲みに新たなお茶を注いでいる。靖國大佐は内心同意する。
「ペプーリア殿については、当面現状のままにする。輸送艦隊に配属しようものなら、非戦闘員が巻き込まれるかもしれない。」
「まあ、それしかねぇな。」
有効打となる答えが見つからず、八坂中佐はしぶしぶ納得する。
「それと言い忘れたぜ。この件について曽根康が懸念していたぜ。」
「曽根康の奴が。」
自分の息子の名前が出てきた靖國大佐は、八坂中佐の話に食らいついた。靖國上級大尉は、よく軍医とコンビを組む。その靖國上級大尉からの意見。ただ事ではないと、靖國大佐の直観が囁いていた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は軍医に対する懸念です。
それではまたお会いしましょう。




