第四話 11 アルビノの囮
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
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「なるほど。祟り神か。」
吾輩と軍医殿、そして淺糟軍曹の三人で一つのテーブルを囲んでいる。これから晩飯を食べるところだ。
「上級大尉。チミ、あれから体調はどうだね。」
軍医殿は“二回行動の秘術”の後遺症について訊ねる。
「あまり良くないな。霊薬で誤魔化している。もし酷いようなら、改めて言う。
」
「分かったにょ。あまり無理しちゃだめだよ。」
“二回行動の秘術”は副作用の出る術だ。開発者本人である吾輩も、その点は自覚している。
副作用の話はこのくらいにして、晩飯に戻るか。
今日の晩飯は戦闘糧食三〇号 フィッシュチップス・サンドセットだ。
フィッシュチップス・サンドだ。パンズ、白身魚、パンズ、白身魚、そしてパンズ。白身魚を揚げた物が二枚挟まっている、豪華なサンドだ。それにコールスローサラダとポテト、それに粉末珈琲が付く。
『ナウなヤングのハートをズキューン』が宣伝文句だが、今、若い心にズキューン。ズキューンは銃声の擬音語だから撃ち抜くか。そう考えるとハートは心臓の事だろうか。
意味不明な宣伝文句を考察しながら、サンドとポテトを、“湯沸かし”の術で温める。
サンドの封を開けて取り出すと、揚げ物とタルタルソースの香りがあふれ出した。手に取ってみようかと思ったが、“湯沸かし”の術のせいで熱かった。
「あの。僕はここで聞いても良いのでしょうか。」
淺糟軍曹は居心地が悪そうにしている。吾輩と軍医殿とは違って、一人だけ下士官だ。余計な気を使っているのだろう。
「それなら問題無いにょ。祟り神については公にするよ。」
「そうですか。」
ポテトをガツガツと食べながら、軍医殿は答える。一方淺糟軍曹は、コールスローサラダに口を付けずに話を聞く。
吾輩は二人のやり取りを横目に、サンドを一口齧る。タルタルソースの香りが舌と鼻を刺激する。白身魚に合うその味は上々だ。だが、パンズも温めたのは失敗だったようだ。
「ところで軍医殿。一つ確認したい。」
「何じゃらほい。」
吾輩の問いかけに、軍医殿は口にしかけたコールスローサラダを、ひとまず置く。
「軍医殿。お前さん、穢れとのやり取りがあったようだな。」
「そう言えばあったかにゃ。」
「とぼけるな。艦外知覚装置で、しっかり聞いていたぞ。」
軍医殿はとぼけると、コールスローサラダサラダを一口頬張る。淺糟軍曹は吾輩達を見守りながら、コールスローサラダを黙々と食べる。
「穢れとのやり取りで、泊地島の住民を新天地に連れて行くと、挑発していただろう。どういう意味だ。」
そう言うと吾輩は、ポテトを一本齧る。ふむ。確かにジャガイモの味だ。塩加減がジャガイモの味を引き立てる。
「もへへ。その話は難しい話かにゃ。」
そう言うと軍医殿は、サンドを一口齧る。
「淺糟君。心理戦って知っている。」
「言葉の意味は分かります。」
淺糟軍曹は、サンドを食べようとした手を止めて、軍医の質問に答える。
「そ。それで十分だよ。で、ボクは祟り神に対して、心理戦を仕掛けたんだよ。」
心理戦はどういう事だろうか。吾輩はコールスローサラダを一口食べる。新鮮な野菜が噛み砕かれて、シャキシャキと音をたてる。ドレッシングが少し甘いのは、砂糖でも入っているからだろうか。
「具体的には、祟り神の信じたい事を確信に変えた、と言った所だねぇ。」
「信じたい事、ですか。」
半分欠けたサンドを片手に、淺糟軍曹は相槌を打つ。
「ま、早い話。ボクが囮役だね。」
「囮役だと。それはどういう事だ。」
◇◇◇
「ボク達。正確には第一探査艦隊だね。過去に三回穢れとの戦闘に参加したね。その時、『ボクが乗っている艦』が集中砲火に合っていたんだよね。」
吾輩は軍医殿に言われて思い出した。言われてみると確かに軍医殿の言っているとおりだ。
「多分、ボクは祟り神の殺害名簿の中では一番目だろうね。天の火じゃなくて『ボクが乗った艦』に攻撃が集中した理由も、そのあたりだろうね。
「なるほど。それが『祟り神の信じたい事』という訳だな。囮役を軍医殿一人で背負い込むのは、荷が重いと思うぞ。」
「ま、そのあたりは、チミ達の力を借りたいね。そしてここからが重要だけどねぇ。」
そこまで言うと、軍医殿は粉末珈琲を一口飲む。
「できる限り、ボクが悪役と言う事にしようと思うんだ。」
「その理由はなんだ。」
吾輩は、食べ終えたポテトの空袋を握りつぶす。
「簡単に言うとね。泊地島の同胞に、敵意が向かわないようにするためだね。短い会話だっだけど、ボクが泊地島の住人を惑わしていると、誤解しているみたいだからね。」
軍医殿はコールスローサラダを一気の口に流し込む。それを珈琲で流し込んで話を続ける。
「とりあえず当面は、そのシナリオで行くよ。少しでも泊地島出身者の被害を、抑えるためにね。そう言う事だから、第一探査艦隊の危険度は大幅に上昇するね。だから有事の際は、一段と気を引き締めてね。」
「軍医様。それはあまりにも危険です。」
淺糟軍曹は心配そうに軍医を見ている。
軍医殿はポテトの袋を掴んで、一言付け加える。
「確かに危険だね。けどこの件は艦隊会議でも承認済みだよ。」
祟り神に対して矢面に立つ。アルビノの軍医殿は、さぞ目立つ事だろう。
そんな悪い冗談を頭の隅に追いやり、自身を危険にさらす軍医殿に対して、吾輩はある種の危うさを感じた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は一話分お休みを頂き、7月28日の投稿になります。
次回から新しい章に移ります。さっそく上層部が、囮役の軍医に頭を悩ましています。
それではまたお会いしましょう。




