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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第一話 靖國帰還艦隊
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第一話 3 双胴戦艦の初陣

 当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。


この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。


「艦長。(けが)れと接触します。」


 唯乃(ただの)副長の報告を受け、靖國(やすくに)大佐は艦外知覚装置で確認する。はるか前方では、どす黒い赤の(かすみ)が固まり、形を成していく姿が見える。


「穢れが顕在化するぞ。戦闘用意。念力防壁展開。」


 忘却の川の彼方の穢れが、その姿を現す。その姿形は軍艦だった。そしてその艦影は、見覚えのある巡洋艦だった。


 一四〇ミリ三連装砲塔五基。その巡洋艦の艦影は、まぎれもなく友軍艦艇の巡洋艦だった。


「穢れ顕在化しました。我が艦隊の神坐(かみざ)型巡洋艦と同型です。九時、十二時、三時の方向に出現。」


「神坐型巡洋艦が三隻。友軍艦艇の形を模しているとは。いかがいたしますか。」


 靖國大佐は思案する。友軍艦艇の形を模すのだろうか。そんな疑問が浮かんだ。まるで狸に化かされたようだとも感じた。


「友軍の神坐型巡洋艦は、まだ忘却の川に侵入していないな。」


「はい。まだ泊地島(はくちとう)にいます。」


 靖國大佐は念を押すように確認する。


「そうなるとあれは穢れた幽霊船だ。幽霊船の姿形に惑わされるな。臆していると、穢れに飲み込まれるぞ。」


 敵巡洋艦はこちらに向かってくる。船体は穢れで覆われていて、禍々しい瘴気(しょうき)を発生させている。


 靖國大佐は思考無線越しで、視認された画像を確認する。艦のいたるところに、人魂が浮遊している。これは穢れの中でも、幽霊船の類である事は間違いなかった。


 泊地島でも幽霊船の撃退例はいくつもある。幽霊船に対しては、穢れ払いの曳光弾(えいこうだん)が有効だ。


 この戦艦での実戦経験はない。だが、この艦で演習を十分に行ってきた。後は実戦経験を積めば、一人前の戦艦になる。


「副長。敵は三方向から攻撃してくる。副長はどう思う。」


 靖國大佐は唯乃副長に意見を聞く。この場合、確認の方が正しい。


「そうですね。袋叩きにされる理由はありません。各個撃破が良いでしょう。」


「そうだな。私も同意見だ。」


 靖國大佐は目を閉じ、軽く深呼吸をする。精神を落ち着かせ、頭の切り替えを迅速に済ませる。


「全速前進。両舷砲撃戦準備。」


 一拍の間を置き命令を続ける。


「全主砲、穢れ払いの曳光弾を装填。一番、二番、四番、五番、主砲は、目標は十二時の巡洋艦だ。三番と六番は砲撃準備。指示があるまで待機しろ。副砲と高角砲、機銃は対空戦闘用意。誘導弾の迎撃を優先せよ。」


 靖國大佐は指示を飛ばし終えて深呼吸をする。見覚えのある巡洋艦なら、対艦誘導弾を装備しているはずだと考える。


「巡洋艦。誘導噴進弾(ふんしんだん)を発射。弾数四十八。音速の倍の速度で、本艦に向かってきます。」


「魚雷発射管の数も同じでしょう。良く再現されているな。」


 神坐型巡洋艦の魚雷発射管は四×四の一六。魚雷発射管から噴新誘導弾を発射する。そしてそれが三隻で四八。理由は知らないが、原型となった艦に忠実だ。


 船務長の観測結果で、誘導弾の速度まで再現されている。


 しかしこれは、何を意味するのだろう。靖國大佐は浮かんだ雑念を一瞬で払う。


「副砲、高角砲、機銃。迎撃開始。」


 靖國大佐が指示を飛ばすと同時に、砲雷長が具体的な指示を、思考無線で飛ばす。砲雷長が瞬時に優先目標の選定を行う。


 全ての砲は、理力(りりょく)砲と呼ばれている。威力のある実弾と、弾速の早い破壊光線の両用砲だった。


 口径の大きい副砲が、最初に誘導弾を迎撃する。一四〇ミリ三連装砲八基が、鋭い破壊光線を放つ。順次誘導弾を撃墜する。続けて七六・二ミリ連装高角砲十六基が、副砲に加勢して、細い破壊光線を吐き出す。


 副砲と高角砲の洗礼をかいくぐった誘導弾。今度は数多の機銃の歓迎を受ける。


 各機銃座から針のような破壊光線が、目にもとまらぬ速さで発せられる。まるで細長い針金のように見える。


 数多の破壊光線を艦の中から知覚しながら、靖國大佐は思う。この艦の迎撃能力は最適化されていない。訓練でも撃ち漏らしがあって完璧ではない、と。


 一機、また一機と誘導弾を迎撃する。それでも一発の誘導弾が希望に接触する。


 直後大爆発を起こし、誘導弾はその役割を終える。ご丁寧な事に、その破壊力まで忠実に再現していた。


 爆炎が収まり視界が晴れる。そこにはまるで何事も無かったかのように、双胴(そうどう)戦艦が平然と浮かんでいた。


「念力防壁、正常に稼働。船体に損害無し。」


「どうやらバリアとやらは、実戦でも効果があるようだな。」


 靖國大佐は唯乃副長の報告を聞きながら、念力防壁の耐久力を確認する。


 残り耐久力九割五分。この見えない壁は、誘導弾を二〇発耐える事ができる計算だ。


「全ての誘導弾、消滅しました。」


「ご苦労。これより反撃を開始するぞ。」



◇◇◇



 誘導弾の歓迎会が終わった直後、主砲の射程内に巡洋艦を捕らえる。ちょうど正面の位置だ。


「全主砲。射撃準備よし。」


 主砲の準備が整った直後、巡洋艦が射程圏内に入った。


「主砲。敵巡洋艦を捕捉。射程圏内です。」


「主砲。撃て。」


 四六〇ミリ三連装砲四基の一斉射。一二発の穢れ払いの曳光弾が、青白い光を発して弧を描きながら飛翔する。


 三、二、一。曳光弾が巡洋艦の至近に到達すると、激しい光と共に炸裂した。炸裂した曳光弾は、穢れを浄化させる。


 巡洋艦の各所から、青白い炎の出火を起こす。炎は瞬く間に巡洋艦を覆う。敵巡洋艦は穢れの灰と化して、灰塵は忘却の川の底へ沈んでいった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回も戦闘の続きです。


 それではまたお会いしましょう。 

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