第四話 4 泊地島の声
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。
「もへへ。天の火の艦内も久しぶりだねぇ。」
第一探査艦隊は本隊の指示を受け、帰還艦隊後方の探査を行っている。吾輩は軍医殿の付き添いで、天の火に同行している。
先の海戦で行使した、“二回行動の秘術”の後遺症で、過度な疲労感が体を襲った。今は栄養剤と疲労回復の霊薬で、無理に誤魔化している。
輸送艦艦隊が感知した泊地島の気配。それを確認するために、天の火を派遣する事になった。
銀山は現在修理中だ。今頃工作艦泊地富士の能力を総動員して、修理しているだろう。
「で、淺糟軍曹。お前さんは何故ここに居る。」
「軍医様の言いつけです。武装して同行しろと言われました。理由は、軍医様の護衛のようですが。」
淺糟軍曹はばつが悪そうな表情をしている。それもそうだ。淺糟軍曹の居場所は、今の天の火には無い。
「もへへ。上級大尉。チミの助手だよ。必要なら使いたまえ。淺糟軍曹にも摩訶不思議装置の使い方、見ておいてほしいからね。実地演習だよ。師匠君。」
「・・・分かった。」
軍医殿の意図は分かったから、反論する動機もない。
「司令官。泊地島のラジオ局の周波数で、電波が発信されています。」
「副長。じゃなくて艦長。多次元度数分析器の感度を、最大にして。」
「了解しました。」
天の火の艦長が部下に指示する横で、軍医殿は突然指を鳴らす。
「上級大尉。チミ、何か調べる術で、靖國領を探知できないかなぁ。」
「無理だ。探知距離だが、見当がつかないほど遠い。」
吾輩は軍医殿の安直な意見を退けるが、それでも軍医殿は食い下がる。
「摩訶不思議装置を使えば、術の拡大はできるんだよね。天の火も改装で取り付けてあるよ。それで物探しや人探し。そんな術で、靖國領の感知はできないかなぁ。」
なるほど、そう来たか。たしかにそれなら、探知距離は格段に伸びる。それでも探知できる保証はないが。
「確約はできないが、試すだけならできるぞ。“物探し“の術で、泊地島に置いてきた刀の探知してみる。」
「それでいいよ。とにかくお願いするよ。」
吾輩は端末の錫杖を、天の火の艦長から借りる。
そしてありったけの理力を込め、物探しの術を行使する。方位はラジオ局の電波の発信源。距離は分からないから、とにかく遠くだ。
吾輩は術を行使して、泊地島に置いてきた刀の探知を試みる。
意識の一部が虚空の忘却の川を下る。遠く、遠く意識を飛ばす。摩訶不思議装置で増幅された術は、吾輩が知覚した事の無いほどの長距離を行く。
どのくらい遠くだろうか。泊地島にある刀を知覚した。距離はあまりにも遠く、正確な距離が分からないほどだ。
その直後、何かに掴まれるような錯覚を覚える。術の逆探知に引っかかった時の、独特の感覚だ。
「軍医殿、逆探知に引っかかった。」
「全速力で大至急、本隊に合流する。当海域を離脱する。一目散で逃げるんだ。」
「面舵一杯。全速前進。」
天の火の戦闘指揮所は、軍医様の号令で緊張に支配される。
天の火は急回頭し海域を離れようとする。その時、頭の中に声が響く。念話特有の、頭の中に響く声だ。
《我が民よ。帰ってこい。泊地島に、帰ってこい。》
その声は、地獄から響いてくるような亡者の声だった。この世のものとは思えぬ声に、吾輩は冷や汗を絞り出された錯覚を感じた。
「司令官。電波発信減より、精神波が発せられました。」
「軍医殿。声が聞こえたか。念話の声だ」
「何の事。ボクには聞こえなかったよ。」
「僕にも聞こえませんでした。」
吾輩は戦闘指揮所を見回す。他の者は忠実に任務に従事している。その様子から察するに、吾輩にしかこの声が聞こえていないのだろうか。
「分かった。こっちは逃げ帰っている途中だよ。」
軍医殿は思考無線で連絡を取っているのだろうか。そんな事を考えていると、軍医殿は吾輩の方に向き直る。
「上級大尉。さっきの念話の声だけど、本隊で確認したみたいだよ。」
「本隊で確認したのか。」
「そうだよ。『泊地島に、帰ってこい。』って言う内容だよ。チミも同じかね。」
「間違いない。吾輩も同じ内容だった。」
《我が民よ。帰ってこい。泊地島に、帰ってこい。》
再び念話が飛ぶ。亡者の声が吾輩達を追ってきている。そんな錯覚を覚える声だ。
「司令官。まもなく当海域を離脱します。」
「わかったよ。そのまま尻尾を巻いて逃げるんだ。」
「司令官。多次元度数分析器の結果が出てきました。」
船務長の報告が上がる。その報告に軍医殿は船務長の席に向かう。
「どうだった。」
「靖國領の存在を確認しました。はるかに遠くで、詳細は不明です。ですが出発地点より、はるかに近い位置です。」
船務長の報告は、吾輩達を困惑させる。まるで三流怪奇小説の中に入り込む、そんな錯覚を覚えた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は作戦会議の続きになります。
それではまたお会いしましょう。




