第三話 10 迷宮改造の大詰め
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
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靖國大佐は建造中の迷宮の資料を眺める。枯山水に卑猥な女神像。そして決戦場。靖國大佐は、靖國上級大尉の感覚を疑った。もっとも本人のあずかり知らずのため、完全にとばっちりの話だ。
靖國大佐は個人的な美的感覚には目を瞑り、細部を詰める。脱出を確実にするために、いくつか指示を加えた。
そしてそれを思考無線で八坂中佐に送る。細部を詰めた部分の検証のためだ。
「なんだこれは。」
八坂中佐の第一声がこれだ。これは何について言ったのだろうか。
「この迷宮の主題が分からないぜ。どうしたらこんな混沌じみたのになるんだ。」
「迷宮の趣味は置いておこう。細部を詰めてみたが、お前さんの意見を聞きたい。」
八坂中佐はちらし寿司を食べながら答える。どうも食事中だったようだ。
「特に問題はないぜ。で、この迷宮。いつ出来上がるんだ。」
「現地時間で五日後だ。こちらでは四時間くらいだ。」
「そうか。それなら今すぐに送ろうぜ。」
八坂中佐の意見を確認すると、靖國大佐は思考無線を用いて、通信士に転送の指示する。
「それと特異点の崩壊させるときに、外部から理力を送る案を、再考したのだが…。」
「そいつは要らねえんじゃねえか。」
靖國大佐の提案を八坂中佐が拒否する。ちらし寿司を早々に食べ終える。食べるのが速い男だと靖國大佐は思った。
「この迷宮だと特異点の中心で、起爆を行わなければならない。誰かが起動させる必要がある。」
「それで危険が伴うって話だろう。外から理力を送るのも似たようなもんだぜ。」
靖國大佐も双方の危険性を天秤にかけていた。この迷宮は思いのほか繊細だ。外から理力を注入すると、迷宮が暴発する恐れがある。
「それによぉ。外からの理力が必要なら、現時点で要請があるはずだぜ。」
八坂中佐の意見はもっともだった。
「とにかく、現場の連中に任せようぜ。なるようになると思うぜ。」
「分かった。お前さんがそう言うなら、現場の判断に任せよう。」
結局、八坂中佐の意見に押し切られる形で、靖國大佐は自身の不安をひっこめた。
◇◇◇
翌日、吾輩は理力の炎で埴輪を焼く。じっくりと焼く。焼いている間に、魔方陣を描き上げる。そして焼き上がった埴輪に“自立人形”の術を行使する。
次に“硬化”の術を行使して、埴輪の強度を高める。
調整の終えた埴輪を迷宮に連れてくる。そこでは機関科の一同が、図面片手に魔方陣や呪文を書いている。その中央には呪文集大書。それを始点にして描き上げる魔方陣は、回路基板の配線を連想させる。
「艦長。その埴輪が『ラスボス』と言う物ですか。」
機関長が魔方陣を書きながら問う。
「『ラスボス』と言う物にふさわしい物かは知らないが、こいつがこの迷宮の最後の部品だ。」
吾輩は埴輪を操作し、所定の位置に配置する。
「さてと。機関長。吾輩も手伝うぞ。図面を見せてくれ。」
「お願いします。図面はこちらです。」
そう言って機関長から図面を受け取る。その図面はとても分かりやすく、丁寧に書かれていた。
「この図面。機関長が描いたのか。とても見やすい図面だ。」
「ありがとうございます。」
機関長は丁寧な魔方陣を描きながら答える。吾輩は呪文を書き始める。
「やはり機関長にはかなわないな。」
「ご謙遜を。術と理力工学の腕も、艦長が上でしょう。」
機関長の言葉に、吾輩は呪文を書きながら首を振るう。
「いいや。術や理力工学の腕が上でも、多人数の作業のほうが、術の効率も作業速度も上だ。だから見やすい図面は、個人の術の腕よりも価値がある。」
そして書き上げた呪文に、理力を吹き込んで話を続ける。
「それを分かっていない独りよがりが、結構多いんだ。確かに術の実力は、個人の素質に左右されるがな。」
吾輩の頭の中に、頭でっかち共の顔が思い浮かぶ。奴らの陰口を思い出す。嫌な思い出だ。吾輩はそれ
らの雑念を払うように、作業に没頭した。
◇◇◇
「魔方陣、描き終えました。」
「お疲れさん。」
吾輩が作業に参加して一時間。魔方陣と呪文を描き終えた。
「さてと。これで後三日間、熟成させるだけだ。だが機関長、少し良いか。」
「何でしょう。」
「最後に特異点の起動を確実にするために、少し手を加えたい。」
機関長が描いた図面は完璧だと思うが、念には念を入れてだ。
「理力は十分。理力を集約させる呪文集大書と魔方陣も、役割を果たすだろう。しかし迷宮の起動の部分に、不安が残る。機械的な切り替え装置を使っているが、そこを確実なものにしたい。」
「具体的にはどうしますか。」
吾輩は機関長の疑問に対して、吾輩は銃を取り出す。燧石式の銃。俗に言うフリントロックガンと呼ばれる、旧式の銃だ。
「こいつを使おうと思う。起動に際して、刺激は強い方が良い。」
吾輩は機関長に詳細を説明する。
魔法陣は理力を込めて起動させるが、機械的な切り替え装置では、起動の際に不発が生じるかもしれない。
それならば、銃を使って弾丸を撃ち出す物にする、理力を力強く撃ち出すことがで、迷宮を確実に起動できる。これは物理的な物では無く、概念的な物だ。術の行使は時として、概念的な物が物を言う時がある。
「弾丸で理力の塊を撃ち出せば、迷宮は力強く起動するだろう。」
「しかしその銃。艦長の特注品でしょう。見たところ、いくつもの術が付与されています。起動装置に組み込む場合、その銃も迷宮の一部になります。よろしいのですか。」
機関長が気遣う。確かにこの銃は、吾輩の術が付与してある。そして起動装置に組み込むと、銃を手放す事にもなる。
「問題無い。今愛用している銃は別にある。それにこの旧式の銃は、既に使い潰している。起動装置にして手放すのも、良いかもしれない。」
「艦長さそうおっしゃるのであれば、その銃を使いましょう。」
機関長は図面を確認しながら答える。
「艦長。起動させた後の離脱はどうしますか。もたついていると、時空の歪みに飲み込まれるかもしれません。」
「それなら、軍医殿の戦闘機を使わせてもらおうと思う。戦闘機を離発着させる空間は・・・必要ないか。ホバリングとやらができるらしいからな。」
機関長は数秒思案して答える。
「分かりました。艦長の案で行きましょう。」
「ありがとう。それじゃあ、弾と火薬入った箱も配置するから、それを考慮して、起動部分の書き直しをしてくれ。吾輩は起動用の弾と火薬を作成する。」
「了解しました。」
吾輩は機関長達の仕事ぶりに期待し、その場を後にした。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は、迷宮を起動させます。
それではまたお会いしましょう。




