表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第一話 靖國帰還艦隊
3/134

第一話 2 殿(しんがり)から見た出港状況

 当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。


この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。


 靖國(やすくに)上級大尉の航海日誌


 第一日目。帰還作戦開始早々に、(けが)れの大量発生を確認。対応の指示を受けようとしたところ、旗艦が単独で対処。

 迅速に対応するのは良いが、艦隊司令の腰の軽さに、一抹の不安をおぼえる。



◇◇◇



 泊地島(はくちとう)近海。友軍が次々と泊地島から脱出している艦を、見守っている艦がある。


 銀山と呼ばれている巡洋艦。予定では殿(しんがり)を務める事になっている。


 そして銀山の戦闘指揮所で、友軍を見守る人物がいる。


 ヴィガージャ種と呼ばれる、毛皮に覆われた黄泉軍(よもついくさ)の一人だ。


 艦長席にどっしりと座る人物。分厚い魔法銀でできた重装な皮鎧の姿だ。


 膝の上にはバイザーの付いた兜。鎧とセットで気密服も兼ねる。艦長席の背後には、宝石の塊のような盾が、場違いな存在感を発している。


 盾の裏側には、回転式拳銃と錫杖が取り付けられている。拳銃は他のどの拳銃より大きく、錫杖(しゃくじょう)は装飾に不似合いな細かい傷がついている。


 本人曰く、装備の装着に時間がかかるため、艦橋内に持ち込んでいるとのこと。


 この重装備で、一人だけ浮いている、いや重装でいかにも重たそうな装備だから、沈んでいると形容したほうが良いだろうか。そんな風に形容する人物が、艦長の靖國上級大尉である。



◇◇◇



「なあ。うちの艦長、本当に大丈夫か。」


「何がだ。」


 新任の船務長が航海長にひそひそ声で尋ねる。声を潜めているようだが、吾輩(わがはい)に筒抜けだ。


「うちの艦長、靖國大佐の息子だから艦長やっているんじゃねえか。」


「ああ、親の七光りか。」


 またこの手の話か。吾輩は聞こえないふりをして、二人の会話に聞き耳を立てる。


 砲雷長を兼任する副長が止めに入ろうとする。しかし吾輩は手で制して、しばし二人の雑談に耳を傾ける。


「靖國大佐は優秀らしいけど、そのバカ息子が優秀とは、限らねえぞ。」


「そうか。訓練を見ている限り、特に気にならなかったけどな。」


 新任の船務長は、本日付で銀山に配属された新任船務長だ。先任の船務長は強行的な泊地島残留派だった。今頃見送りでもしているだろうか。


 吾輩は思考無線(しこうむせん)越しに観測機器を監視する。思考無線を通して、情報が直接頭の中に入ってくる。本来は船務長の仕事だが、なんとなく気になったから情報に触れる。


 レーダーやソナーなどの機械的な物から、理力感知や穢れ感知など観測員が感知するものまで、様々な情報が存在する。


 数多の情報の中で、観測員の一人からの報告が入る。


「微弱な穢れを感知しました。思考無線で情報を送ります。」


 吾輩は船務長の方を見る。観測員の報告に気づかず、航海長との無駄話を続けている。


「船務長。穢れの報告が入っているぞ。とっとと分析しないか。お前の仕事だろう。」


 吾輩はわざと声を荒げる。


「え、あ、あ、す、すいません。」


「船務長。仕事をしながら聞け。」


「は、はい。」


 船務長は穢れの情報を集める。他の観測員からも、思考無線越しに穢れの報告が入ってくる。


「吾輩は吾輩の陰口を禁ずるつもりはない。その代わり…。」


 吾輩はわざと一拍置いてから発言を続ける。


「陰口を叩くからには、それ相応の仕事をしてもらうからな。分かったな。船務長。」


「は、はい。」


 船務長は慌てて情報を集めて総合する。その情報処理を見守りながら、吾輩は一抹の不安をおぼえた。


「泊地島の全体で、微弱な穢れが発生。」


 船務長から正式な報告だ。吾輩達を含め、戦闘指揮所の一同に緊張が走った。


「穢れの出現位置は分かるか。」


 吾輩は定型文のような確認を行う。場合によっては、脱出する僚艦の援護に移ることも、考えなければならない。


「泊地島の外です。」


「艦隊の集合位置か。」


「いいえ。艦隊前方の航路上です。」


 船務長は正確な情報を提示して、穢れの発生位置を報告する。吾輩は思考無線でこれらの情報に触れる。


「もへへ。上級大尉。これは奇妙だねぇ。」


 吾輩は横の席、正確には左側の席に座る人物の方を見る。そこには軍医の服に身を包む少佐が据わる。


 黄泉軍唯一のアルビノ種で真珠を溶かしたような毛皮が特徴だ。少佐は第一七代ペプーリアと呼ばれている。黄泉軍の象徴となる人物だ。もっとも吾輩も含めて他の者は、軍医やペプーリア様と、好き勝手に呼んでいる。


 現在は第一探査艦隊の司令官として、分艦隊の一つを指揮する艦隊司令官だ。早い話、吾輩の上司だ。


 帰還艦隊は大佐が艦隊司令を務める。それ以下の分艦隊を中佐や少佐がその任に当たっている。


「軍医殿。それはどういう事だ。」


「出向前の観測だと、穢れは一切なかったよ。脱出が始まったころ合いで出現する穢れ。何か意図的な物を感じるね。」


 軍医は火のついていない葉巻を咥える。そして煙を吹かすふりをする。


 言われてみると、確かに時期が絶妙だ。だが偶然と言う線も捨てきれない。


「旗艦より入電。我、穢れを観測。これよりこれを排除する。他の艦は警戒されたし。」


「どうやら一足遅かったな。」


 報告を上げようと思ったが、旗艦が先に動いたようだな。


「穢れの発生源について、もう少し細かく分かるか。」


 そうなると吾輩達にできる事は、穢れについて調べる事だ。さし当たっては、発生源について詳しく分かればと思う。


「分かりません。泊地島全体から穢れが発生しています。」


 吾輩は拳を顎に当てて思案する。船務長の整理した情報を思考無線で確認する。それらの情報でも位置の特定は確認できない。


「全艦隊、顕在化する穢れに注意してね。」


 軍医殿の言った通り警戒するしかない。これが吾輩の結論だ。手の届くところで穢れが顕在化するのであれば、急行して対応できるようにしよう。



 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は、穢れと対峙する事になります。


 それではまたお会いしましょう。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ