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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第三話 銀山遭難
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第三話 8 良い趣味だな

当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。


この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。


「なんだこれは」


 吾輩(わがはい)は建築物を見て、目を疑って絶句した。


 様々な色を用いて、まだら模様に塗装された建物。ペンキはどこかにあったのだろうか。そして木材でできた鎖や、木の枝をまとめた束で飾り付けてある。控えめに言って悪趣味だろう。


 そして悪趣味とは裏腹に、理力(りりょく)は十分に込められているようだ。塗装と飾りつけは、ちょっとした魔方陣になっているようだ。


「もへへ。上級大尉。迷宮の飾りつけはどうだ。」


 軍医殿は吾輩を見るなり大声を上げる。第一声がこれだ。少し気分が高揚しているように見えた。


随分(ずいぶん)派手だな。」


「かっくいいだろう!」


 軍医殿は大威張(おおいば)りで答える。やはり軍医殿の気分は、高揚しているのだろう。


「いい趣味だな。」


「上級大尉もそう思うかにぇ。」


 皮肉を華麗(かれい)にかわされる。今の状況では、何を言っても無駄だと思った。


「ささ。中を見ればもっと気にいるじょ。さあ、ご案なぁい。」


 吾輩は軍医殿に連れられ、建物の中に入っていく。



◇◇◇



「なんだこれは。」


 建物に入って、再び目を疑った。


 一階の敷地は壁が取り払われて、樹木を模した木の柱が数本立っている。おそらく中身コンクリートの柱で、表面を木の板で彫刻した物を張っているのだろう。


 柱の補強はどうしたのだろうか。砕いたコンクリートをもう一度固めたのだろうか。そんな事を考えながら、一階を見渡す。


 間取りは広いが、一階の大部分を枯山水(かれさんすい)が占めていた。次の階に行く階段を残して、綺麗な枯山水の世界が造られていた。


 そして注意を引いた事は、ただの枯山水では事だ。


 枯山水の下に、強い理力を感じる。恐らく魔方陣か呪文が、びっしりと書かれているのだろう。


 吾輩は目を閉じる。そこには水と緑の力を感じた。草のこすれる音。川のせせらぎが聞こえてきそうだ。それだけ精工な物だと、簡単に理解できる。


「この枯山水。誰の仕業だ。」


「私達です。いかがですか。艦長。」


 背中から声が聞こえる。吾輩は振り向くと、そこには一人のヴィガージャが立っていた。吾輩と同い年の機関長だ。


「ああ、機関長か。私達と言うと…。」


「はい。機関科一同で製作しました。」


 機関長が敬礼して答える。その顔は大仕事を終えたかのように、とてもすがすがしい表情だった。


「水と緑の理力を感じる。枯山水のセンスもとても良い。実にいい趣味だな。」


 吾輩は素直な感想を述べる。


「ありがとうございます。」


 機関長は再び敬礼をする。仕事だけでなく趣味でもいい仕事をするのか。そんな考えが脳裏をよぎった。


「靖國上級大尉。これだけじゃないぞ。他にも良い物が、チミを待っているぞ。」


 そういう軍医殿に連れられ、吾輩は二階に上る。



◇◇◇



「次の階だけけど、まだ完成して…もへ。」


「すいません。通して下さい。」


 軍医殿は会話と中断させる。吾輩は振り向くと、三人の男が黒い像を運んでいる。


「もへへ。どうやら完成したみたいだね。ちょっと覗いてみよう。」


 軍医殿は二階に上がる。


 階段は二階までで終わっていた。本来はもっと続いていたのだろうが、改装工事で取り除いたのだろう。二階から上の階に行くには、別の階段を通るのだろう。


 二階は大きな部屋になっている。壁際には所せましと土偶(どぐう)が配置されている。


 吾輩は部屋を見渡す。床には発光する魔法陣と呪文が、所せましと書かれている。


 天上を支える柱は墨で黒く塗られ、トンボ玉で飾り付けられている。


 中央の大きな魔方陣。そして囲むように埋められている、一二個の理力のトンボ玉。それぞれが違う色の光を発している。他にも、別の小さな魔方陣の上に、破廉恥(はれんち)な木像が置かれている。


 そして今、中央の魔方陣に一体の像が取り付けられている。その像は黒鉛のように黒い。形状は、豊麗(ほうれい)(なま)めかしい姿の女性像だ。そして何故か、下着のような物が着せられている。


「なんだこれは。」


 吾輩はかろうじて言葉を出した。本来ならもう少し、気の利いた言葉を言うべきところだろうと、内心思っていた。


「これは豊穣(ほうじょう)の女神像です。」


 吾輩の声に答える形で、設置していた者の一人が、誇らしく答える。階級は伍長のようだ。


「伍長。確かに豊満(ほうまん)だが、姿勢がどうもな。」


「実に良い恰好(かっこう)でしょう。」


「うむ。すんばらしい。」


 軍医殿が感嘆の声を上げる。良いか悪いかは別にして、これは卑猥(ひわい)だと吾輩は思う。


「じっくりとご覧になりますか。」


 いくら彫像とは言え、豊麗な体をじっくりと見ろと言うのか。この伍長は。


「いや、十分だ。」


「肌もちゃんと磨きこんでいますよ。」


「十分だ。」


 吾輩は大きなため息をつく。そして思わず思った事が、すぐ口に出てしまう。


「ところで彫像に、何故下着を付けさせているのだ。」


 質問を止めればいいと思ったのは、この台詞を口にした直後だった。


「よくぞ聞いてくださいました。艦長。」


 そう言うと伍長は、目を輝かせている。その後ろでは、設置作業していた伍長の部下が、大きな欠伸(くっしん)をする。よく見ると伍長とは対照的に、とても眠たそうな目をしている。


「この下着を()ぐと、なんとこの女神像の怒りに触れるのです。」


 女の下着を剥ぐとのは不味いだろう。


「下着を剥ぐと女神像が燃え出して、火傷を負う事でしょう。」


「その女神像は燃えるのか。」


「はい。良質の石炭でできています。」


 一瞬耳を疑ったがすぐに気が付いた。 “石炭化”の術を行使すれば、木材から良質な石炭を確保できる。


「一応確認するが、何故女神像が燃えるのだ。」


「迷宮には罠がつきもの。そうだよね。伍長君。」


「その通りでございます。さすがペプーリア様です。」


 妙に高揚した調子で笑いだす二人。吾輩は伍長の部下に目を向ける。伍長の部下は疲れた表情でため息をした。


「下着をずらすだけなら大丈夫です。ご覧になりますか。」


 そう言うと伍長は女神像の下着を、ずらそうとする。


「止めんか。まったく。艶めかしい女神像と言い、燃え上がる罠と言い、いい趣味だな。」


「ありがとうございます。」


 伍長の感謝の言葉に、一瞬の沈黙が訪れる。


 吾輩は大きなため息をつく。皮肉をかわされたか、それとも皮肉が通じなかったか。恐らく後者だろう。


 吾輩はもう一度大きなため息をつき、(あや)しい部屋を後にした。


「次は三階だけど、これもなかなかの力作だよ。」


 吾輩はため息をつく。もうお腹いっぱいの気分だったが、まだ甘味が残っていたようだ。吾輩は胃が持たれるような錯覚を覚えながら、三階に上がる。


「建物の悪趣味な塗装と枯山水。おまけに卑猥な像。趣味が丸出しじゃないか。」


 連日の苦労に対して失礼と思いつつ、吾輩は愚痴(ぐち)をこぼしてしまった。



 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は、迷宮の紹介の続きになります。


 それではまたお会いしましょう。 

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