第三話 6 迷宮と言う名の魔方陣
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。
「靖國大佐。呪文集大書を発見したよ。」
「そうか。こっちもちょうど話がまとまった。脱出の方法を説明する。資料を送ろう。」
「確認するよ。」
靖國大佐は軍医に資料を思考無線で送る。そして資料が送られたのを確認してから説明を開始する。
「まず初めに、細かい内容は資料を確認してくれ。結論から言うと、簡単な迷宮を作成すのだ。」
「迷宮ねぇ。どこに造るの。」
「報告にあった、コンクリートの廃墟だ。その建築物を、簡単な迷宮に作り替えるのだ。」
「どゆこと。」
軍医は意図を把握しかねている。靖國大佐も言い終えてから、説明不足だったと反省する。
「迷宮を作る理由を簡単に説明する。迷宮を作る事によって、特異点の力をさらに高める。そして、迷宮の理力を用いて特異点を崩壊させて、脱出を行う。迷宮は魔方陣と言い換えてもいい。」
軍医は資料に目を通しながら話を聞いている。しかしその表情は顔をしかめている。余り納得していない表情だった。
「それなら理力爆弾じゃないけど、理力を建物の中で理力を暴発させた方が良いんじゃない。」
「それだと効果が薄い。特異点を確実に崩壊させるのに、迷宮を造るのだ。その方が確実だ。」
軍医は唸りながら頭を掻く。靖國大佐には、いまいち理解できていないように思えた。
「大体の事は分かったよ。質問、三ついいかな。僕は術に詳しくなくてね。」
「三つか。意外と多いな。言って見てくれ。」
軍医は一瞬だけ思考した後、まるで足元を踏み固めるような気配で、質問を出す。
「まず一つ。迷宮を造る材料。これどうするの。」
「工作用の理力のトンボ玉が、大量に積んであるはずだ。それと現地に木材が大量にあるから、それで何とかなるだろう。」
軍医は思考無線越しに頭を掻く。思考はいささか混乱しているようだ。こんなことも分かってしまうのは、思考無線の欠点かもしれなと、靖國大佐は思った。
「次は迷宮を造る時間だよ。どんぶり計算、ひと月かかると思うよ。その間、他の艦隊はどうするの。」
軍医の意見はもっともだと、靖國大佐は思った。しかし、それは通常の場合だ。
靖國大佐は、これまでの観測結果から導き出した、面倒な結論を言う。
「そのくらいなら問題ない。そちらの時間の流れはこちらの三〇倍だ。時間的余裕はある。」
「なるほど。どうも返答に長い時間がかかっていたのは、そのためなんだね。それじゃあ最後の質問。」
軍医は一拍置いて、質問を続ける。
「呪文集大書が必要な理由だけど、普通の本じゃ無いね。あれをどうするつもりかなぁ。」
靖國大佐は質問に答える前に、キンキンに冷えた珈琲に口を付けそうになる。だが時間の流れが違うのを思い出し、できるだけ早く質問に答える。
「あの本は迷宮の核として利用しようと思う。」
「迷宮の核ねぇ。不足分の理力は理力のトンボ玉で補うとして、具体的にはどうするの。」
軍医は要領を得ていないと、靖國大佐は思った。軍医本人が言っているように、術にはあまり詳しくないようだった。
靖國大佐は丁寧に教える。この結果は後に、形になって表れてくるのであった。
◇◇◇
「と、いう訳で。靖國上級大尉。あのコンクリートの建物を改造する。」
「なにが、と、いう訳だ。どういう訳だか、さっぱり分からないぞ。」
吾輩はツッコミを入れる。いきなり『と、いう訳で』と言われても、どういう訳だか分からない。
「チミ。いちいち突っ込まなくてもいいんだよ。この資料は、本隊から送られてきたものだよ。」
「ふむふむ。」
本体から送られてきた資料を、流し読みする。膨大な資料の中身より、目次から目を通す。それが概要の代わりになるからだ。
迷宮を造り建物全体の理力を高める。そのためには建物改築と、宝物品が必要と書かれている。
「宝物品は用意できないな。代わりに装飾品を、乗務員総出で作る事にしよう。」
「装飾品ねぇ。具体的にどうするの。あまり凝ったのは作れないよ。」
軍医殿の意見に、吾輩は少し考える。短時間で作れるものは、何かあるだろうか。
「そうだな。簡単な木像や調度品。あとは土偶かな。」
「木像ねぇ。作れる人、いる?」
軍医殿の疑問は当然だが、これに関しては解決策がある。
「何も精密な木像を造る必要はない。トーテムポールなどのでも良い。要は理力が付与されていれば良い。脱出用の理力を稼ぐことができる。」
「理力を付与するって言っても、術を付与できる同胞。少ないんじゃない。」
再び軍医殿の疑問。術に詳しくないのを思い出した。これは乗務員にも同じことが言えるかもしれない。
「そうだな。土偶も良いかもしれん。理力の水を使って土をこねる。理力入りの土粘土で土器を作るだけでも、だいぶ違う。」
「そうなんだ。」
「理力のトンボ玉がある。それを中に埋め込めば、理力はさらに増すな。」
「なるほど。その理力を使って、特異点の理力を高めるんだね。」
「そういうことだ。」
吾輩は説明を終える。装飾品に関してはこれくらいだろう。
軍医殿は納得したような表情をする。そして一拍置いて、何か閃いたような表情をする。吾輩はその表情を見て、何か嫌な予感を感じた。
「ところで呪文集大書だけど。迷宮の核になるって聞いたけど。どんな感じなんだろう。何か良い例え、無い?」
軍医殿は術に関しては疎いようだ。吾輩はふと閃いた例えを、軍医殿に話す。
「電子回路があるが、その中の集積回路みたいなものだな。」
「具多的には?」
「そうだな。何と言ったらよいか。」
軍医殿の疑問に答えるため、吾輩は五秒ほどの間を置いて、不器用な説明文を形にする。
「迷宮の理力を管理するための集積回路のような働きをする。迷宮中の理力を一点に管理して、特異点の起爆装置にするのだ。」
「つまり、爆弾に対しての信管の働きするんだね。」
「そっちの方が、良い例えだな。」
吾輩は自身の語彙力の無さに、少し劣等感を感じた。
軍医殿は納得した表情をしたが、次の瞬間、何かを思いついたのだろうか。指を鳴らして発言をする。
「靖國上級大尉。迷宮なら『ラスボス』が必要だと、思わないかね。」
「は?」
この発言。吾輩はとっさに理解ができなかった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は、迷宮作成に向け動き出します。
それではまたお会いしましょう。




