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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第三話 銀山遭難
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第三話 5 術書・呪文集大書

 追記:前の話で『ネクロミノリコン』と記載されていた物を、『呪文集大書』に変更します。

    理由としましては、元ネタに名前が似ていたための変更です。

    ご迷惑おかけします。


 当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。


この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。


「それにしても、呪文集大書か。ずいぶん懐かしい物を持ち出すな。」


 現在、吾輩(わがはい)の部屋にいる。艦長室のため、他の者より部屋は広い。四畳だが、その床は私物のダンボール箱で埋まっている。吾輩はその上に布団を敷いて寝ている。


「チミ。ダンボール箱の上で寝ているんだねぇ。寝にくくない。」


 今回の帰還では、持ち出せる私物は限られている。倉庫の大半を食料が占めるため、私物の保管空間は限られている。私物は基本的に、自室に置く決まりになっている。吾輩も例外ではなく、私物のダンボール箱の上で生活をしている。無論、ダンボール箱を強化する術を行使してだ。


「で、上級大尉。その呪文集大書ってなんじゃらほい。」


「ちょっと待ってくれ。確か、このあたりだな。」


 吾輩はダンボール箱の一つの封を開ける。中から大きく分厚い本を取り出す。大体A3用紙と言う物と同じくらいの大きさだ。表紙は革張り。中の紙は和紙でできている。


「革張りだねぇ。これが呪文集大書?ずいぶん大きい本だねぇ。」


「吾輩が修行中に書いていた本だ。術の付与の練習にも使っていた。」


 吾輩はパラパラと本をめくる。お世辞にも綺麗とは言えない字が、所狭しと書かれている。


「ふむふむ。術の行使の仕方や、薬草など植物の図鑑。魔方陣について。色々書かれているねぇ。」


「修業時代の努力の結晶だ。今はもう使っていないがな。」


 吾輩は本をめくると、白紙の箇所に到達する。


「でもその本。唯のノートだよねぇ。靖國(やすくに)大佐は、何を考えているんだろう。」


「分からん。と言いたいところだが、ある程度見当は付くそれに。この本は、唯の本ではない。」


 吾輩は片手ではいささか重い本を、軍医殿に渡す。そして術が記されている頁を開く。そして吾輩のコップを渡して、水筒の水を入れる。本に記されている“理力(りりょく)の水”の術の項目を指さす。


「軍医殿。この“理力の水”の項目を、書かれている手順で実行してみてくれ。」


「もへへ。理力の水”ねぇ。ボクは術の素質が無いから使えないよ。」


「そう言うな。いいからやってみてくれ。」


「まあそう言うのなら、やってみようかな。」


 軍医殿はそう言いながら、術の行使を試みる。理力を発生させ理力を(つむ)ぐ。紡いだ理力を回転させながら徐々に溶かす。ドロドロになった理力を砕き、細かくする。そして最後に理力を水に投入し、水を回転させて理力を溶け込ませる。


「もへへ。これはどういう事だい。ボクにも難しい術が使えた。」


「この本は魔法の杖と同じものだ。付与された術を行使する事ができる。」


 軍医殿は“理力の水”に軽く口を付ける。


「うーん。理力のほのかな味が香ばしいねぇ。」


「理力は味覚に現れないぞ。軍医殿。」


 軍医殿のボケに吾輩がツッコミを入れる。どうも軍医殿といると、調子がおかしくなる。誤解を招くが、別に悪い意味ではない。


「いちいちツッコミを入れるチミは、実にいい人だねぇ。」


 そう言うと軍医殿は、“理力の水”を一気飲みした。


「それにしても呪文集大書をどうするか。詳しい話は聞いていないのだな。」


「術の発動体になるんでしょ。大掛かりな術に使うんじゃないかなぁ。」


「なるほど。そうなると合点が付くな。」


 軍医殿から本を受け取る。吾輩は呪文集大書を脇に抱える。


「ところでチミ。この本には他の術が書いてあったね。一体いくつの術が付与されているのかな。」


「たしか、二〇の術だったかな。」


「二〇だって。」


 軍医殿は声を上げて驚く。まるで顎を外したように、大口を開けている。


「基本的な術の“松明”の術から、“理力の水”や“理力の炎”の術。簡単な“念力”の術。他にも植物の傷を癒す術や、農作物の健康にする術なども使える。もっとも単純な術のみだがな。」


 吾輩はしばし感慨(かんがい)に浸る。あの時は純粋に術の勉学に、のめり込んでいたのを思い出す。


「言っておくが、この本に書きこまれている全ての術が、今のようにできるわけではない。」


 軍医殿は口を閉じ、大きなため息をつく。


「チミ。この本を作るのに、一体何年かけたのかね。」


「この本は一〇年間使っていた。術の付与は・・・大体八年くらいかけたかな。いや、休み休みだから、実際には四年くらいかな。」


 軍医殿は流し読みすると、再びため息をつく。いったいどうしたというのだ。


「チミ。術の付与で四年。普通の術者一人なら、休みなしで六年くらいだよ。」


「そういう物か。」


 一人で術の付与をする場合、時間が膨大にかかる。それを差し引いても、この本に対する術の付与は、時間がかかっていると思っていた。


「ところでチミ。“黄金石炭鋼(おうごんせきたんこう)”は、この本に書かれているのかね。」


「いや、この本には書いていない。“黄金石炭鋼”の術は、野山に籠っていた時に創った術だ。その時には、この本を卒業していたからな。」


「そうなのか。」


 吾輩は、再び感慨に浸る。その時期は自分の才能の限界を感じて、試行錯誤を繰り返していた時期だ。


「そうだ。淺糟軍曹の修行。この手の本を書かせるのも良いな。」


「修業課題。呪文集大書の作成。これは大変な課題になるねぇ。」


 吾輩と軍医はそんな話をしながら、部屋を後にした。



 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は脱出する手段についての話になります。


 それではまたお会いしましょう。

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