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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第二話 初めの世界への訪問
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第二話 10 摩訶不思議装置

 当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。


この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。


「上級大尉。やっぱりこの艦が集中攻撃を受けているね。」


「すると軍医殿が言った事は、気のせいでは無かったわけだな。」


 吾輩(わがはい)は回避行動を指示しながら、状況を確認する。


 軍医殿が言った通り、銀山が集中攻撃を受けている。念力防壁の耐久力は三割を切っている。先ほどから一〇発以上の破壊光線が命中し、徐々に防御壁を削っている。


 敵の艦もこちらの砲撃で、残り八隻まで減っている。だが銀山の念力防壁が、先に破られて、船体に被害が出るのは目に見えている。


 艦の損害を少なくするため指示をしていると、吾輩はふと、ある装置を思い出した。


「砲雷長。摩訶不思議(まかふしぎ)装置が使えたな。」


 吾輩は艦に搭載されている試作兵器を思い出す。


 摩訶不思議理力(まかふしぎりりょく)発生装置。通称・摩訶不思議装置だ。


 (じゅつ)の威力や範囲を、艦の理力(りりょく)を用いて増幅する代物だ。艦に術を付与するだけでなく、術によっては艦隊規模に行使する事も可能らしい。らしい、と言うのは、実際に使用した事が無いからだ。


 調整を繰り返し、出向直後に調整が終わった未使用の兵装だ。そのため、戦闘での使用を考慮していない。さらに厄介な事に、この兵器の用途と応用は、術者に大きく左右されるという、兵器としてはあるまじき欠点を持つ。


「確かに使えるようになりましたが、どうするのですか。」


「ぶっつけ本番だ。砲雷長。術を行使する。」


「了解しました。」


 そう言うと吾輩は摩訶不思議装置を起動させる。吾輩は装置の端末まで行き、発動装置である錫杖を手に取る。杖に理力を吹き込むと、装置が起動する


 吾輩は“(けが)れ除け”の術を行使する。理力の波動が艦全体を覆う。効果が期待通りなら、これでいくらか楽になるはずだ。


 術が行使され、艦に穢れ除けの加護が付与される。穢れた艦から発砲される穢れた破壊光線を防いでくれる。


「艦長。念力防壁の耐久力減少、止まりました。」


「一時的な物だ。今のうちに念力防壁を修復しろ。」


 吾輩は装置の効果を実感する。未確認の兵装が役に立つ事は喜ばしい。


「艦長。敵巡洋艦の穢れが集中。あ、敵巡洋艦爆沈と同時に、誘導弾が発射されました。」


 砲撃を加えていた敵巡洋艦が、魚雷発射管に穢れを集中させたようだ。魚雷発射管から最後の力を振り絞り爆沈。直後に穢れた誘導弾を二発吐き出す。


「砲撃戦中止。機銃迎撃。」


 吾輩はとっさに砲撃戦を中止させる。至近距離の誘導弾を、実弾で撃ち落とすのは無理があるからだ。


 吾輩は再び、摩訶不思議装置を制御する。今度は“氷の壁”の術を行使する。


 至近距離で吐き出された敵誘導弾。機銃が機銃弾を発射して、誘導弾を一発撃墜する。しかしもう一発は、機銃の雨をかいくぐり、今まさに銀山に(せま)ろうとしている。


 その直後、突然水面から氷の壁が、急速に浮かび上がる。


 誘導弾は氷の壁に衝突する。爆音と衝撃が生じ、氷の壁は砕け、氷の破片が銀山にぶつかる。艦に衝撃が走るが、損傷は微々たるものだった。


「ふう。何とかなったな。」


 吾輩は安堵した。氷の壁の術。文字通り氷の壁を出現させる術だ。摩訶不思議装置で、艦を防御するだけの大きさに増幅された。


 突然の眩暈(めまい)が吾輩を襲う。この装置の負荷は、思ったより大きいようだ。吾輩は気を引き締めて、戦闘を続行させる。


「砲撃戦再開。次の標的に標準を合わせろ。」


「敵巡洋艦。急速接近中。砲撃を繰り返しながらこちらに向かってきます。」


 吾輩は船外知覚装置で、問題の敵巡洋艦を見る。砲撃を繰り返しながら、艦首を我が艦に向けて向かってくる。艦をぶつけるつもりだろうか。


「よし、今度は攻撃に使用するぞ。主砲は向かってくる敵艦を砲撃。」


 吾輩は“穢れ払いの炎”を吐き出す。厳密には端末を通して、摩訶不思議装置に伝達させる。


 穢れ払いの炎は、読んで字のごとくだ。黄泉軍の中でもヴィガージャ種のみが行使できる能力だ。


 今度は煙突から、青白い誘導光線が発射される。炎を纏った誘導光線は、敵艦に向かっていく。


 突然、端末から理力の逆流が起きる。理力の衝撃は脳を()きまわし、吐き気と眩暈を発生させる。


「摩訶不思議装置、損傷。火災発生。過負荷により損傷したようです。」


 どうやら、無理な行使が(たた)ったようだ。煙突の一部から火災が発生した。吾輩は仕方ないと考えるようにした。


「ダメージコントロール。至急消火せよ。」


 吾輩は応急処置要因に命令を下した後、通信士に命令を下す。


「通信士。この摩訶不思議装置の使用記録を、希望に転送しろ。実戦使用の記録を送信するんだ。」


「了解しました。」


 通信士は摩訶不思議装置の使用データをまとめる。それを横目に見て、再び艦の指揮に戻った。



◇◇◇



「銀山からの通信。摩訶不思議装置の動作資料です。」


「こちらに回してくれ。」


 靖國大佐は、急いで船務長から送られてきた資料に目を通す。銀山の装置は壊してしまったようだが、貴重な使用結果だった。


「通信士。この装置の記録を、輸送艦隊の八坂中佐に送信しろ。」


「了解。資料の送信を行います。」


 通信士の復唱を確認した靖國大佐は、艦長席を立つ。深呼吸を行い、術を行使するために精神集中を行う。


 そして艦長席に備え付けてある錫杖を手に取る。例の装置の端末だ。


「よし、攻撃を強化する。摩訶不思議装置の制御は私が行う。」


 靖國大佐は装置を起動させると、さっそく術を行使する。


”穢れ払い”の術。それを広範囲に行使する。穢れを退き、悪影響を与える術だ。


 術を行使すると心地良い波動が、閉じた世界全体に響き渡る。それに伴い穢れた艦艇は、明らかに動作が鈍くなる。


 続けて“浄化”の術を行使する。穢れを浄化する術だ。


 穢れの浄化が行われる。敵艦の各所から青白い火の手が上がり、穢れでできた敵艦を、徐々に焼いていく。


 最も手負いだった敵巡洋艦は甲板上が炎に包まれ、灰塵となって崩れ去る。他の敵艦艇も、(もだ)え苦しんでいるようにうなり声をあげる。半壊して火災が炎上し、かろうじて形を保っているだけの敵艦。火傷でのたうち回っている敵艦もいる。


 二つの術で装置の負荷は一杯いっぱいだ。これが装置の限界のようだった。


「効果は抜群のようだ。これを機に一気に押すぞ。」


 靖國大佐は、この装置を全く信用していなかった。だが期待以上の効果に、今後の戦術の幅が広がる。


 状況を有利な状態で、敵艦は苦しみ悶えている。この状況で劣勢になる理由はない。悪あがきの抵抗はあったがそれをいなすと、他に目立った抵抗はなかった。ろくに抵抗ができる艦は無かったためだ。


 一撃、また一撃と艦砲射撃の一斉射を放つ。まるで標的に砲撃する姿は、ちょっとした演習に見えた。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は、戦闘後の考察等になります。


 それではまたお会いしましょう。 

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