第二話 7 第一六代ペプーリアの力
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。
巡洋艦銀山から戦艦希望に連絡が入った。
「靖國大佐。行動方針はどうするの。」
軍医が方針を催促する。それに対して、靖國大佐は自分なりの方針を伝える。
「希望と第一探査艦隊で、単縦陣を組んで敵陣に切り込む。敵艦隊の中央に突っ込んだのち、反転して残りの敵を叩く。細かい行動方針は思考無線で送るので、確認してくれ。」
靖國大佐はそこまで言って、ふと足手まといを思い出した。
「そういえばそちらの艦隊に、天の火が配属されていたな。」
天の火は第一探査艦隊に配属されていた。速力は良好で、探査能力も優れていたため、銀山と共に第一探査艦隊に配属されている。
ただし兵装に難があった。装甲は巡洋艦並だが、対艦用の兵装は、主砲は一二・七センチ砲四門のみ。これらの砲は、個艦防衛用でしかない。
靖國大佐は現状の戦力での及第点を導き出す。
「天の火を真ん中に置こうと思う。希望、天の火、銀山の順で列を組む。この方針で天の火を護衛しながら戦闘を行う。」
「分かったよ。艦隊の行動はこれでいいけど、一ついいかな。」
軍医は葉巻を咥えながら話す。会話しても落ちない所を見ると、簡単な術が付与されているのが分かる。
「何か案があるのか。」
「僕も出撃していいかな。第一六代ペプーリアの力で。」
「超音速戦闘機か。」
軍医が行使する第一六代ペプーリアの力。一言で言うと超高性能戦闘機だ。優れた対艦能力を備える戦闘機だ。
一部では戦闘機と言うのは、仮の姿と言う者もいる。航空機にあるまじき挙動から、戦闘機の皮を被ったUFOと言う者もいる。
「帰還は始まったばかりだよ。被害は少ない方がいいかな。幸い閉じた世界だから、戦闘機の性能を十分発揮できるよ。」
戦闘機の利用。靖國大佐は盲点を突かれた。
忘却の川では航空機の使用はできない。厳密には、扱いが難しい。
川の水面から離れると空気が存在しない。大体上空一〇〇メートル位が境界線だ。それ以上上空に侵入すると、揚力や斥力で宙を浮く物体は虚空の彼方消えてしまう。砲弾のように運動エネルギーで飛翔する物は例外だ。その理由はまだ分かっていない。
靖國大佐は軽く深呼吸をして雑念を払う。軍医の策を使うのも悪くないと思った。
「敵艦隊に一撃を加えたら、すぐ戻ってくるよ。行ってきてもいいかな。」
靖國大佐は一拍置いて思案する。先制攻撃の一撃を加えるのも悪くない。
「では、お願いする。」
「了解したよ。一番槍は僕が行うよ。」
その後、細かい方針を付け加える。一通り打ち合わせが終わると、靖國大佐は艦外知覚装置で穢れを確認する。穢れた艦隊は戦術を無視した陣形で、こちらに向かってきている。
◇◇◇
短い作戦会議を終えて、軍医殿が立ち上がる。
「ようし。聞いての通りだよ。靖國大佐の言質を取ったよ。という訳で、上級大尉。後の事は頼んだよ。データリンク、忘れないでね。」
軍医殿はそう言うと、意気揚々と戦闘指揮所を後にした。
たった二隻の艦隊の司令官とは言え、腰が軽すぎるのではないか。いや、上陸に自ら志願した時点で、解りきった事だ。
「思考無線は繋げたままにしてくれ。」
「問題無いよ。これでいいよね。」
軍医殿が思考無線で答える。吾輩は心の奥で、腰が軽いのは靖國大佐だけで十分だと毒づく。
「靖國上級大尉。艦隊の行動方針に目を通しておいて。その方針で行くからね。天の火の方には、僕から伝えるよ。」
「分かった。気をつけてくれ。」
吾輩は艦隊の行動方針に目を通しながら言った。
◇◇◇
軍医は艦尾の甲板に立っている。
短い精神集中をすると、青く輝く戦闘機が出現する。戦闘機はホバリングして宙に浮いている。
戦闘機のキャノピーが開く。座席は二人乗り。軍医は三メートルほど跳躍して、前の席に乗り込む。
座席のベルトを締め、マスクとヘルメットを付ける。
操縦桿を握り、戦闘機と感覚を共有させる。宙に浮く感覚は、まるで“浮遊”の術を使っている錯覚を覚える。
「もへへ。久しぶりの実戦。行きましょうぞ。先代。」
軍医はキャノピーを軽く叩くと、無線を繋げる。
「こちらペプーリア。これより敵艦の攻撃に移る。」
「了解。ご武運を。」
軍医は戦闘機のキャノピーを閉める。これでいつでも発艦が可能だ。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は、軍医が空対艦攻撃を行います。
それではまたお会いしましょう。