第二話 6 もう見ないはずの艦影
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
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帰還艦隊が一通り初めの世界に入り終えた。艦隊は次々と新たな航路に侵入を開始するため、初めの世界を後にする。艦隊の半数が新たな支流に侵入した時、戦艦希望の船務長から報告が入る。
「穢れの反応、微弱ながら観測。位置は新たな支流と、初めの世界外縁部からです。」
希望の戦闘指揮所に緊張が走る。靖國大佐は立ち上がって姿勢を正す。
「つまり囲まれているという事だな。」
靖國大佐は思案する。今は新たな支流に侵入途中。戦力の大半も新たな支流に移してある。輸送艦隊も半数は新たな支流に向け、初めの世界を脱出中だ。
戦力になる艦隊は希望と、第一探査艦隊のみだった。第一探査艦隊は椿の精霊の件で、最後まで滞在する事になっている。
戦力を呼び戻す必要があるか。靖國大佐が考えていると、船務長から続報が入る。
「初めの世界の穢れの量が判明しました。新たな支流側は二個師団規模。元居た支流に四個師団規模です。新たな支流の方は、輸送艦隊と第一護衛艦隊の中間位置です。」
靖國大佐は思案する。元居た支流に四個師団規模。前回の倍の数だった。前回は巡洋艦三隻。単純な話、今回は六隻分だった
「穢れの対応に当たる。新たな支流の方は、八坂中佐と浅間中佐とで対応しろ。諏訪中佐の第二護衛艦隊は、海域の警戒に当たれ。戦力はこちらが上だ。数の暴力で圧倒するのだ。」
靖國大佐は新た多な支流の戦力に、指示を出し終える。そして軽く深呼吸をして新たな命令を発する。
「第一探査艦隊は我に続け、と伝えろ。これより穢れの浄化を始める。全艦隊戦闘準備だ。」
◇◇◇
「全艦、第一種戦闘配備。主砲、副砲は、穢れ払いの曳光弾を装填しろ。」
吾輩の号令で、艦全体が蜂の巣をつついたように慌ただしくなる。
船務長は観測機器の情報を統合し、砲雷長は各種兵装の戦闘準備を指示する。
吾輩は思考無線を起動させる。友軍からの穢れの情報。観測班からの穢れの情報と、情報処理班の情報の更新。各種兵装の起動準備の報告。ダメージコントロール班の配置完了の報告。急速に戦闘準備が整っていく。
「敵は四個師だね。靖國大佐からの新たな指示はまだかなあ。」
「我に続けと言う指示以外は、他の指示は出ていません。」
穢れが顕在化していないから、具体的な戦力は不明だな。顕在化しないなら、一方的に穢れ払いができるのだが。
「戦艦希望より報告。穢れが顕在化。祇原型巡洋艦八。豊峰型巡洋艦八。我が艦隊の物と瓜二つです。距離は一〇〇キロ。」
全部で一六隻。穢れの量に対して艦の数が多い。おそらく、一隻一隻の穢れの強さは、それほどでもないだろう。
「ここでも我々の偽物が出てくるのか。」
「いやな予感がするねぇ。これは一体何を意味するんだろうね。」
気味が悪いな。吾輩は背中に冷や水が落ちてくる錯覚を覚えた。
「この距離で誘導弾が飛んでこないのは、索敵能力が劣っているのか。はたまた、対探知迷彩が効いているのかなあ。」
吾輩は懸念を払い、敵巡洋艦の性能を頭から引っ張り出す。
祇原型巡洋艦は、旧第四艦隊の巡洋艦だ。主砲は一四〇ミリ三連装砲二基。船体は大きくないが、必要十分な装備が纏まった、標準的な巡洋艦だ。
豊峰型は軽巡洋艦に分類されている。主砲は速射型の一四〇ミリ単装単装砲一基。巡洋艦にしては小型で、巡洋艦としての最低限の戦闘力しか持たない。巡洋艦の能力を持つ駆逐艦と言うのが現状だ。
吾輩は観測された穢れの情報を確認する。敵艦隊の陣形を確認してある意味驚く。
艦の配置がバラバラだ。顕在化に際し、適当な配置になったと言った感じだ。
「もへへ。靖國上級大尉。ずいぶんな艦隊だけど、チミはどう思う。」
軍医殿が質問してきた。軍医殿の場合、自分自身の考えの確認だろう。吾輩は思うところを意見する。
「先の戦闘で判明した事だが、穢れでできた偽物は明らかに性能が劣化している。しかも編成を見る限り、敵艦隊は烏合の衆。近づいてきた艦から対処しても良だろう。」
「ボクも同意見だね。我が艦隊は旗艦と連携して対応しないとね。靖國上級大尉。旗艦と思考無線を繋げて。意見をすり合わせたい。」
「了解。通信士。旗艦との回線を繋げろ。」
「了解。旗艦との回線を繋げます。」
吾輩は通信士に指示をする。通信士は、旗艦との思考無線の接続を開始した。軍医殿は黄金の葉巻を咥えて、頭を回転させる。
「軍医殿。その火のついていない葉巻、何か意味があるのか。」
吾輩は前々から疑問に思っていた事を尋ねる。特殊な葉巻だという事は分かっているが。
「これ。これは僕の安定剤だよ。」
「安定剤とな。」
「うん。ボクは回転が無駄に早くてね。安定させないと、空回りしてかえって思考力が落ちるんだ。」
そんな話をしていると、通信士は希望との回線を繋げる。程なく旗艦希望の靖國大佐が出てきた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は、艦隊戦の前に軍医が提案をします。
それではまたお会いしましょう。