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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第二話 初めの世界への訪問
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第二話 4 椿の木との交渉ごっこ

 当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。


この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。

 突然、この場にいない存在の声が響く。だが発生源は分かる。椿(つばき)の木だろう。軍医殿は木から降りて地面に落ちる。五メートルほどの高さだったが、綺麗(きれい)に着地した。


「もへへ。僕達は旅人だよ。故郷に帰るための旅をしているんだ。チミは誰なんだい。」


 軍医殿は椿の木に向かって話す。言葉が通じればよいのだが。


「我はこの地に根を張り、この地を見守っている。お前達の一人が、椿の木と呼んだ者だ。旅人よ。頼みがある。」


 どうやら椿の木で間違いないようだ。


「頼みって何かな。とりあえず言ってみてよ。」


 軍医殿が椿の木に見上げる。数多の赤い実が日に照らされている。


「我が子を新たな土地に()いてほしい。この地は狭く、やせ細っている。」


「我が子ってこの枝についている実の事。」


 軍医殿は木から落ちた種を拾い、椿の木に向かって掲げる。


 確かにそうなるだろう。椿の木がこんな海の孤島に根付いたことが奇跡だ。そしてそのような奇跡は早々起きない。椿の木が言う通り、この島の土地は狭く、栄養は無いようだ。新たな実が根付く事は無いだろう。


「いいけど二つ条件があるよ。」


 条件が二つ。一つは見当つくが、もう一つは一体…。


「一つ目は、僕達の仲間がこの海に入ってくるんだ。少し居座ったらすぐ出ていくから、入ってきてもいいかな。」


 これは当初の目的だな。初めの世界に入って、忘却の川に再び侵入する。忘却の川の支流に移動して、別の航路で帰還を目指すための行動だ。


「それなら構わない。我が子を新たな大地に蒔いてくれるのであれば、それ以上望む事は無い。」


 了承は得た。これで初めの世界に艦隊を呼ぶことができる。


「二つ目は…。」


 軍医殿は一拍置いた後、爆弾発言をした。


「椿の実、半分食べてもいいかなぁ。美味しそうだ。それと、ついでに葉っぱ二、三割、ももらってもいいかにゃ。」


「軍医様。」


 淺糟軍曹は(おどろ)いて叫んだ。軍医殿の発言は椿の木の機嫌を損ねる。淺糟軍曹はそう思ったのだろう。


「それはどういう事だ。」


 椿の木は声を荒げる、理力が荒ぶる。周りの空気が強い風に変わり、理力の風が体温を奪っていく錯覚を感じる。


「もへへ。ボク達は危険な旅をしているんだ。チミの事情は理解するが、事はそんなに簡単じゃないんだ。手間賃をもらわないと、割が合わないんだ。」


 理力の風はますます強くなり、理力の風はさらに冷たくなる。


「知っている。木の実の類は鳥がついばんで、(ふん)と一緒に種を出す。そしてそれが新しい土地で芽吹くんだよ。」


 軍医殿は畳みかけるように語る。


「チミは知らないけど、自然はそうゆう風に成り立っているんだ。それなら僕達も新しい土地に種をまく代わりに、報酬をもらっても良いんじゃないかなぁ。」


 理力の風は体温を奪おうと強く吹き付ける。吾輩は問題なく耐えられるが淺糟軍曹は寒そうに震えている。よく見ると、軍医殿も少し震えているようだ。


「とにかく、この条件が飲めなければ、ボク達はチミの頼みは受けない。これは絶対条件だよ。」


 軍医殿はそこまで言い切ると、大きくくしゃみをする。すると力強く吹いていた理力の風は、次第に弱くなっていく。


「分かった。その条件を飲もう。その代わり、半分は新しい大地に蒔いてもらおう。」


 どうやら椿の木の方が折れてくれたようだ。暴走する椿の木を伐採する事にならなくて何よりだ。


「交渉成立。それじゃあ早速、無線で本隊に連絡を入れないとね。」



◇◇◇



「どうやら、ペプーリア殿が万事うまくしてくれたようだ。


 靖國(やすくに)大佐は軍医からの報告を受ける。どうやらただの木の精霊のため、靖國大佐の懸念(けねん)は、取り越し苦労だったようだ。


「それじゃあ初めの世界に入るぜ。俺の輸送艦隊からでいいな。」


「そうしてくれ。その後、第二、第三探査艦隊を使って、出口側の探査を行ってくれ。」


 靖國大佐は八坂中佐の提案を許可すると同時に、他の艦隊にも指示を出す。


「輸送艦隊が初めの世界に侵入した後、第二、第三探査艦隊が順に侵入。その後第二護衛艦隊、第一護衛艦隊の順で侵入してくれ。私の艦は殿(しんがり)だ」


「了解。」


 靖國大佐は諏訪中佐と浅間中佐にも指示を出す。一通り指示を出すと思考無線を切り、椅子に深く腰掛けて深呼吸をする。


「どうやら事も無く、物事は上手く言ったな。」


 靖國大佐は誰も聞いていない独り言をつぶやいた。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は軍医の持論が展開されます。


 それではまたお会いしましょう。 

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