第一一話 1 真水と液体メタンが交わる海域
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
靖國上級大尉の航海日誌
六六日。極寒の土星の月の海を越え、この航海日誌を書いている。
探査が目的なら、またとない絶好の機会だったが、航路の通行が目的だったため、通過を最優先した。
一応、観測データをちゃっかり取っていたらしく、それも次の定時連絡で本国に送信して、小遣いの足しにするらしい。
星間列車を回収し、乗員も全員無事だ。あの敵の猛攻撃の中、大した犠牲も無く乗り切ったのは幸運だ。
星間列車は、星間航行装置がオシャカだが、飛行能力は何とか修復した。吾輩がな。
軍医殿は星間列車まで、第一探査艦隊で運用するようだ。
いったい何を考えているのだ。
◇◇◇
沈まない夕日の水域。忘却の川と呼ばれる真水が、地平線まで広がっているはずだった。しかし眼前に塞がる分厚い氷が、真水の航路を塞いでいる。
「もへへ。観測結果はぁ…メタンの濃度が高いねぇ。外気の呼吸は、やめた方が良いかにゃ。」
「幸い、表層の氷の厚さはそれほどではないな。氷の表面ぎりぎりで飛行すれば、メタンの海に飛ぶことが出来るな。」
吾輩と軍医殿は、携帯端末に写された資料を確認している。船務長が探査装置で収集してまとめたものだ。
軍医殿はパイロットスーツ。吾輩はいつもの魔法銀の重皮鎧。両方とも気密服の役割を果たし、タイタンでの活動が可能だ。
「しかし。この魔法銀の重皮鎧。まさか気密服の機能を使うとはな。」
「魔法銀と言いつつ皮鎧。変な響きだねぇ。」
「魔法銀の主成分は動物の皮だからな。」
何気ない応答を交わしながら、タイタンの環境を再確認する。重力が地球上の六分の一。宇宙探査ゲームで体験した、低重力の環境。ちょっと跳躍しただけで、ふわりと浮かび上がるような感覚。軍医殿曰、今回のタイタンでの活動でも、同じことが起きるらしい。
「それにしてもぉ、その重装の皮鎧。確か理力工学式試作ロ式汎用重鎧だにぇ。どんな機能があったっけにゃ。」
「宇宙服意外に耐圧服潜水服を兼ね、二千気圧まで大丈夫そうだ。それと抗魔法効果と抗精神汚染。鎧自体が六〇キロと重いのと、理力でガチガチに固めてあって、整備が大変なのが欠点だな。本国から送られたのは良いが、誰も使いたがらなくて、吾輩にお鉢が回ってきた厄介者だ。」
本国から送られてきたのを、吾輩は改良を加えた。正直、本国の仕様だと誰も扱えない。それを自身の鍛錬を兼ねて、吾輩自身で整備、改良をおこなっている。
処分に困った貴重品を押し付けられた。そんな気もしない訳ではないが。
「それじゃ、手筈通り、そろそろ天の火に乗船した方が良いかなぁ。氷の向こうはタイタンの環境だねぇ。」
「そうだな。砲雷長。銀山の事を頼んだぞ。」
「いってくるにぇ。」
船務長の敬礼を後に、吾輩達は銀山の戦闘指揮所を後にした。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は氷塊を超え、メタンの海に着水します。
それではまたお会いしましょう。
追記:今後の投稿は不定期になるかもしれません。その場合、木曜日の21時に投稿になります。誠に申し訳ございません