第一〇話 9 現場に投げられた課題
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
場所は銀山の戦闘指揮室。艦長席に座る吾輩は、盛大にため息をついてうなだれる。
「もへへ。靖國上級大尉。その様子だとぉ、また面倒事、押し付けられたかにゃ。」
吾輩は返事の代わりに、手に持った携帯板型端末を軍医殿に差し出す。そこに原因は全て書かれている。
「ほへ。予想通りタイタン行きは決定。そして見事、面倒事を押し付けられたにぇ。ほへもへ。タイタンの海に一番乗りして、警戒と救助を同時に行うかにゃ。」
「そうだ、細かい裁量は委ねられているが、どうしたものかな。」
「もへへ。靖國上級大尉。チミの考えを拝聴しようかにゃ。」
そう言うと軍医殿は、吾輩の目の前に板型携帯端末を置く。吾輩は端末を受け取り、説明のために操作を開始する。
◇◇◇
大まかな概要は次の通りだ。
最初に、救援に向かう救援部隊と、救援部隊の上空を警戒する警戒部隊を編成する。この二部隊は、あらかじめ銀山と天の火の甲板上で待機する。
タイタン進入後、素早く部隊を移動させ、救助地点に向かう。救援部隊は星間列車の応急修理を行う。
不時着したが、応急処置でどうにかなりそうなため、工作用に改造した機動兵器を用いる。
肝心の修理の技術者は吾輩だ。吾輩が第一探査艦隊の中で、一番理力工学に精通しているからだ。
応急修理完了後、両部隊は星間列車を護衛しながら、第一探査艦隊と合流する。これが大まかな案だ。
◇◇◇
吾輩の案を一通り見た軍医殿は、首を傾けて慣らす。そして頭を掻いて、ダメ出しをする。
「ふむふむ。及第点だと思うけどにぇ。ボクならもっと大胆にやるよ。」
「意見を聞こうか。軍医殿。」
「にゃに。簡単だよ。第一に天の火を派遣するにょ。現場に着くまで、救援部隊は天の火の甲板の上で待機だにぇ。ま、暇になるとは、おもえないけどねぇ。星間列車、手早く回収した方が良いかにゃ。」
吾輩もそれも考えた。しかし、天の火は武装輸送艦。文字通りの艦種のため、自衛兵装自体、足らないと判断した。
そして遭遇するかもしれない敵戦力に対し、艦隊の搭載兵力では、天の火の護衛は微妙と判断。そして敵戦力に遭遇しなければ、応急修理して連れてくればよい。
天の火が出る幕はない。それが吾輩の結論だ。銀山で天の火の護衛をした方が良い。
「天の火の護衛戦力はどうする。うちの艦隊は、戦車四。機動兵器四。航空機は軍医殿含めて二機。輸送艦の護衛戦力としては、微妙だと思うがな。」
「もへへ。足りなきゃ借りればいい。普段ボク達に無理難題言っている連中からにぇ。」
「追加の機動兵器でも注文するのか。」
「んにゃ。第二護衛艦隊旗艦。峯島は揚陸艦だったよね。そこで揚陸艦の航空隊。暇持て余しているよね。直掩機にすればいいにょ。橙の空だけど、大空を飛べば鬱憤も晴れるにょ。」
第二艦隊旗艦峯島。艦種は揚陸艦で、一〇機からなる帰還艦隊唯一の航空隊が、配備されている。何かの保険として航空隊を保有しているが、正直に言って暇を持て余しているのが目に見える。
一応、艦隊周辺の偵察を行っているようだが、水面すれすれの飛行では、不満も積もるものだろう。
「もへへ。航空隊長のおっちゃん。ボクと気が合うからにぇ。チームワークはバッチリだね。」
「戦力としては当てになるのか。相手は自称宇宙人の円盤機だが。」
「問題ないにょ。敵が三機とこっち一機。このくらいなら何とかなるっしょ。ボクが保証するんだな、これが。」
「分かった。軍医殿の案に乗ってみよう。」
軍医殿の言う直掩機。軍医殿の見立て通りなら、大丈夫なのだろう。多分。まあ、使える戦力が増えるのであれば、それに越したことは無い。
吾輩は息を大きく吸い込み、ため息をつく。
未知の敵に怯えて過ぎても仕方ない。軍医殿の判断を尊重しよう。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は新たな話に移り、タイタンに突入します。
それではまたお会いしましょう。
追記:今後の投稿は不定期になるかもしれません。その場合、木曜日の21時に投稿になります。誠に申し訳ございません