第一〇話 3 機密にされていた補給物資の正体
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
「布切れの奥に神霊がおられる。これが補給物資の本命か。」
「もへへ。上級大尉はそちらに興味津々だねぇ。」
「軍医殿。補給物資の中身、知っていたのか。」
「うんにゃ。ただねぇ。知人だニャーって思ってねぇ。」
吾輩は格納庫を仕切る布切れの奥に、無数の神霊の気配を感じ警戒する。神霊の気配はするが、その正体は当然分からない。
しかも軍医殿は知っていて、しかも知人と言っている。軍医殿の交友関係、いったいどのような物か。気にならない訳でもない。
「さぁてと。いつまでも布の向こう側で考えてないで、答え合わせと行こうかにゃ。」
そう言うと、軍医殿は垂れ布をくぐり抜け、中に入ろうとするところで、吾輩に手招きをした。
◇◇◇
「これはまた、すごいな。」
吾輩は神霊の正体を見て、しばし驚く。
まず目に入ったのは紅色の戦車。車体は中戦車だろうか。無限履帯が金色なのを見ると、履帯のみが黄金石炭鋼製だろうか。先ほどの金色の軽戦車より、一回り大きい。力強い、そして堅牢なご神体と言うべき異様だった。
そしてもう一つは紅色とは対照的な、漆黒の戦闘機。大きさは軍医殿の戦闘機より、二回り大きい。
二枚の垂直尾翼が傾いていて、ステルス性も配慮されている。しかし、ところどころ張り付けられた黄金石炭鋼の装甲が、漆黒の隠密性を台無しにしている。
そして格納庫の壁には、所狭しと神棚が立てかけられている。神棚、神棚、神棚。その数は百に及ぶだろうか。もちろん、その神棚一つ一つに、神霊が祭られている。
「すごい神霊の数だな。それで結局、これは何なのだ。軍医殿。」
「もへへ。見て分からにゃいかな。これ全部、ご神体だよ。お宮さんだけじゃなくて、戦車や攻撃機も含めてね。」
「あの黒い軍用機は、攻撃機だったか。しかし、戦車や戦闘機の神は聞いた事ないぞ。」
吾輩はそう言いつつも、それらの兵器の神霊を感じ取っていた。軍医殿の言っている事は、間違っていないだろう。
「もへへ。新しい八百万の神だね。三八式水陸両用試作戦車と四四式試作攻撃機だね。両方とも量産を見送られたせいか、神格を得やすかったのかにゃ。二つとも活躍したからねぇ。」
吾輩は戦車と攻撃機の資料を受け取ったが、資料を見るのを後回しにする。
「それは置いておく。もう一つ、壁にかかっている神棚の数。あまりのも多いな。これは何なのだ。」
百にもせまる、壁に掛けられた神棚。正確に数えたわけではないから、百以上あるかもしれない。
「そうだねぇ。これ、全部八ヶ城様の分霊だねぇ。全部で一〇八体。」
「八ヶ城様とは、あのオオカムヅミの命の事か。」
吾輩はそう呟きながら、格納庫をもう一度見渡す。
なるほどな。これだけの神霊の派遣。封印もだが、物資の機密も納得のいくものだった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は場面を変更して無線会議。本国から提示された斜め上の案に、首脳部が頭を悩ませます。
それではまたお会いしましょう。
追記:今後の投稿は不定期になるかもしれません。その場合、木曜日の21時に投稿になります。誠に申し訳ございません