第九話 21 泊地島の拒絶反応
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
場所は銀山の戦闘指揮所。靖國上級大尉は艦長席に腰を掛ける。先ほどまで自室で、自家製薬草や霊薬を用いて、艦隊戦と護衛時の疲れを癒していた。
靖國上級大尉が席に着いた直後、押し殺したような独特の気配を感じる。間違いなく軍医の物だろうと確信し、背後に顔を向ける。
「もへへ。地獄の囚人の艦。航路は順調かにゃ。」
「船務長。地獄の囚人の艦の現在の状況、それと念のため、泊地島の状況を教えてくれ。」
靖國上級大尉は、定型文ともいえる台詞を言う。
「現在、泊地島に向かって順調に航行中です。泊地島の動向も特に変化なく、いえ、穢れの発生を確認。囚人の艦の前方に密集。形を形成しています。」
船務長の報告に、戦闘指揮所の空気に緊張が走る。
「第一種戦闘配備。砲雷長。各兵装発砲準備。航海長。進路変更、取舵。」
靖國上級大尉の突然の戦闘指示。艦内に警報が鳴り響き、蜂の巣を叩いたように大騒ぎになる。
靖國上級大尉は艦外知覚装置で艦の外を知覚するのと同時に、摩訶不思議装置の端末の錫杖に手を伸ばす。軍医は足音も立てず、船務長の席のそばまで早足で向かい、観測装置をのぞき込む。
靖國上級大尉は、“遠目”の術で、囚人の艦艇を観測する。穢れは複数の武装した艦艇に姿を変える。いずれも帰還艦隊の艦と酷使している、武装した艦艇だ。それらが、聖域を守護する守護者のように立ちはだかる。
そして当然のように穢れは、囚人の艦艇に発砲する。ボロボロで武装も破壊された囚人の艦艇は、右往左往して回避行動をするが、弾幕の前にあっけなく撃沈。地獄の囚人達の断末魔も、しっかりと観測する。
そして穢れは消滅し、忘却の川は何事も無かったように静まり返った。
◇◇◇
「以上が、銀山が観測した囚人艦の末路だ。泊地島は地獄の囚人に対して、拒絶反応を示した。」
「ふむ。泊地島は地獄の囚人を拒んだかの。良かれと思った事が、この手は使えんのぉ。」
場は艦隊間の思考無線会議。靖國大佐の報告に浅間中佐はお茶を一啜りする。会議の場は、相も変わらずお茶会現場のようだ。
「もし同じことが起きたら、別の手を考えるか。いっその事一思いに、とどめを刺すか。一応答えを出しておかねえとな。」
八坂中佐は半分独り言のように呟く。顎と頬につけて、考え込んでいるように見える。
「逃げの一手も考えておきましょう。話を戻しますが、本国からの輸送艦との接触は…。」
一同は元の補給艦の話題に戻る。地獄の囚人の末路。起きてしまったことは仕方なく、善行で勧めた事の結末。これ以上思いつめる話では無い事は、会議の場にいる者達の、共通認識であった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は次の話に進み、本国の補給線と合流します。
それではまたお会いしましょう。
追記:最近忙しくなってきたため、今後の投稿は不定期になるかもしれません。その場合、木曜日の21時に投稿になります。誠に申し訳ございません。