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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第九話 決戦。ミサイル艦隊対帰還艦隊。
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第九話 16 舟渡の下準備

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


 場所は艦尾格納庫。銀山は艦尾が開く構造になっていて、そこから大発を発進させることが出来る。


 この大発は特注品で、“死人除け”の術が施され、摩訶不思議(まかふしぎ)装置も積んでいる。数名の白兵戦要員も同行する。状況によっては、ひ弱な人間達を一蹴し、敵艦を拿捕(だほ)する次第である。


 吾輩(わがはい)は車椅子を押す。車椅子に乗っているのは浅糟(あさかす)軍曹。先の戦闘で負傷しているため、点滴もつけている。本来は、病室のベッドで寝かせるのが良いはずだ。その安静が必要な怪我人を、車椅子に乗せているのには、面倒な理由があるからだ。


「と、言う訳で。浅糟軍曹。チミにもう一仕事して欲しいんだにゃ。なあに、点滴車椅子に、どっしり座っているだけでもいいよ。」


「まったく。怪我人を引っ張り出すとは、それは軍医のする事か。」


「ちかたないよ。ボクにも手違いはあるよ。」


 吾輩達は浅糟軍曹を挟み、軽い口論をする。事の問題は、負傷療養中の浅糟軍曹の経験が、どうしても必要だという点だ。


 浅糟軍曹には、三途の川で渡し賃の仕事をしていた経験がある。それも、帰還艦隊ただ一人だ。


 いや、厳密にはもう一人いたが、先の戦闘で戦死していた。そんな間の悪い状況が、怪我人の出動を必要としていた。まったく。上層部の決定に、軽く頭の重ささえ感じる始末だ。


「軍医様。お言葉ですが、地獄の囚人は金貨を持っているようには思えません。」


「もへ。浅糟軍曹。やっぱチミには分かっちゃうかにゃ。」


 浅糟軍曹の意見に、吾輩も賛同だ。これは明らかに茶番だ。いくら形式が欲しいとはいえ、現場の吾輩達はとんだ貧乏くじだ。


 しかしその形式さえ必要とする事案。政治的な配慮と言うのも、面倒なものだ。


 腹の底でそんな愚痴を吐きつつ、大発に乗り移り、車椅子を固定させる。そして今回の件について軽く復習する。


 事は単純。吾輩は地獄の囚人どもを監視して、護衛に専念すればいい。


 地獄の囚人は文字通り死人。そして『(けが)れ払いの炎』が有効だ。少しでも危害を加えるようなら、独自の判断で焼いていいと許可も出ている。


 細々とした形式や茶番は、浅糟軍曹と軍医殿に任せればいい。事務作業には口を挟まない。


 軽くイメージトレーニングとやらを済ませて、現実に戻る。軍医殿がもへへと笑い、浅糟軍曹は何かを吐き出すような、深いため息をついていた。


「この仕事、必ず一悶着あるでしょう。いくら人間の亡者でも、多勢だと危険です。」


「そのための靖國上級大尉だよ。“炎の壁”の術に『穢れ払いの炎』を吹き込めば、自国の囚人は手出しができない。そうだよね。靖國上級大尉。」


「ああ。それで問題ないな。情報が正確なら、『穢れ払いの炎』を死人は畏怖(いふ)するらしいな。」


 吾輩は模範解答を返す。吾輩は軽くため息をつき、精神を落ち着かせる。そして大発の操縦席に移り、発動機を起動させる。


 艦尾の扉が開き、沈まない夕焼けの空が見える。


 吾輩は大発をゆっくりと浮遊させ、徐々に飛翔(ひしょう)速度を高めていった。




ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


次回は、政治的茶番を実行しますが・・・。


次回の投稿は六月二十二日なります。


それではまたお会いしましょう。

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