第九話 15 戦後処理。地獄の囚人の渡し賃について。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
一方的な砲撃戦の末、ほとんどの敵艦を沈めた。多くの地獄の囚人は、艦と共に忘却の川に沈み、僅か旗艦のみが残るだけだった。
帰還艦隊は旗艦に止めを刺すことが出来たが、軍医の提案により、それは中止された。かと言って、捕虜を養う余裕が無い事を軍医も知っていたため、ある茶番劇がなされた。
その茶番劇は、まさに政治的な形式だった。
「もへへ。あの世の渡し賃と言えば、六文銭が相場じゃにゃいかな。」
「どういうことだ。ペプーリア殿。」
場は艦隊間の無線会議。場の面々は、靖國大佐と浅間中佐、それと軍医の三名。
その会議の場で出された、軍医の提案。当然、靖國大佐が疑問を投げかける。
「にゃあに。ちょっとして形式だよ。ボク達は捕虜を養う事はできないよ。けど、政治的な物を考えるとねぇ。そのまま止めを刺すわけにもいかないよ。」
「なるほどのぉ。じゃから渡し賃をだしに、ふるいにかけるフリをするわけじゃな。」
浅間中佐はため息をつく。ため息をつき、一言付け加える。
「じゃが一七代。もし代金を払えたらどうするのじゃ。」
当然の疑問を軍医に投げかける。それはその場にいた他の者も思った疑問だった。それに対し、軍医はくるりと一回転してから答える。
「もへへ。代金は吹っ掛けて、金貨一枚。今時の現代人は、まず、金貨なんて持っていないよ。札束とクレジットカードの世界だからね。」
そこまで言って、軍医は思い出す。泊地島生まれの住人にとって、通貨は兵糧貨幣と旧貨幣だ。札束は黄泉軍でも、あまり流通していない。ましてクレジットカードは、その存在自体知らないかもしれない。
「要はね。金貨が流通していないから、まず金貨が出てくることは無いよ。」
そこまで言うと、軍医は詳しく説明する。
◇◇◇
最初に例外はあるが、あの世に現世の所持金は持っていけない。さらに基督圏は、地獄の渡し賃の習慣が無い文化圏。わざわざ金貨を用意しているとは思えない。
そして金は基本的に、地獄の囚人の手に渡ることは無い。何かしらの対価が払われる場合、刑期の減刑や食料などで支払われる。
それでも金貨を持っていた場合、当然悪魔や堕天使が黙っていない。
決して出るはずのない渡し賃。分かり切ったうえでの茶番だ。
「なるほど。ペプーリア殿の案で行こうと思うが、皆はどう思う。」
靖國大佐の問いに、浅間中佐も賛同する。
「それでは一七代。お前さんの案で行くが、一七代が奪衣婆でもやるのかのぉ。」
「うんにゃ。銀山に一人。地獄の渡し賃の仕事をしていた人材がいるから、任せるつもりだよ。それと、ボクと靖國上級大尉で脇を固めれば、護衛と囚人の監視もできるね。」
「なんじゃ。おぬしらは良く組んで行動するの。まあ、おぬしらなら問題ないじゃろう。」
浅間中佐はあっさりと納得する。
軍医はおどけたふりをするが抜け目なく、靖國上級大尉は術を用いることで、誤魔化しは効かない。
おまけに二人とも、荒事に慣れている。
その事は靖國大佐も理解していたため、軍医の方針がすんなりと受け入れられた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は、現場の舟渡の準備になります。
次回の投稿は六月十五日なります。
それではまたお会いしましょう。