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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第二話 初めの世界への訪問
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第二話 2 思考無線の会議

 当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。


この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。

靖國(やすくに)大佐の航海日誌


 航海三日目。航路上にある閉じた世界を、立ち寄る事になった。探査(たんさ)に当たった第一探査艦隊から、知的存在がいるという報告が入った。


 反応は大きくないため、それほど懸念はしていないが、念には念を入れる事にした。



「銀山から報告が入った。初めの世界に知的存在がいるという報告が入った。」


 希望の艦長室で、思考無線を用いて会議を開いている。出席者は靖國大佐、軍医と輸送艦隊司令の八坂中佐。第一護衛艦隊司令の浅間(あさま)中佐。そして第二護衛艦隊司令の諏訪(すわ)中佐の合計五名だ。


「うーん。たいして気にしなくてもいいんじゃねぇか。靖國。この閉じた世界に行く事に変わりはねえんだろ。」


 八坂中佐は大した危惧(きぐ)もせず、己の意見を言い放つ。この男は大柄な体格に反して、技術屋である。


 靖國大佐は、この男を狼男と評した事がある。そう思わせる風貌(ふうぼう)


「八坂中佐。物事はそんなに簡単ではないです。」


 諏訪中佐は八坂中佐に苦言を示す。この小柄な躯体の男は、独創性(どくそうせい)は無いが命令に忠実で、指示した以上の働きをする優秀な人材だ。


「靖國大佐。お前さんが気にしているのは、その知的存在が何かという事じゃろう。」


 浅間中佐は靖國大佐が言わんとしている事を言い当てる。この年老いたヴィガージャ種は今年二五二歳になる。泊地島(はくちとう)の住人の中で唯一、本国を目にしてきた人物だ。


「そうだ。この知的生命体が遭難者だった場合、たいして気にしなくても良いだろう。」


 靖國大佐は軽く深呼吸をして話を進める。


「しかし、神霊値が無視できない値だ。土着の精霊や神霊がいる可能性も否定できない。そのため、私の方針を伝えようと思う。」


 靖國大佐は再び一拍置いて、方針を言い渡す。


「第一探査艦隊を初めての世界に派遣する。ペプーリア殿。当海域の安全を確保してくれ。」


「了解したよ。」


 軍医は普段の口調で答える。本来、上官に対する口の利き方では無いが、本国の命令系統と、帰還艦隊の命令系統は異なる。軍医は協力者と言う立場で、対等な関係だ。


 もっとも靖國大佐は、三人の中佐の口の利き方に対しても、特に気に留めていない。つい半年ほど前まで靖國大佐も中佐で、同僚だったからでもある。


「それと、土地神様などがいた場合、私に報告をしてもらいたい。」


「わかったよ。」



◇◇◇



「ようし。大佐のお墨付きもらったよ。初めの世界に侵入するよ。」


 軍医殿はポテトチップスを齧りながら艦隊司令席に座る。


「全艦。初めの世界に突入する。」


 第一探査艦隊は、初めの世界に侵入を開始する。


 吾輩は頭の中がかき回されるような錯覚(さっかく)を覚える。でたらめな浮遊感が襲い、世界が回転していると、錯覚させる眩暈(めまい)に襲われる。世界の境界を渡る時に襲われる、独特的な感覚だ。


 真水が海水に変わり、潮の香りを放つ。空は夕焼けから輝かしい空色に変わる。


「境界線を突破しました。現在位置、初めの世界内海。島から一〇キロほどの沖です。」


「島から三〇〇メートルの位置で艦を停泊(ていはく)させる。速力六ノット。」


「艦隊は初めの世界に入った。気圧一〇一三ヘクトパスカル、気温一三度。」


 出向時の泊地島と同じ晩秋の気候だ。同じ環境の閉じた世界だろうか。眩暈が収まったため、吾輩(わがはい)は艦長席から立ち上がる。


「上陸部隊を編成する。白兵戦要員は、各々の持ち場で待機させてくれ。」


「ところで、ボクは上陸するけど、チミも僕の護衛においでよ。」


 吾輩は常識論で軍医殿の提案に異議を唱える。


「何も艦隊司令が行かなくても、白兵戦要員から人員を割けばよいだろう。」


「それじゃあ駄目だね。探知した知的存在が神霊や土着神としよう。手間がかかるだけでなく、礼を失する事になるかもしれない。」


 軍医殿はいつの間にかポテトチップスを空にしたのだろうか。袋を丸めている。


 吾輩はため息をつく。今度は定型文で反撃をする。


「艦隊司令と艦長が、同時に艦を離れるわけにはいかない。白兵戦要員から護衛を出すから…。」


「ダメ。彼らだと足手まといだよ。」


 面倒なところを突かれたと、吾輩は思った。吾輩と軍医殿の戦闘能力は大体同じくらいだ。しかし白兵戦要員が対象だと、壁一つ隔たりがある。白兵戦要員も腕は立つが、実力は我が弟子、淺糟(あさかす)軍曹と同じくらいだ。


 吾輩と軍医殿が組めば、この艦にいる白兵戦要員二五人を、なんとか叩きのめすことができるだろう。つまりそれだけの実力差があるという事だ。


「もへへ。いい事思いついた。通信士さん。淺糟軍曹を思考無線で呼び出してくれない。今すぐ。」


「了解しました。」


「まて。」


 軍医殿の命令で動く船務長に待ったをかける。まったく困った物だと思いつつ、言っておかなければならない事がある。


「軍医殿。いえ、艦隊司令。艦の権限は吾輩艦長に権限がある。あまり越権(えっけん)行為をしないでもらいたい。」


 当然そのくらいの事は分かっていると思う。しかし、部下がいる手前、ちゃんと言っておかなければならない。この手の分別は、はっきりしておかなくては、命令系統に支障をきたす。


 軍医殿は吾輩の指摘を受けて、少しばつの悪い表情になる。どうやらわかってもらえたと思いたいだ。


「ごめんごめん。そうだったね。えっと…。」


 軍医殿は言葉を詰まらせる。次にどう吾輩を説き伏せようかと、考えているのだろう。


「分かった。軍医殿の要望通りにする。淺糟軍曹なら吾輩達と組んだことがある。手の内は分かっているから、無線機を担ぐ役割くらいできるだろう。」


 吾輩は白旗を上げる。軍医殿の言い分ももっともだし、吾輩が無線機を担ぎながら護衛の仕事をするわけにもいかない。無線を使うのは吾輩として、無線機を担ぐなら他の誰でも変わらない。淺糟軍曹ではだめな理由は無い。


「通信士。淺糟軍曹に連絡。無線機を担いで甲板に出ろ。艦首で落ち合おう、とな。」


「了解しました。」


「それでは砲雷長。艦の事を頼む。」


「了解しました。」


 吾輩は砲雷長に艦を任せて、軍医殿と共に戦闘指揮所を後にする。


 やれやれ。軍医殿の護衛となると、気が抜けんな。吾輩はでかかったため息を飲み込む。それにしてもこの三人で組むのは、いつぞやの(けが)れ溜まりの件以来だな。




 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は、初めの探索になります。


 それではまたお会いしましょう。 

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