第九話 13 地獄の囚人達は、何が起きたか分からず。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
靖國大佐の理力が、敵艦隊の原子炉に到達する。原子炉の核分裂が抑制され、原子炉が停止する艦が続出する。旗艦希望の船務長が靖國大佐に、全ての敵艦の原子炉が停止したことを報告する。
靖國大佐は艦外知覚装置を通して、敵艦隊の様子を確認する。精神観測、思考観測、理力観測。これらの観測結果を、思考無線越しに確認する。おそらく、敵艦隊は混乱しているだろうと、予測しながら。
◇◇◇
動力が落ちた艦隊は、文字通り混乱に陥っていた。
原因不明と思われる原子炉の停止。それに伴い艦の電力が非常用に切り替わる。
いくつかの艦は、何故か非常用電力に切り替わらず、文字通り沈黙する。中の囚人は突然の暗闇に襲われる。恐らく整備不良だが、帰還艦隊には関係ない事だ。
ある者は手探りであたりを彷徨い、別のある者は、泣きながら叫ぶ。またある者は混乱に陥りその場で暴れ回り、不幸な誰かはそれに巻き込まれる。
無事非常動力に切り替わった艦にも、混乱が襲う。レーダーは真っ白。ソナーは騒音混じり。端末の入力は頻繁に誤作動を吐き出し、再起動を繰り返す電子演算機すらあった。
銀山の電子装置の無効化能力が発揮された。これは電子的な妨害だけでなく、理力工学を用いた電子機器の妨害も、それに含まれていた。
地獄の囚人の焦りや混乱。靖國大佐には手に取るように把握できた。地獄の囚人の情報を一瞥した靖國大佐は、特定の情報を探る。
地獄の囚人の中にいる、ただ一つの神霊。本国からの報告が正しければ、おそらくそれは堕天使だろうという情報だ。
靖國大佐の目当ての物は、幸いすぐ見つかった。その神霊反応は、どこか諦観した感情を放っている。
詳しい情報を得るために、さらなる探査の術を行使しようとした時、神霊の感情が恐れに代わった。同時に術に対する反応も観測できた。
この期に及んで、ようやく気がついたのか。靖國大佐はあきれる。その様を確認した時、副長からの報告が入る。
靖國大佐は意識を艦内に向ける。そこには副長が、邪魔にならない位置に立っていた
「艦長。敵、主砲射程に入りました。指示を願います。」
「そうか。手はず通り、泊式対空砲弾で砲撃を開始してくれ。」
「了解。」
副官が一礼して部下に命令する。そしてすぐ後に響く主砲の、魂を揺さぶる音。砲弾はわずかな摩訶不思議な誘導により、正確に飛んでいく。そして敵艦に衝突する至近距離で、砲弾が炸裂する。
強い衝撃が敵艦の船体を襲い、船体を曲げる。衝撃波が、艦橋付近に設置してある電子機器を、景気良く吹き飛ばす。炸裂した破片が船体に衝突し、無数の穴をあける。敵艦はあちこちから浸水し、乗員はさらなる悲劇に見舞われる。
旗艦希望の砲撃の後、第一護衛艦隊の二隻の戦艦も、砲撃を開始した。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は、半身不随の敵艦隊に、致命傷を負わせていきます。
次回の投稿は六月一日なります。
それではまたお会いしましょう。