第九話 12 帰還艦隊の電子攻撃
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
旗艦希望を先頭に、第一護衛艦隊と巡洋艦銀山が、敵艦に向かって進軍する。銀山が最後尾について、殴り込み組の後についてくる。
「もへへ。上級大尉。そろそろ反撃開開始だよ。休めたかにゃ。」
「休息時間は五分か。僅かだが休めたかな。」
吾輩は時計を確認しながら言う。艦長席を立ちあがり、携帯型端末を再確認する。
最初は巡洋艦銀山の能力を用いて、電子攻撃を行う。この電子攻撃は、高度な理力工学の装置を用いて行うため、術に対して抵抗力を持たない電子機器にたいして、効果は抜群だ。
次に“誤作動”の術を敵艦隊に行使して、電子機器の作動不良を起こすことで、さらに艦隊を混乱させる。これも銀山の電子攻撃に乗せて、敵艦隊に行使する。
そして最後は、理力工学の術を用いて、直接敵艦の原子炉を停止に追い込む。これは観測により、敵艦全てに原子炉が搭載されていることが、確認されたためだ。
この攻撃は銀山ではなく、総旗艦希望艦長、靖國大佐が、直接術を行使する手はずになっている。
吾輩は、摩訶不思議装置の端末である錫杖を手に取る。試しに理力を流して、正常に動作していることを確認する。
「軍医殿。上からの命令の号令は来たか。」
「うんにゃ。後五〇秒ほどだねぇ。」
「そうか。」
吾輩は深呼吸をする。目を閉じて気持ちを落ち着かせる。雑念が消え、精神が研ぎ澄まされる。
「残り三〇秒。秒読み開始。」
軍医殿の命令で秒読みが開始される。一秒、また一秒と時間が少なくなる。吾輩は深呼吸を繰り返し、精神を研ぎ澄ましていく。
「残り二〇秒。上級大尉。術の発動準備。」
軍医殿からの命令。吾輩は錫杖を目の前に掲げ、両手で握る。理力を高ぶらせ、術を紡ぐ。短い呪文を繰り返し唱え、理力を絞り込む。
「一〇、九、八・・・。」
秒読みが続く。吾輩は摩訶不思議装置に理力を流し、術を増幅させる。体内の理力を高め、全ての理力を瞬時に放出できるようにする。
「三、二、一・・・。」
「電子攻撃開始。上級大尉。“誤作動”の術を行使してちょ。」
「了解。」
吾輩は、“誤作動”の術を行使する。体内の理力を可能な限り瞬時に放出する。理力は摩訶不思議装置に流れ込み、特殊な部品を介してでたらめに増幅される。術の形を成した理力が、敵艦隊に向かって、アニメに出てくる誘導光線のように、曲線を描いて飛んでいく。
摩訶不思議装置内の部品が悲鳴を上げる。己が増幅した理力により、配線が断線し、部品が湾曲する。紙媒体の部品が瞬時に発火して、残った理力が火炎に姿を変える。
「摩訶不思議装置から出火。」
「直ちに消火作業に行って。」
軍医の消火命令が吾輩の鼓膜を刺激した直後、突然世界が回転する。
眩暈が起き、吐き気に襲われる。気力が尽きかけて片膝をつく。
その直後、とても巨大な理力を感じた。空間に圧をかけ原子を安定化させる、理力工学の術。悪魔機
関の緊急停止に使われる術で、核分裂反応を穏やかにさせる術だ。
それが旗艦希望の靖國大佐から放たれたのを、一瞬の間を置いて思い出した。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は、ようやく反撃に転じます。
次回の投稿は、私用のため一週間お休みをいただき、五月二十五日なります。
それではまたお会いしましょう。