第二話 1 初めの世界の観測結果
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
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靖國上級大尉の航海日誌
航海三日目。吾輩達は閉じた世界の調査に向かった。理由は閉じた世界を経由して、忘却の川を上るためだ。そこで霊的な知的存在と遭遇する事になる。
忘却の川の水面が、夕焼けの空を照らす。
水面は真昼の青空を映している。水面に輝く太陽。水面に浮かんで水流で歪む、白い雲。人間界で飛ぶ鳥が、水面に映り込んでいるような気すらする。
銀山は忘却の川に佇んでいる。いや、正確には流されないように、上流に向かった前進している。この水域は川の流れが速い。場所によっては、もっと水流が速い場所もあるだろう。
そして気のせいか、川幅が狭いように思える。肉眼では果てしない水平線が続くが、観測機器の観測結果を見ると、この水域の川幅は狭い。時空間が狭まっているのだろうか。
銀山はこの先にある閉じた世界を観測している。この閉じた世界の名称を初めの世界と名付けられた。
初めて訪れる閉じた世界だからと言う、安直な命名理由だ。
初めの世界を観測しているのは、初めの世界を経由して、忘却の川の別の水域に移動するためだ。
現在遡っている川は水流が速い。そして上流は、さらに水流が速い場所がある。そこは川幅が狭く水流が速い。川幅と水量を鑑みて、輸送艦隊が通行できない場所だと、判断された。
よって初めの世界を経由して別の支流に渡り、そこから本国に帰還するため、再び忘却の川を遡る手はずになっている。
吾輩は銀山の戦闘指揮所にいる。現在初めの世界の観測を行っている。
「軍医殿。閉じた世界を経由しなければならないのか。」
吾輩は軍医殿に質問した事がある。その回答が…。
「閉じた世界経由の方が、早くて楽だよ。」
という回答が返ってきた。軍医殿の話だと、泊地島で建造された艦が、足を引っ張ているという事だ。
◇◇◇
「艦長。観測結果が出ました。その結果によりますと、知的生命体がいる可能性があります。」
「知的生命体が居るだと。」
吾輩は船務長の報告を受ける。回想から現実に引き戻される。
「はい。精神の波形を確認しました。」
「間違いないのだな。」
「こちらを確認してください。」
今回立ち寄る初めの世界。そこに知性生命体の存在を感知したと聞いた時、注意を通り越して警戒心を駆り立てた。
吾輩は船務長の言う通り確認をする。観測された記録は、知的存在がいるという事を示していた。
「だけど、それ。本当に生ものかなぁ。」
軍医殿が戦闘指揮所に入ってくる。片手にポテトチップスの袋を持っている。今は休息中だったはずだ。吾輩はまだ軍医には報告していない。それがなぜ戦闘指揮所にいるのだ。
「ちょっと虫の知らせがしたから来てみれば、ずいぶん面白い観測結果だねぇ。」
軍医殿は観測記録の内、知性を表すバーを何度もなぞって言う。液晶の表面が汚れていない所を見ると、指にはポテトチップスの油は付いていないようだ。
「ところで先ほどの生ものとは、どういう事だ。」
吾輩は虫の知らせについては、脇に置いて質問をする。生ものとは生き物の事だろうか。
「ちょっとこの項目を見て。生命力を示す数値は低いのに、この数値は中途半端に高いよ。」
そう言って指した数値は神霊値だ。この数値は、精霊などの非生物の存在が存在を表す数値だ。この数値が高いと、精霊や妖精などと呼ばれる、穢れとはまた別の存在がいる事を表す。
「忘れられた精霊でもいるのかな。ま、何とも言えないけど。いる。」
軍医殿はポテトチップスを勧めてくる。ポテトチップスの油と青のりの香りが、鼻に入ってくる。
「勤務中だ。いずれにせよ、本隊に連絡を入れないといけないな。船務長。観測を続けてくれ。」
吾輩はポテトチップスを断り、今後の方針を示す。面倒事になる事は目に見えている。
「上級大尉。ちょっと質問。いいかな。」
「なんですかな。軍医殿。」
「この水域の穢れの反応はどうかなぁ。」
軍医殿は質問をしながら、初めの世界内部の資料を見る。初めの世界に穢れの反応は見受けられない。
「船務長。本水域の穢れの状況はどうだ。」
「本水域には穢れの反応はありません。」
軍医殿は船務長の報告を受けてから、軍医殿は考えをまとめる。
「ありがとう。情報は出そろったかな。本隊との連絡をしよう。」
「了解。通信士。旗艦との連絡を繋げてくれ。」
吾輩は通信士に指示をする。さて本隊はどのような判断を下すのだろうか。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は本隊に報告した後に、初めの世界に踏み込むことになります。
それではまたお会いしましょう。