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 まるで、深い眠りから覚めたように混濁する思考の中、私は突如誰かに呼ばれたような気がして目を覚ました。

 ゆっくりと体を起こし、未だ覚醒しきらぬ頭でぼんやりと辺りに視線を向ける。

 暗闇の中で目を凝らした先に見えたのは、見慣れた天井、そして薄っすらと月明かりが差し込む窓だった。

 時刻は恐らく深夜を少し回った頃だろうか。

 静まり返った屋敷に、人の気配は余りしない。


「王都の屋敷か……」


 呟いた声が掠れた。

 だが、自分の想像よりも遥かに高い声色に、一気に私の意識が覚醒する。

 慌てて立ち上がり、鏡のある衣装部屋へと駆け込んだ。

 暗い中なんとか手探りで明りを点け、自分の姿を確認する。


「せ、成功したのか……?」


 鏡に映る私の姿は、まだ十歳にも満たないように見えた。

 手で何度も自分の顔を確認して、手足を動かす。

 違和感はない。


「やった…っ、やったぞユリアンっ!」


 侍女を起こさぬよう小声で、それでもハッキリと私は喝采を挙げた。

 そうしてこっそりと部屋を抜け出し、レミアの部屋へと向かう。


「……レミア…」


 辿り着いたレミアの部屋。

 もし眠っていた場合を考慮して静かに室内へと入れば、既にレミアのベッドはもぬけの殻だった。

 慌てて周囲を探ると、部屋に隣接した衣裳部屋から微かな明りが漏れていた。


「レミア、ここかい…?」

「お兄様…?」


 ぼんやりとした、どこか夢を見ているかのように戸惑った声が、確かに私の名前を呼んだ。

 目を凝らし、鏡の前で呆然としているレミアの姿を見つけた私は、一気に彼女へと駆け寄る。


「レミア!あぁ、生きてるっ!」

「お兄様!」


 抱きしめた体は夜の冷気で冷え切っていた。

 けれど、それでも亡骸ほど冷たくはなく、私を抱き返してくれたレミアの腕はしっかりと力強いものだった。


「お兄様……、これは現実ですか……っ?」

「あぁぁ…現実だ……、お前は生きている。会えた……、ようやく会えたレミア…」

「……おにぃさまぁ……」


 生きてレミアに会えた喜びに、枯れたはずの涙が後から後から湧き上がってくる。

 そこからお互いに泣きながらずっと抱き合っていた。

 生きているその温もりを実感しながら、ここまでの経緯を少しずつ話す。

 涙ながらに語る私の話は酷く聞き辛かったに違いないが、レミアも泣きながら私の話を聞いてくれた。


「お兄様の推測通り、わたくしに毒を盛ったのは恐らくロビアナでしょう」

「やはり……」


 漸く涙が止まり落ち着いたころ、今度はレミアから亡くなる直前の話を聞いた。

 どうやら私の推測通り、殿下からの毒をろくな説明もなしに渡したのはロビアナだったようだ。

 その上で父も一応は説得を試みたようだが、レミアが頑として首を縦に振らなかった事から、毒を準備したようだった。


「こんな事になるのなら、素直に署名をしておけば良かったですわ」

「レミア……」

「あんな男になぜ執着していたのでしょうね……、愚かですわ……」

「いいや、お前は愚かなのではない。誰だって努力を無下にされては怒って当然だ」

「お兄様……」

「悪いのは順番を間違えた殿下とロビアナだ」


 恋心を抱くなとまでは言わない。

 だが、ロビアナを妃にと望むなら、それなりに準備をすれば良かったのだ。

 レミアに真摯に謝罪し、手順を踏んで婚約破棄すればこんな事にはならなかった。


「………お兄様にもご迷惑をお掛けしました」

「いや、謝らなければいけないのは私の方だ」


 そこで私は初めて今回の禁呪の代償をレミアに話した。


「血統、ですか?………つまり、子どもは授かれないと?」

「そうだ。すまないレミア…」


 私は覚悟の上での自業自得だ。

 だが、レミアは違う。

 折角時が巻き戻ったのならば、今度こそレミアには愛する男と幸せな結婚をして欲しいと思っている。

 だが、子どもを産めないという事は、貴族令嬢にとっては致命的な欠点だった。

 例えその事を隠して嫁いだとしても、数年経っても授からなければ石女(うまずめ)の烙印を押されてしまう。


「構いませんわ、お兄様。お邪魔でなければ、生涯お兄様のお傍に置いて下さいませ」

「レミア…」

「二人で仲良く暮らしましょう」


 存外涙もろくなった私に、どちらが年上か分からない様子でレミアが慰めてくれた。

 そうして私とレミアの第二の人生が始まったのだ。




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