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 (いにしえ)の神代から魔法が滅んだとされる現代。

 そんな中、唯一その存在が確認されている禁忌の邪法があった。

 七つの大罪術式。

 その邪法の現存が判明したのは、今から五十年ほど前に実在したある人物の告白からだった。

 リンデンベルグの傾国の美女レジーナ。

 絶世の美女と名高かった彼女の今際の告白は、七つの大罪術式【淫蕩の魅了】を用い、リンデンベルグ王家を魅了したというものだった。

 死の間際、彼女の枕元に集まった王家の面々を嘲笑いながらの告白。

 復讐だったと言った彼女は、その詳細を一切語らぬまま亡くなった。

 そしてその告白に、各国の上層部に震撼が走った。

 滅んだとされる邪法の存在が明らかになったのだ。

 またその邪法が七つの大罪と言われる禁忌だったこともあり、各国でその調査が行われる事となった。

 すると、次々と邪法の痕跡が各地で見つかる。

 

 一家全員が忽然と消える。

 栄華を極めた貴族がある日突然没落する。

 ある時期を境に、一族の子どもがおかしくなる。


 そういった情報が多々寄せられる事となった。

 それは明らかに伝説として伝え聞くのみだった禁忌の呪法の痕跡であった。



◇◇◇



「フェリクス殿、本当によろしいのですか?」

「……何を今更」


 心配そうに私を見つめるユリアン。

 そんな彼に小さな苦笑を浮かべながら、私は苦心して描いた足元の魔法陣を見つめる。

 膨大な血液を使用して描き終えたそれの名は【傲慢の時戻り】と呼ばれる魔法陣。

 そして、その対価は術者の血。

 未来永劫、その血統を断絶することを代償にした、未来を捨てる代わり過去へと戻る禁忌の大罪呪法である。

 この呪法が大罪とされる理由の一つは、三親等の血縁者の血統を捧げる必要があるからだ。

 何も知らない親・兄弟・そして親族の血統を断絶させるが故に、この邪法は【傲慢】と名付けられている。


「あんな奴らの血を未来に残さずに済むのだ。これほど私の希望に沿った術などない」


 ただ一つだけ心残りもある。

 もし無事に時を戻ることが出来たとしても、レミアの子どもを抱くことが出来ないという事だ。


「ユリアン、もしもの時は頼む…」

「はい。お任せください」


 一年前、王都を出て真っ先にユリアンの元へと向かった私は、彼に協力を求めた。

 そして二人で禁呪についての情報を集めた結果、私はついに【傲慢の時戻り】の手掛かりを得られたのだ。

 そこからの私の行動は早かった。

 誰にも邪魔されない場所を選び、後のことはユリアンに託すことにした。


「もし失敗した時は手紙を頼む…」

「必ずや貴族中に配布いたします」


 現在王都にいる王太子殿下はかなりの苦境に立たされている。

 何故なら、遅々としてロビアナの王子妃教育が進まないからだ。

 余りの学の無さに教師陣が匙を投げて久しく、レミュール殿下もここにきて酷く後悔しているという。

 それでも無事に次代の王族を生んだことから、ロビアナは彼の正妃として在り続けているのだ。

 だが、王太子が側妃を迎えるのも時間の問題だろう。

 焦ったロビアナが必死で私の行方を探しているらしいが、私が彼女に会う事はもうない。


「ではユリアン、また会おう。……いや、会えることを祈っている」

「はい。またお会いしましょうフェリクス殿」


 そう言って彼と最後に握手を交わし、私は魔法陣の上に立った。

 既にこの魔法陣を描くために大量の血を消費している私は、多分放置していても数刻で命を落とすだろう。

 だが、そんな数刻の時を待っていられるほど、私の気は長くない。


「ようやくこれでレミアの元へいける……」


 私とレミア、そしてユリアンの名が刻まれた魔法陣を確認し、私は手にしたナイフをそっと首に押し当てる。

 そして、それを一気に引いた。

 飛び散った血が魔法陣へと吸い込まれ、代わりに眩いほどの光が私を包んだ。

 どうやら無事に呪法は成ったようだ。

 倒れこむ私の視界の隅で、歯を食いしばったユリアンが泣きながら私を見ていた。

 見た目に反して彼は存外涙脆い男だったことを思い出し、ふっと唇に笑みを乗せる。


「ユ、リアン……」


 君が居てくれて良かった…

 残念ながら感謝の言葉は最後まで言えず、私はそのまま意識を手放した。



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