異世界から召喚状が届きます。~最弱の戦神の求める安穏とした日々~ 前編
異世界から召喚状がくるのは、何度目の冬の時なのか。
もうこの世界に闘える者はいない。時間が止まったこの世界で人は老いることはない。
人の生まれなくなった世界で、義務として闘える者を派遣して、帰ってこない人が沢山いて、もうこの世界には少しばかりの人しかいない。
召喚状がくる度、もうこの世界から、闘える者はいません送れませんと返事を出すと、ふざけるなさっさと送れと手紙で恫喝がとんできていた。
そんなやり取りが何度かあったあと、異世界から軍がやって来た。そして、人狩りをしていった。
神として底辺にいるとしても、神の矜持として勝手を赦すわけにはいかない。ここの秩序は私が司っているのだから。
だが、私は甘かった。相手は神の軍だ。率いる神は格上で一瞬で負けた。
人狩りが行われるのを只見ているしかなかった。人は居なくなった。動物も植物も全部奪っていった。この世界には何もなくなった。有るのは大地と海と空だけだ。もうなんにもなかった。
空っぽの世界のなかで、只、時折これ見よがしに、召喚状がくるだけだった。
この世界の神である私は、生き物が居なくなってしまった世界がいたく気に入った。
風呂に入らなくても汚れる事はない、食事を取らなくても餓えない。中身は全部出てしまった後は次々と出てくる事も無い。
人類の残していったデジタル玩具は劣化せず、漫画も、読み放題。アニメも見放題。得にぐちゃぐちゃ訴えてくる信者もいない。善いことづくめだった。
そんな有意義な日常に水を差すのは、偶然を司る女神である。異界から生命体がくると、大体の確率で女神の仕業である。
鬱陶しくも、勤勉で優秀な者が来たときなど最悪で一々此方の居場所を見付けて話掛けてくる。
ウザイ 基本的にこんな所には、彼らが求めるような困った出来事はないのである。
こういう場合は大抵の場合最もらしい事をいいながら、勝戦の神が担当している世界へ送った方が、サクッと片が付く。
放置したり勝ち戦の所へ送り込んだり色々忙しくしていた。
ゲーマーレベルがかなり高くなってきた頃、また異界から、高度な知的生命体を自称する馬鹿共がやって来た。
ホント鬱陶しいよなお前。的な目付きで睨んでやると、偶然の女神は慌てふためきながら ワタシじゃない と言い張った。
「……う~んとねっ、ほら、魔力の気配がある!………ほら、魔力の気配がある!!!…ねぇ!!魔力の気配が有るんだってば!!!!」
彼女は半泣きになりながら訴えてくる。正直……愉快である。
常日頃この女神のヤラカシを考えると、多少サディスティックに振る舞ってもお釣りがくるというものだ。それに、この女神はゾクゾクする。困った顔や涙目になるまでジワッと追い詰めたり・・その成果は蜜そのものである。
女神が泣き喚きすがるので、嫌々ながらという表情を見せ付けつつ魔力を探る。使用形跡があった。
何処の馬鹿なのか!!神か人かは謎だが、意図的にこの世界に人を送ってくるとは!
しかも、真っ直ぐに此処へ来やがった。この世界の神として相手をしなければならなくなった。
男は礼儀を弁えているようだった。礼儀を弁えていさえすればなにやっても構わないと思っているタイプだった。
「わたくしめが、ここへきたのは、戦の準備の為です。戦況が切迫してすぐさまきたのです。
この世界の神であれば増援が期待できると。
神自ら戦に赴いて下さり 助力して頂ければと、
戦況は優位なのですが、何をどうやっても歯が立たず、我らが神は囚われたのです。
此の勝戦何としても勝たなくては!出陣をしてください。」
増援は少ないながらも一応は送る事を約束し負戦の神として微力ではあるが参戦することを伝えた。
使者は気色ばんだ。
「何故ですか!何故我らが神を見捨てるつもりですか。増援すら送って下さらないとは!
戦の折り勝ち戦神と負戦の神の間で同盟の盟約を結ばれたのでは無いのですか?なのに戦況が思わしくないだけで切り捨てるとは見損ないましたぞ!」
手を翳して男を消し飛ばす。
「…え~と、いいんですか?色々ユニークな人でしたけど、殺さなくても。」
この世界に程度の低い者は不要なのだ。脳ミソが端から期待出来ないなら未だしも、健常者脳でありながらまともに言葉も出来ない、他者の発言の聞き取りも儘ならないなら、消えた方が世の中のためなのだ。
兎も角彼は用済みだ。戦があった。勝ち戦神が捕まった。相手は神々の連合。そして盟約通り助力はする。援軍も送る。
以上だ。死んだ男も文句はあるまい。望みは叶った。
「それはそうだけど。勝てるの?」
女神はじっと見てくる。
女神にはゴーレムの群れをけしかけ、異界へと渡った。
勝ち戦の居場所が解らないのでその辺りで群れなして襲ってくるものを皆殺しにしてみる。拷問込みである。
居場所は解った。後は村々から連れてきたもの達である。女神から引ったくってきた賽子を振り、敵だ仲間だアイテムだ、と出逢わせていく。
生き残ったのが五割強。首尾は上場だ。
神という存在は、詐欺師の典型例ではなかろうか。男の神ならば戦慄を、女の神ならば清廉さを、年寄りなら威厳を、子供なら賢さを、各々信者にしたい者の前で雰囲気の提供をするのである。さすれば狂信者が湧くのである。
負戦の神と云えども神なので、力を見せびらかし焚き付ければ、五割強を基本ベースに四割程度、勝ち戦神の信者を生み出し、後の六割は勝ち戦神の狂信者にすることが出来た。
さて、彼等には死を恐れぬ肉弾と化してもらう前に、作戦参謀中心に作戦を練って貰わないといけない。
その作戦会議だが何だか揉めまくっている。
「私達は戦えば敗けはしまい。彼の神達も勝ち戦の神を殺しもせず生かしているのは勝ち戦の神に勝てることは一切無いからで、今こそ突撃し、勝ち戦の神の奪取を行うべきだ!」
「もう少し慎重にするべきだ。大体勝ち戦の神が居ないのにどうやって神々の軍団に勝つつもりなのだ!神々の祝福がある敵軍と神の祝福が無い我らが軍と戦ってどれ程の効果があるのか?隠密作戦で勝ち戦の神を奪取する方が重要だろう!」
わいわいギャーギャー五月蝿く議論している。
正直シンドイ。これが人という存在なのか。やっぱり世界から居なくなって正解だったか。と負け戦の神は感慨に耽っていた。
「負け戦の神はどう思われますか?」
一堂の眼差しが負け戦の神に向く。負け戦の神は内心焦った。
「私は負け戦の神と言う名をほしいままにする存在。そんな存在に意見を求めるより、貴殿方の知恵を寄り合いどの様な作戦がこの盤面を引っくり返すことが出来るか、知恵を搾ってみてはいかがでしょうか?」
負け戦の神は自分の評価ではかなり無難な答えをした筈である。これで我の強そうな人々の嫌悪から回避出来た筈である。
だが、何故だか負けじと勝ち戦の神の部下達が考えの提示を求めてくる。
そして、それをやんわり断る負け戦の神。攻防が数度。
ついに勝ち戦の神の部下が、高圧的な態度を取ってきた。高圧的な態度を取ってきた勝ち戦の神の部下を叩きのめすと、何人か挑んできたので同様にぶちのめしてやった。
「未だ続けますか?」
負け戦の神は一堂を見渡す。武器に手を掛け殺意を向けてきたものは全て息が止まっている。後は黙って見ていた懸命な者しか居ない。
「若し宜しければ、少数精鋭での奪還作戦の指揮を執って戴けませぬか?」
「指揮は執りませんが、戦力としては是が非でも協力させて戴きます。」
「では、それでお願いします。」
話はあっという間に片が着いた。総攻撃派が皆死んでいるのだからそんなものなのだろう。
幕舎から出ると、見知った顔があった。素通りする。
「待って下さいよ!随分じゃ無いですか!」
見知った顔の正体は、偶然を司る女神だった。
「どうしたのですか?」
「取り敢えず此処じゃ何なので、何処か行きましょうよ!」
「私はこれから勝ち戦を奪取する為の作戦行動に移るので無理ですね。」
「ねぇ!何とかならないかなぁ?」
偶然を司る女神は作戦参謀の老人に尋ねた。
老人はサッと紙へと目をやった。先程色々書き込んでいた紙だ。
「まぁ、直ぐに作戦に移るわけではないので、今日の天辺までは自由時間になります。此方も支度が有りますゆえ。」
その言葉を聞くと、“ありがとう”と一言感謝の意を伝え、此方に向き直り微笑みながらべったりと近付いてきた。
「取り敢えず、どこに行くの?」
運命を司る女神は、負け戦の神の手を引いて歩き出した。
地下に潜入した。
「案外簡単だったな……敵は何時もこの様な有り様なのですか?」
「馬鹿を言うでない。こんなにも容易いのは始めてだ。いくら真理十二神が不在とはいえ、…こんなものなのか?」
「負け戦神様はどう思われますか?」
「まぁ、罠でしょうね。」
「やはりそうでしょうか。」
「まぁ、何がどう転ぼうと、今更ですしね。神々の戦のおり、こちら側の勢力の主神たる勝ち戦の神が捕まっている以上、手を混まねいている訳にはいかないし、時間が只過ぎていくのは、此方が敗戦となる訳ですし、まぁ、正しく“背水の陣”且つ“虎穴に入らずんば虎児を得ず”ですね。」
「では、真理十二神が居ない今の内に助け出すのが一番なんですね。」
負け戦の神はそれには答えず、にこりと微笑むのみだった。
人が五六人は余裕で通れ、天井も自棄に高い通路を四人は歩く。慎重に行こうというのだろう。曲がり角では気配を感じ、辺りを探り、歩く。もう一時間、何とか警邏の看守は物陰に隠れやり過ごしている。
漸くだろうか、此の牢獄の最奥へと辿り着いた。
巨大な牢があり、太い木製の柵があった。
その柵を隔て繋がれる影がある、勝ち戦の神だった。
木製の手枷・足枷が填められていた。
「勝ち戦様!」
勝ち戦と共に過ごしてきたと言う将軍が大声を出す。
誰も何も言わずに勝ち戦!と連呼する将軍と勝ち戦神を見ている。
その内の一人が木製の柵を破壊し、我先にと四人は近づき手枷・足枷を砕く。
兎も角床へと下ろし仰向けに横たえる。四人で掛かりっきりで勝ち戦神をその場で出来る介抱をしていたので、負け戦の神は看守が来ないか見張りに立っていた。解放している内に勝ち戦神が目を覚ます。
四人が一様に喜びの声を上げる。勝ち戦の神に忠義を示す言葉を紡ぎ、そして、今迄の経緯や人物の紹介などで盛り上がっていた。
一区切りついたところを見計らって、負け戦は声をかける。
「勝ち戦さん」
「おう負け戦ではないか!お主も来ておったか!かたじけない。」
「勝ち戦の神もお元気そうで何よりです。」
「ウム、少しばかり力が衰えたが、二三合敵とまみえれば、あっという間に元通りよ!」
「そうですかそれは何よりです。私も貴方が、未だ未だお元気そうで武者震いが止まりませんよ。」
二柱と四人の声とは明らかに違う声が響く。見ると牢の格子があったところに一つの存在が立っていた。
その姿を勝ち戦の神が視認するかしないかの内に、牢獄が煙に包まれる。
勝ち戦の神が気付くと、牢獄の広い廊下を走らされていた。
その一瞬で勝ち戦の神は自身の足で走り出す。
勝ち戦の神の右腕の男が先行して一同の先頭を走る。
「凄い本当に凄い!」
狂信者は驚いていた。
罠であろうからと油断を誘う為、悠長に自己紹介をするのだと指示されたときは生きた心地がしなかった。
勝ち戦の神は言わずとも解るから問題ないと言われても半信半疑だったのだが、こうしてみると事前に打ち合わせていたのでは?と感じさせる程、勝ち戦の神様は旗本の部下達と連携がとれていたのだ。
凄いと感心すると共に、自分もこうありたい何時かこうあるのだと、勝ち戦の神に忠誠を誓うのだった。
目の前の敵の首を獲りつつ、ふと、
「負け戦の神は肥えたか」と勝ち戦は尋ねた。
「それは肥えますよ。先の戦争からどれだけ経っていると思っているのですか。」
「……三千年は軽く越えたな。」
「二千八百五十三年ですよ。相変わらずいい加減ですね。」
「ハッハッハッハッハッ!お主には負けるよ!」
「後ろと前から敵が!」
「左右からも来ます。」
一行は二手に別れる事にした。
勝ち戦の神とその部下達を負け戦と狂信者は見送る。
無粋にも、暗器が飛んできた。負け戦は自分でも何処から取り出したか分からない杖を使い、暗器を弾いた。
ゴズッと凄い音をさせて、地面に突き刺さった。
通路の暗闇から、ゆらっと牢屋で遭遇した一味が姿を現した。
「何ですか?貴方達逃げなくても良いのですか?」
負け戦は振り返った。
「私達は足止めです。」
男神が一柱、生真面目な表情をしていた。
「負け戦の名を欲しいままにする貴方が、足止めに成れますかね。」
負け戦はじっと相手を見ていた。
「私も神の端くれなので、全力を尽くさせて頂きますよ。」
「私めも力及ばすながらも、狂信者代表として力を尽くさせて頂きます。」
狂信者は張り切っている。先程の出来事に当てられている様だ。
「今からでもこちら側に来ませんか?流石に貴方を殺せとの命令は受けていないので、今なら命を奪わない様にしてあげますよ。」
「一応敗戦時の契約なので。」
「確かに契約を守らないのは信用に関わることですが、貴方はほぼ隠遁していた身。
何処ででも、生きていけるのでは無いですか?この後の一生涯を快適な牢獄で過ごせる様に取り計らってあげますよ。」
負け戦は無言で睨め付けた後、武器を握り締めた。
「……申し訳ありません。またの機会に誘って下さい。勝ち戦を勝たせないと任務を遂行した事にならないので。」
「難儀なものですね。貴方という存在は。分かりました。しかし、残念です。」
「此方も、魅力的な御誘い、残念です。」
「では。」
「では。」
互いに名残惜しそうに武器を向ける。人々はそれに習う形で武器を構えた。
そして、彼らの闘いが始まった。
真理十二神の一柱、九之神は今、勝ち戦の神の前に立ち塞がる連合軍の指揮をしていた。
戦が彼方此方で起こっている。色々な戦地があるが、勝ち戦陣営は、持ちこたえている様だった。
「意外だな、こんな抵抗があるなんて。」
副神の一人が呟く。
“まあ、確かに”と九之神は内心同意する。今迄の勝ち戦陣営からしてみたら、動きがまるで違った。
まるで、こちらの情報が筒抜けであるかの様に、先んじて動く。
《此処までだと、内通者の存在を疑うべきですね。
だが、内通してどうする?所詮あいつ等は負ける。其れなのに協力者が出るのかな。》
確かに潰しきれていないだけで、戦況は此方に優位である事は変わらない。
なので、裏切る意味はない。
因みに、勝ち戦の陣営が入り込む余地はない。凄まじい迄の管理をしているからだ。
だが、現実は明らかに先手を取られたのだ。
《……何にしても此処で決着が着く》
勝ち戦の神は、三柱が相手をする。これで勝ち戦の神の陣営はこの世界から居なくなる。
そのあと、勝ち戦が治める複数の世界の内、神連合に保護を訴えた神々以外の、所有世界を真理の神の天領とするのだ。
それによって、真理十二神の崇める神が、多重世界の頂点に立つのだ。
それが、我らの幸福である。
真理の神は奥ゆかしい方だから、最初は渋るかもしれない。
が、多重世界の平和には長が必要で、長足る者が、力を付けて措かなければ、野心的な神の蹂躙が再び起こってしまうかもしれない。
そうならない様に、又、そうなった時の為に、最強最大の神が必要なのです。
と説得を続ければ、御優しい真理の神こと、きっと解ってくださる。多重世界を見棄てたりしない筈だと、九之神は思っていた。
そして今千里眼に、勝ち戦の神を含む複数の影が、牢獄内から出て来たのが見えた。
最終オペレーションである。
勝ち戦が出て来た。
「各員配置につけ。三柱…用意…………突撃。」
「はい!……突撃開始します。」
「はい、宜しく御願いします。」
九之神は千里眼で、勝ち戦の神が倒れ、陣営が崩壊するのを心待にして、自ら立てた作戦の行く末を見守るのだった。
血生臭いなあと、負け戦の神は思っていた。
地下は血で溢れ、とてもではないが長くいたいとは思わなかった。
勝負は一瞬で済んだ。とても勝負にならなかったのだ。
流石は神同士の戦いといったところか。
そう言えば、命が消え行くのを久し振りに見た。
今は凄く静かになっている。失われた命の分、地下はもう静かなのだ。
地面に落ちた首が怨めしそうに、虚空を見ていた。
真理の神はこの戦における勝利を確信していた。
何故ならあの悪名高き勝ち戦の神をもうすでに捕縛しているのだから。
健気にも矮小たる生物がナニか抗っているが意味はない。
神の介入する戦であり、神を戦の頭に据える以上、神を押さえてしまえば、もうすでに勝利条件は整えられているのだから。
なので、それは突然だった。勝ち戦の神を捕らえてある地域が消えた、消滅したのだ。
真理の神を首とする神連合は、大騒ぎになった。地上の一部を消滅させるなど神協定上あり得ないからだ。
そして、程無くして、勝ち戦の神の本営が瓦解したとの報告があった。勝ち戦の神に付いていた知的生命体の八割が消滅したのだ。
それと共に真理十二神の率いる神の連合軍の駐屯部隊も、勝ち戦の残党との総力戦の仕上げの開始報告を最後に、連絡がとれないらしい。
真理十二神には、資源の確保を伝えていた為、滅多なことでこの様な甚大な被害を生み出すことはしない筈だし、する意味も無い。神連合が勝っているのだから、その形勢を覆させる様な出来事があるとは思えない。
仮に勝ち戦側の攻撃だとしても、勝ち戦の神が地上を変える程の強行策に打って出る事はないだろう。
では、誰が?
「状況の把握に努めよ。」真理の神は下知を飛ばした。真理十二神の暴発も視野に入れざるを得ないのかもしれない。
その時、伝令がやって来た。
会議の間は騒然となる。
「降伏勧告だと、この連合にか!」
どうやら、何処かの神が勝ち戦の神を殺し、派遣されていた真理十二神をも殺したと言っているらしい。
「繋げ!」
神々の円卓会議の間に、其々が見える形で、映像が現れた。
真理の神は、映像がに映っている者にうっすらとした記憶があった。
「御初にお目に掛かります連合の方々。私は仙境の戦神と申します。
用件を言いますね。
勝ち戦の神は私が殺しました。……取り巻き諸共です。
真理十二神も此方に派遣されていた方は、目についた端から殺していきました。数は存じませんが、連合軍は消滅させました。
本題は貴方達に降伏して欲しいと言う事です。
それと降伏を受諾する為の条件ですが、
一つ、勝ち戦の神の領土は元々の代物以外は直ちに元の持ち主か、後継者に返還し、誰も継承者が居ない場合は、制限付きの自由世界にする事。内容は書類を送りますので目を通しておいてください。
一つ、勝ち戦の神の領土は、一部を除き、制限付きの自由世界にする事、此れも目を通しておいてください。
除かれた一部は私が領有します。
一つ、私の納める世界とは不可侵条約を締結して、私の世界に直接的・間接的に干渉しようという者は其方が責任をもって、処理してください。
一つ、多数世界の統治を連合軍に赦す変わりに、オブザーバーとして、全ての神の連合軍に対する干渉権を保証してください。
後、運営方針は基本的に全ての干渉権を持つ者に公開の原則を付けます。
後、多くの干渉権によって提示された課題について、連合は従う義務を追うことにします。
細かいところは追々使いの者を差し向けるので、それによって決めますが、大体の方針はそんなものです。
どうですか、呑みますよね。この要求。」
「何を考えている?」真理の神は尋ねた。
「ああ、そうですよね。……私は今迄、この存在を希薄にしてきた神です。今更、面倒そうな政治の場に出るつもりは有りません。
今回多くの命を屠ったのは行き掛かりやむを得ない事情があったからで、本意では有りません。
ので、貴方達とこれ以上戦う必要性が無いのです。
なので、」
「言いたいことはそれだけか?」
「と言うと?」
「断る!話にならんな。命乞いするならもっと情に訴えてみてはどうだ。」
「貴方達が出動させた連合軍は私が壊滅させたのですが?」
真理の神は否定の意思を首を振ることで示す。
「そもそも何だあの条件は。勝ち戦の領土は全て我々連合軍が管理するに決まっているだろう。貴方の取り分など認められない。」
「正当な取り分ですし、かなり貴方達に譲っているのですが?」
「あり得ない。これは正義の戦いなのだ。勝ち戦の神の領土を全て取って、世界に驚異が失せた事を証明しなければならない。取り分など認められない。」
「しかし、」
「しかし等無い!君の取り分だが、君自身の領土に対しても此方側で管理する事になるだろう。」
「今の現状で…」
「君は勝ち戦の協力者。これは真理十二神を倒したことでも証明されている。君の行為は明らかに敵対行為であり、今迄の罪も問わなければならない。」
「分かってますか?貴方達は」
「分かっていないのは君だろう!君の様な存在は我々は許容出来ないのだよ!」
「……では、終戦協定は決裂ですね。」
「そう言う事になるな!」
「では、戦争の継続の意思が貴方方にあることで宜しいですね。」
「正義は悪に屈することは無いのだよ!」
「戦争の継続の意思があるかどうか聞いている。」
仙境の神は怒りに表情が歪んでいた。
それを横目に真理の神は余裕を感じさる表情で応じた。
「切れ、不快だ。無駄な時間を費やした。貴様の首は我らが貰う。首を洗って待っていろ。」
真理の神は、目配せで士官に合図をだし、回線を切らせた。
「真理の神よ!良いのですか?」
狼狽が目に見える形で、老いの農業神が声をかける。
「あぁ、奴は騙るに落ちた。奴の話から推察出来た事がある。」
「しかし、」
「しかし、なんだ。」
「………交渉内容は此方に有利でした。」
「だからだよ。交渉内容が有利すぎた。最初から奴は負けていたのだよ。
交渉内容が有利すぎたのは、奴に自信がないからだ。奴の実力は大した事がない。真理十二神と勝ち戦陣営の疲弊に漬け込んだに過ぎないだろう。
もしも自身の実力に見合わない手の付け方をしてしまえば反乱が起こる事を心配しているのだ。
でなければあそこまで小さな要求になる筈はない。
実力の不足を認識している者ならではの小物っぷりだ。要求内容からして怯えているではないか。
それに交渉のやり方も知らない、田舎者だったしな。
そういえば、あの神は私は見覚えがある。あんな奴に・・」
「まさか……知らない?」
話を聞いていた神々の一部はお互いの顔を見あった。
真理の神の勝ち誇った笑みを見ながら主戦派の神達は真理の神の明察に湧いた。
そして、穏健派は目配せをし合い、直ぐ様この場から逃げようとしたが遅かった。
その日は、世界に激震が走ったと彼の者は言う。
勝ち戦の神は実に上手くやったのだ。最強と謳われた神を調伏し、その最強の神の武威を最大限に利用し、全世界の覇者となった。
そして、真理の神は言葉を飾るだけの無能だった。勝ち戦の神に刃向かったのは立派と言えるが、只の阿呆だったのだ。噂話を真に受け、真贋を正そうともせず、周りに乗せられるだけの無能な輩。だから、負けたのだ。
そして、勝ち戦の神も下手を打ったのだ。仙境の神の最も嫌うことをあの場で行うとは。
だから、結局のところ勝ち戦の神も、無能だったのだ。
傲り昂り仙境の神の怒りを買うとは。
なので勝ち戦の神も死に、真理の神も死に、付随する数多の神や準神達そして、英雄等を含む人々多くの命が失われ、全世界が仙境の神の基に纏められる事になったのだ。
仙境の神は神の玉座に就くなり所望した。
複数世界の支配と見目麗しい一人の少女を。
真理の神の子供は得も言われぬ、美しい少女だった。
彼女を仙境の神への贈り物とし、その他の要求にも応じ、世界は平穏を取り戻したのだった。