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リズムゲーム

 楓は引きこもっていた。

 特に何か原因があるという訳でなく、ただ、何と無く世の中が厭だという理由だった。

 なので特にやりたい事も無かったので、ただ寝転び、ただ天井を見詰めるその中で静かな時間が過ぎるのを待っているだけだった。

 そんな時間を三年の月日過ごした。

「何か肥っちゃったな。」

 三年の月日家の中で過ごしたので、全然動かなかった。

 そして、ただ、家の中にいるというのは暇だったし、動かないことによるストレスがあったので、ストレス解消のためか、気が付くと大量に且つ日に五回以上は食事をしていた。

 流石に体に異常が出始めたので運動をすることにした。

 朝方に町内を一周するというものであった。

 まあ、巨体が動くのだから、新聞配達のお兄さんは驚くし、朝のジョギングで健康を維持しようという年輩の方々も、多少は驚いている。が、まぁ公道では皆平等だしと思い、朝町内を散歩するという計画は実行され続けた。

 お腹が減り易くなったので、更に量を食べるのでプラスマイナス0ではある。


 楓には、嫌いなゲームがあり、

 格闘ゲーム

 シューティングゲーム

 アドベンチャーゲーム

 レーシングゲーム、これ等が嫌いだった。

 アーケードゲーム系は、金を凄く使う遊びだ。

 子供の時分の楓の予算では、上達迄にどう頑張っても足りなかった。

 格闘系コマンド入力とか、鬼門である。

 漫画雑誌も、余り好きではなかった。

 漫画の単行本一冊買える程度の予算を、自分が好きでもない漫画に支払わないとならない。それが紙媒体の漫画雑誌だからだ。

 なので、楓がプレイするゲームといえば、ロールプレイングゲームか戦略シミュレーションゲームくらいだった。

 家庭用ゲームソフトオンリーである。



 だが、その嫌いなゲームも引き隠り生活を続ける中で手を出して、一応最後まで行き着く様にはなっていた。







 引き隠り生活のある日、楓に困ったことが起きた。

 例のごとくRPGに興じていた。その日は中古ではあるが今までプレイしたことの無いゲームをやっていたのだ。

 だが無情にも、とある道である存在が立ち塞がる。

 仲間のキュアースだ。

 彼は主人公の頭が固いと一方的に告げてきて、街道ダンジョンのボスを倒し終えて、主人公にとって未知の土地にいざ行かん!という段階で、ミニゲームを提供してきたのだ。

 それは、スライドパズル。

 キュアース愛しのリーシヤという少女の肩から上の絵姿が描かれたスライドパズル。

 楓はスライドパズルが大の苦手だった。

 だが、このパズルを解かない限り、ストーリーが進まないという驚愕の事実が判明するに至り、楓の心に絶望の風が吹き渡る。

 楓には姉がいて、姉はスライドパズルが得意だったので、姉に頼むという選択肢も頭に浮かんだが、リーシヤを見られるのは気恥ずかしかった。

 この時楓は花も恥じらう十六才。思春期真っ只中であった。




 また年月が過ぎた。


 楓はリビングのドアの前で突っ立っている。

 そして、


 何故自分が引きこもりなのか考えてみた。

 ……無慾なのだ。

 何が欲しいという事もなく、

 仮に欲しいものがあってもダメと言われればダメだという認識で生きてきた。

 なので自分の回りに何にもなくてもそれが当たり前なので苦痛ではないのだ。

 無慾の勝利と世間では言うし、無慾であることは美徳であると世間は言うが、慾と言うものは個人が社会で生きていく上での動力であるのだ。

 楓が何故、引きこもった状態でいられるのか。それは他人よりも動力源の不足。つまり慾の不足。

 見方を変えると、無慾である事こそが引き隠り続けていることの動力源となっているのだ。


 楓は“社会復帰しようかなぁ”と思い、慾の造成に努めることにした。


 慾の増加には、慾と云うものを焚き付ける為、必要なものがある。


「父さん、母さんこれからは、六ヶ月に一度、一万円或いは五千円の小遣いを貰えないかなぁ。」

 リビングでテレビジョンを観ている両親の顔の見えている範囲に座り、楓は慾の原動力の話をした。


「お前は何を言っているんだ!」怒鳴りつけられた!


 父親恐い! ((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル


 至って真面目な考察だったのであるが、何せこの数年間只、部屋の中にいて外に出てこないのである。

 その辺りのニートとは違うのだよ!


 と言ってみたら、母さんは握り拳を振り上げてきた。

 父さんが母さんの腕を持ち、落ち着くように促す。

 何故だ!解せない!



 この様な経緯で、予定の一万円は年一回の配給になった。




 ……とは言え、何に対して慾を持てばいいのか?


 楓は自分の部屋に戻る。

 机の上に一万円を置き、椅子の背凭れにガッツリ凭れつつ、考えてみた。

 楓は何にも興味が持てなかった、買う対象が無いのだ。

 ぶっちゃけお金イラナイ!持ってても使い途無い!

 何か此でお金返したら良いのかな?


 親に相談したら“返金不要”との事だった。


 詰んだ! Σ( ̄ロ ̄lll)


 これでは家庭内で引き隠り生活が、針の筵状態に為るのでは無いか!最悪である。

 自分自身の真面目な考察を、これ程呪った事は産まれて初めてである。



     ーーーーー後日ーーーーー



 楓は親姉妹の居ない間に、地上波のテレビをぼんやり眺めていた。

 適当にザッピングしている訳では無く、日課のテレビジョン・アニメーションの確認である。

 画面には、録画したアニメーションが流れていた。

 まだ、学校に通っていた頃に見たアニメーションだ。

 新シリーズでは田舎が舞台になっていた。綺麗な海が広がっていて、主人公の女の子の一人が軽トラの助手席に乗っていた。

 色使いや風景がとても綺麗だったので、思わずDVDにやいた。

 このアニメで楓はエンディング曲が好きになった。エンディングのアニメーションが心に凄く残ったのだった。


 ぼんやりしていると、曲をリフレインしている。

 まぁ、何度と無くエンディングを再生しまくったから当然と言えば当然である。


 楓は親の車を拝借をした。

 親からは「何処かへぶつけない様に、慎重に運転するように!」との下知が飛んだので、法定速度からマイナス十キロを目指し運転していく。

 睡眠は常日頃から十分摂っているので、居眠り運転になる事はない。

 車道を走る車もなくスイスイ車が進む。

 一瞬トンネルを抜けた時、思わずライトを消してしまい、前方が一面真っ暗になってしまい大いに慌てた。

 一瞬でライトが復活したので命拾いをした。


 我が事ながら、ペーパードライバーに戦慄を覚えた瞬間だった。





 本屋の駐車場に停める。

 車が来ないかキョロキョロしつつ、本屋の出入口から中に入る。

 本棚目指し一先ず手近の棚へと直行する。小説の棚だった。さっさか歩き、他の棚を見ていく。

 バイク棚、旅行棚、御料理棚、漫画棚。

 今度は縦に歩いてみる。

 ……………

 …………………

 あった!

 ゲーム雑誌の隣に萌絵の雑誌に埋もれるように、アニメーションとゲームを紹介している雑誌があった。

 何ともう既に、専門の本。通称ファンブックなるものが出ていた。しかも五つも。


 一つ二千円弱、消費税かけたら普通に一万円を超える。

 若干の絶望感。さて、どうすべきか!

 ……雑誌を一つ買うことにした。

 色んな代物が紹介されているし、楓の感覚に於けるハズレ記事はなかった。



 次の日は昼間に別の本屋へ行った。

 何と!萌絵雑誌があった。昨日の本屋とは違うものだ。

「あっ!」

 本屋で声を出すという愚行をうっかり行いつつ、楓は背表紙に近い裏表紙を見た。

 三ヶ月前の日付けであった。何という幸運。売れ残りである。





 本屋には二日連続で行き、違う店に行った。

 本屋が違って、品揃えも違う。

 楓が買った雑誌は色々な可愛らしい少女のアニメーションやらゲームやらが紹介されていた。

 首尾は上々だと楓は笑みを浮かべた。








 雑誌の特集記事を見る。ガンガンみる。

 楓は鋏を取り出し、雑誌に鋏を入れる。

 慎重に切り進める。

 切り終った時、楓は満足そうに息を吐いた。

 楓は早速切り取った葉書の記入項目を埋め出した。そして、雑誌のプレゼント内容を雑誌から確認しつつ、記入を進めた。




 楓は雑誌の絵を見ながら白紙の紙に絵を描き出した。

 満足に描けない。そもそも、昔から楓は絵を描いてこなかった。

 理由は単純明快で、意味がないからである。

 楓は絵を描くのが下手だった。そして少しも悲しかった事はない。


 絵心が無いのであれば描かなければ良いのである。


 もし、絵が欲しければ買えば良いし、もし買えなければ諦めれば良いのである。

 楓にとって絵は別段最重要項目では無いし、下手な人間がどれれだけ絵を描いたところで絵が上手くなる訳では無く資源の無駄である。

 才能がないのであればそれまでであるのだから。

 無意味な事に時間を裂くより、適切な代物を見出だしてそれに時間と労力を注ぐべきなのだ。

 だから、楓は無駄な技量の向上等したことは無い。

 

 そんな訳なので楓は絵が下手である。

 時間にして四時間程経っただろうか、漸く楓はペンを置いた。買っておいたノートは後四割程しか無い。ノート二十冊は少なすぎた。

 絵は少し効率が悪いのかも知れない。

 ぐちゃぐちゃのデッサンを見ながら少し後悔する。

「一万円を一年は少ないなぁ。」


 楓はいそいそと色ペンを取り、絵に色を塗っていく。そこから五時間ほど経った頃、ごろっと寝転がり目を瞑った。少しすると、イビキと歯軋りが部屋の中に響いた。


 楓の部屋は少し変わり、殺風景な部屋の壁に萌絵が飾られていた。雑誌のオマケのポスターだ。

 蒼の地の色に美少女キャラクターが何かを持ってポーズを決めている。

 見ては“にへらっ”と笑い、見ては“にへらっ”と笑うを繰り返す。楓は萌の境地を会得していた。


 部屋の中には絵コンテやメモ書きで埋め尽くされたノートも見えた。

 汚部屋に戻ることは無いようにしようと楓は決意し、もし汚部屋に戻っても件のノート達が巻き込まれないように気を付けようと決意を新たにした。


 半年は経った。

 楓の絵はある程度の所までいくと上達しなくなった。

 だが、唯一アナスタシアとクローディアと氷雨ちゃんというキャラを満足いく形で生み出せはした。

 今楓の部屋の壁にはアナスタシアもクローディアも氷雨ちゃんと幾つかの直筆の美少女萌絵が、画鋲で貼り付けられていた。



 画面には可愛らしい少女達が画面の右端の向こうの何かを目指して左端から次々と走っていく。

 次々に場面が変わり、それに合わせメロディのサビの部分へと集約していく。

 楓はこのアニメーションのエンディングを何度と無く繰り返し観ていた。


 楓は何かひまが有れば件のアニメの曲を、脳内リフレインしていた。



 数か月経ち、楓はATMの前にいた。

 ボタンをポチポチ押していく。

 千円札が十枚、一万円札が九枚出て来た。

《うぉぉぉぉぉ!金持ちだぁぁぁあぁあぁあ!》

 楓は今迄の人生で有り得無い金額を手にしていた。

 取り敢えず三万円は親へ納めた。月貢である。

 親からのお達しは恐ろしいと前々から思っていたが、此処までとは!と恐怖していた。


 兎に角それで色々買い進めた。

 萌絵雑誌 萌絵雑貨 萌絵文具 萌絵無い文具 そして夢の萌えフィギュア 色々買った。

 雑貨や雑誌は普通に買ったが、フィギュアは店が無かったので、古道具屋で購入した。

 何だか貨幣が玩具の引換券に思えてきた頃には、給料を散財していた。

 何か違うような気がする。何処かで声がする。



 これ以上進むともう戻ってこれなくなるぞぉぉ!



 この声は何処から聞こえるのか、楓には解らなかった。




 楓はスマートフォンを手にしていた。

 仕事で必要だからと仕方がなくスマートフォンを買った。というか貰った。携帯販売の受け付けでだ。カタオチらしい。何か良く分からなかったがそういう事らしい。

 で、何か荷物と共に電話会社から?スマートフォンを手に家に戻ってきたのであるが、なんと!十万円近く支払わせといて、支払ってはないけど、

 説明書が無いというのだ


 説明書が無いというのだ


 説明書が無いというのだ


 説明書が無いというのだ


 説明書が無いというのだ


 説明書が無いというのだ!


 説明書が無いというのだ!説明書が無いというのだ!


 驚きである。スマートフォンに内蔵された説明書ぽいものを見つつ、説明書が無いというのだ!という衝撃から楓は暫く立ち直る気が無かった。



 それはそれとして、楓はスマートフォンをスイスイと指をスライドさせたりポチポチ押したりしていた。

 ネットサーフィンと今でもいうか楓には解らなかったが、労働の疲れもあってかぼんやりポチポチしていると、

《御加入有り難う御座います。一年契約で五十万円になります。明後日午後九時迄に御入金頂けないのでしたら、電話での御連絡をお願い致します。違約金を御支払された後、御解約となります。もし、契約金・違約金を御支払になられない場合には、法的手段に出させて貰います。》

 驚愕であった。ボタンを押しただけで、此である。此れが世に聞くワンクリック詐欺なのだろうか?

 取り敢えず楓は、ネットで無料相談の法律家を検索することにした。


 少々驚きはしたものの、法律家の先生に全て任せることにして、法律家に提示された金額を振り込んだ。

《前門の虎、後門の狼》頭に過るのはそんな言葉だ。世の中只ではないのだ。法律家を雇うという手痛い出費をしつつ、楓は一つの社会勉強を終えた。


 さて、家族に内緒の勉強代を支払った後、また、ツイツイスイスイッとスマートフォンをサワサワしていた。


 今度は気を付けている。言うなればああいった代物はネット世界の奥深くに生息しているのだと思う。なので、浅いところでウロウロしている限り、多分出会う事は無い。一応日本にもネットポリスなり、ネット自警団等はいる筈なので、浅いところにいると普通に通報される筈である。若しも通報しないのであれば、人間不審になりそうであるし、引き隠ろうとしても、ネットワークは楓の部屋の中に迄、その触手を伸ばしているのである。

「世界なんて全て終われば良いのに。」

 

 楓は図書館で見つけ、姉に頼んで買って貰った黒魔術の本の中で掲載されていた魔方陣を部屋の床に敷き詰めた紙に描いていく。そして、呪文を唱えた。


 呪いは五日間行われた。



 もう既にスマートフォンをスイスイサワサワするのは、楓の中で日課となっていた。

「あっ!コレ。」

 其処にはアプリが縦に一覧を作っていた。

 そしてその中に、ロボットの歌姫が宇宙空間で歌を歌い、世界を平和に導いたというCMがやっていたが、それのゲームアプリがあった。

 取り敢えずインストールした。

 プレイしようとアプリを開く、

 メロディが流れ、ロゴが出て、ゲームのオープニングアニメが流れる。そのままチュートリアルに移行した。

「こっこれは!」

 楓は気付いた。此のゲームアプリは、リズムゲームであると。


 楓の鬼門リズムゲーム!楓はリズムゲームが大嫌いであった。

 意味が解らないのである。何でリア充ゲームがあるのか、何でリア充がゲームをするのか。

 昔リズムゲームの流行りが来て、リズムゲームが流行った時があったと知った時、思ったものである。

 ダンスしたいならクラブかディスコへ行けよ!何でゲーセンに行くの?リアルの充実をさせたいなら行く所違うくない?と。

 なので、リズムゲームの存在意義が楓には理解出来ないのである。

 チュートリアルを見ると、ダンスを踊っているのは美女であり、プレイヤーはノーツと呼ばれるものをタップするだけであるらしい。まぁ、当たり前と言えば当たり前である。


 アーケードゲームとは違うのだよ!アーケードゲームとは!状態である。


 取り敢えずeasyをやることにした。


 取り敢えずeasyをやることにした。


 取り敢えずeasyをやることにした。


 ………………。


 全然最後まで行き着かない!


 楓はアンインストールも視野に入れつつ、他のゲームを探しだした。

 ツイツイやってたら、アノ海辺近くで少女が色々やっているアニメのゲームがあった。

 これだ此のゲームだ。何と!アニメ挿入歌を聞きながら、進める事の出来るゲームらしい。ゲームを進めていくと、オープニング曲やエンディング曲も出来る様になり、更には、アニメ以外の企画でやっている音楽もプレイ出来る様になるらしい。

 早速その音楽と共に進めるゲームをインストールした。

「そうだよ!こういうのがしたかったんだよ!」

 楓はホクホクしながらアプリを開いた。

 そう、音楽に合わせて流れてくるノーツをタップするというゲーム、これを……楓は待っていたの…だ?




   ーーーーー楓は闇に堕ちた。ーーーーー



 結局のところ楓が知らなかっただけで、世の中にはリズムゲームが蔓延っているのだ。

 楓が情報弱者であっただけで、リズムゲームの存在意義に不明な点がある事等、気にする様な国民性では無いではないか!

 ゲームセンターでダンスを踊るという代物に奇異な物を感じなかったからこそリズムゲームの流行りがあったのだし。

「所詮世の中なんてこんなものなのか。」

 楓は自身の部屋から見える夕日を眺めた。

 でも良いのかもしれない。ゲームは残念だったが、部屋の中には、ポスターもあるし、フィギュアもある。楓は萌絵を一応描ける様になったし、世界に多くを望むのは酷というものだろう。と考え方を改めた。

 アンインストールである!嫌ならやらなければ良いのだ!ささっと消すに限る。


ポチッとな!


 画面が真っ暗になったかと思えば、ゲームのロゴが画面に映し出された。何を間違えたのかアプリを開いてしまったのだ。


「めんどいな!」


 何回か繰り返すがアプリを開いてしまう。


 時間がたってしまう。

 音楽が鳴り出した。おんなじ所でずっと繰り返している。


 ………良いメロディだった。


 しかも期間限定らしい。

 そもそも、此のアプリゲームには、楓の好きなエンディングが収録されているのだ。

 ………取り敢えず楽曲はアプリ開いた時に流れていた奴で、easyでゲームをプレイすることにした。

 どんなものかと確かめたくなったのだ。


 アニメのリズムゲームのメロデイに合わせノーツをタップする。

 全然合わなかった。

「もう少しだと思うんだけどなぁ。」

 また、easyでポチポチプレイすることにした。

 全然合わなかった。

「ちょっとノーツ多いんだよなぁ」

 また、easyでポチポチプレイすることにした。

 全然合わなかった。

「何がいけないのかなぁぁ」

 また、easyでポチポチプレイすることにした。

 全然合わなかった。

「ちっ!」

 また、easyでポチポチプレイすることにした。

 八割位で曲が止まった。

「……………」

 エネルギー切れを起こした、コンテニューには何か大切なアイテムを砕かなければならないらしい。

「此れが世に聞く課金フラグか。」

 楓はゲーム機を放り出し(スマートフォン)、汚部屋に寝転がる。取り敢えず明日は仕事なのだ。

 そのまま楓は眠りに就いた、イビキと歯軋りをBGMに。



 その出来事から二ヶ月経った頃だろうか。

 楓はノーマルの常連となり、ハードに手が届こうとしていた。だが、後一歩というところで、手がとどかなかった。


 汚部屋に寝転がり、ぼんやり天井を見つめる。


「イマイチなんだよねぇ。」

 楓は自分の腕に不満を持っていた。リズムゲームなのだから音楽が何らかの上達のキーになっている筈なのだけど。


 楓は音を感じる事にした。………良く解らなかった。そもそも、音を感じるってナニ?

 リズムゲームっていうけど、ノーツの通りにプレイすれば良いだけだから、音楽ほぼ関係なくない?と思うのだった。


 良く解らなかったので、曲をダウンロードすることにした。


 ノーツへの視覚の反応速度を上げる為、ノーツスピードの設定を変えられるものは変えることにした。

 一から始まり十迄あった。小数点一位迄変動可能だったので、零点五刻みで、ノーツスピードを上げていく。

 一応easyから始めてみる。

 十五分位でまあまあの曲は十に対応出来る様になった。

 次はnormalである。これも十分位で対応可能となった。

 そしてhard、散々だった。


 ……バラードはいける!


 バラードから崩れていく。バラードだったのだ。攻略の胆は!自分の好きな曲はモチベーションが下がる事が無いから言うに及ばずとして、その他の胆は、バラードだったのだ。

 楓は最早hardが、敵では無い事を知った。次なる攻略対象はveryhardである。


 二三ヶ月が過ぎる。


 veryhardは、バラードを攻略出来ている。

 だが、テンポの早い楽曲はどうしても無理だった。

 楓が微課金プレイヤーである事は、リズムゲーム的には、関係が無いだろうから、只々腕の問題なのだ。



 楓は今迄良く解らなかったが、ゲームを進めていく内に、音楽に於けるリズム体の存在価値が次第に理解できた。

 今ではリズム体様々である。


 リズム体が有るので、何となく覚えているノーツの到来がフッと浮かび、ノーツの発見が零comma何秒目だけで探すより速くなるのだ。




 楓は歌詞を書き出したノートを見ながら英和辞典を引き捲っていた。

 日本語を書き出していく。

「何でもかんでも英語で書けば良いと思いやがって。」

 チマチマと英語の部分を日本語にしていく。


 いよいよである。expertだのEXTREMEだの、Eとつく最高クラスの難易度だ。

 楓は満を持してEの最高クラス難易度をプレイしてみる。


 ………………………



 取り敢えず眠ることにした。







 荒い息が部屋の中に響く。何時もは散らかり放題の部屋の中にゴミとおぼしき影は形もなかった。

 その中で、虎の様な眼差しをして女が一人、体を動かしていた。

 重さ三十キロの鉄アレイを左右の腕に一本ずつで交互に太股近くから顔の横迄上げる。

 女は筋肉を鍛えに鍛えるつもりなのか、鉄アレイを床に置くと、鉄の鎖とガムテープでぐるぐる巻きにされ固定された、長い何かで出来た棒を取り出した。

 そして、漫画で出てくる古代中国の武将の様に金属棒を振り回し出した。

 金属棒を振り回す度に、肩や腕の筋肉が蠢く。三十分後金属棒を部屋の隅に置き、端に置いてあったハンド用の筋トレ道具を取り出した。十五キロをガシガシ動かし出した。

 此は十五分程度で終わった。

 楓はフード付きコートを来て、外に出て短距離走と思える程の速度で走り、長距離走の速度になり走る。それを交互に繰り返す。

 三十分休み無しで町内を爆走する。そして、十分程度流して走る。

 家の中に入りフードを取る。コートを外して掛け、リビングの椅子に座る。

 片手に取れる程度の米を研ぎ、雪平鍋に、水と研いだ米を入れ煮る。沸騰した後うどんと刻み葱を入れ醤油と魚のダシを入れ二十分後、十分に煮えた物を深い皿に入れ楓は米とうどんをを食べた。

 そして、今や広々とした部屋で敷布団の上に横になり、毛布を掛け眠った。少しして、イビキと歯軋りが部屋に響く。


 昼も過ぎた頃、楓は起きた。洗面所で顔と口を洗い、リビングで白湯を飲む。


 楓は自分の部屋に戻り、ゲーム機を取る。……あくまでもスマートフォンである。

 起動しアプリを開く、最高難易度だ。


 数分後楓の表情には不敵な笑みが浮かぶ。画面にはフルコンボの表示が出ていた。


「弾幕系最早恐るに足らず。」


 楓はリズムゲームの至高へと辿り着こうとしていた。



 アーケードゲーム・楓にとっての鬼門。

 その鬼の口に今、楓は立っている。

 一応人との混雑を避ける為、平日の午前を選んで来ている。

 この選択は、もしも普通に就職していたら選べない選択だったかも知れない。ので、Good Job私!と小声で誉めておく。

 ゴリラになるまでには至らないものの、この一年半でエキスパートクラスだの、エクストリームクラスだのにやっと手が掛かるまでになった。

 一人で良くここまで来たものである。

 さて、微課金ゲーマーとしての腕前でアーケードゲームバーションを何処までやれるか、試してみることにした。


 首尾は冴えないものとなった。店員がいた。

 客もじんわりいた。かなり気が散った。引き隠りを脱しても、余り人馴れはしていないらしい。

 楓のアーケードゲームデビューは苦い結果に終わった。

「…………人混みキライ。」

 楓は三週間仕事の時以外は外に出なくなった。





 リズムゲームにおいて、新ゲームが開発されたらしい。

 その中で楓はまた、一つのリズムゲームに手を出そうとしている。最初にインストールしたものの一つは、アンインストールしている。

 インストールして、アンインストールしたものを合算すると、インストール六、アンインストール四となる。

 そして、この夏また、一つ増えるのだった。



 そして、愕然がくぜんたる事実がある。

 この夏の新たなスマートフォンゲームをプレイする為には、今のスマートフォンは小さいのである。

 タップする度に誤判定が多すぎで、とてもじゃないがエキスパートクラスをプレイ出来ないのである。更に言えば、加熱が凄まじく此のままでは燃え上がるスマートフォンになりはしないか心配が尽きないのである。

 スマートフォンは一台十数万円という民族学的な数値なので、若干絶望しかないが、仕方がないのである。誤判定が多すぎなのだから。しかも熱も持つし。


 なので、金を稼がなくてはならない。楓は労働に対して気合いを入れた。リズムゲームの為、しょうがないのだ。


 桜の散る中、一陣の風が吹く。吹き上がる桜の花びらと散り逝く花びらの嵐の中自転車で走り、そう言えば、と楓は思った。



 昔、声が聞こえた。

 今私はその声の言った通りになっている。


 それ以上行ってはいけない、それ以上行ったら、戻ってこれなくなるぞぉぉおおお!


 私は今、……アノ声の通りに…なっている。



 ………私はもう…………もどれないのだ。






                     完


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