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内気な先輩と古典的なやり取り

 仁科日向は藍千高校の二年生である。性格は内気で自分から表だって行動するタイプではない。そんな彼女が自作の看板を掲げて部活勧誘の道に姿を見せているのは単に彼女が所属するスカイロード部の部員が自分だけになったためだ。先輩たちが引退したことで自動的に部長を就任することになった日向はこれを機会に内気な性格を変えようとしたのである。


 しかしながら部活勧誘は彼女にとって巨大すぎる壁だった。熱気と活気で溢れていることは一年前に体験して知っているが、勧誘側と勧誘される側では見える景色も緊張感も何もかもが違った。


 積極的に勧誘を開始する他部活の生徒たちから出遅れる形になった日向は一人取り残されていた。勇気を振り絞って声をかけようとするも声量が小さくて周囲の声にかき消されてしまう。開始早々から出鼻を挫かれて意気消沈となった日向は半ば勧誘を諦めた状態で時を過ごす。


 それからどれぐらいの時間が経過したか日向には分からない。それでも勧誘者が新たな動きを見せ始めたことから新規の合格者が姿を現したことだけ分かった。私には関係ない、と最初から諦めている日向は出遅れてしまい勧誘の輪の最後尾に位置を取る。無意味だと思いながらも部長として自作した勧誘の看板を胸元に持ち上げて雀の涙程度のアピールをした。それが功を奏したのか、それとも別の理由があるのか分からない。しかし現実は眼前に合格者の男の子を引き寄せることに成功していた。


「えとえと……、スカイロード部に興味はありませんか?」


 この機会を逃さないように勧誘をした。緊張感から拙い口調になってしまったことに若干の後悔をしながら男の子の返事を待った。


 ◇


 スカイロード部と書かれた勧誘の看板を視界に捉えた俺は引く手あまたな部活勧誘の声を無視して一直線に持ち主の下へ歩み寄った。目の前に立つと先輩は驚いた様子でこちらを見上げると、言葉を詰まらせながらも入部の勧誘をしてきた。


「もちろんです!」


 勧誘の声から間髪入れずに返答した。悩む素振りすら見せなかった俺に先輩は目を丸くした。反応からして断られると踏んだうえで勧誘したのだと分かる。


「え? 本当に入部してくれるの⁉」

「ちょ、ちょっと顔が近すぎますよ!」


 喰いつくように顔を近づけて確認してきた先輩の顔が眼前に迫ったことに照れと戸惑いで赤面してしまう。指摘されて初めて自分の行動を意識してしまった先輩も赤面になると、謝罪の言葉を連発しながら慌てて距離を取った。その距離の取り方が古典的とも言える距離の差がある。


「いや、そこまで離れられると傷つくのですが……」


 一瞬にして数メートル先まで距離を開けた先輩を手招く。ゆっくりと動かす手首のリズムに合わせて距離を縮めてくる先輩を見ていると招き猫になった気分だ。


「ご、ごめんなさい! わ、私、あまり人と話すのが得意じゃなくて……」


 謝罪の声から一転、その後に続いた言葉は耳を澄まさなければ聞き取ることも難しい程に細くて小さな声だった。周囲が俺と先輩のやり取りに気を取られて静まってくれていなければ訊き直していたことだろう。その静けさが相まって余計に視線が強く感じてしまう。


「と、とりあえず場所を変えませんか? スカイロード部についても詳しく知りたいですし」


 もっともな理由をつけてはいるが、単純に突き刺さる視線から逃れたいだけである。ただそれは先輩も同じだったようで、首が折れそうな勢いで上下に頷いてから早足で移動を開始した。その速度も絶妙なもので、後を付いていくしかない俺に合わせたほど良い物だ。頼りない面を見せていても後輩を気遣う辺り先輩なのだと改めて実感した。



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