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勧誘の洗礼と出逢い

  女子先輩の案内のもと合格者用に用意された帰路につく。本当に合格者だけが通れる道なのだと、道中ですれ違う人々の表情や態度を目にして実感する。曇りひとつない歓喜に溢れた姿は確かに傷心している不合格者にとって更に傷を抉るものだろう。


  明るい空気に包まれた通路を突き進むと校舎を出ることになった。室内から野外に変わったことで太陽の光が全身に差し込んで眩しさを覚える。思わず手を上空に手を翳して日光を遮り、その状態から視線を落とす。


「…………」


  視線を落とした先に広がる光景に言葉を失った。校舎内に漂っていた緊張感のある空気とは一転して、受験生と在校生が入り交じる喧騒の世界が広がっている。主に在校生が騒いでいるようで、その殆どが自前の看板などを掲げて部活勧誘をしている。ユニフォームから何の部活か分かるものもあれば、看板に書かれた内容を見ても何を目的とした部活なのか定かでないものがある。


「……なるほど。これが父さんと先輩が言う洗礼か」


  自分より先に訪れた受験生たちが勧誘されている姿に固唾を飲む。こちら側の通路が合格者の帰路だと在校生たちにも知らされているようで、嵐のごとき勢いで受験生たちの前に現れると、これもまた嵐のごとき口調の早さで部活の説明をしている。本当に部活内容を伝えるつもりがあるのかと疑う程の早口だ。その証明に引き留められている合格者の面々は状況に着いていけずに戸惑う姿が見受けられた。


「それでは頑張ってください!」

「え? ここを俺ひとりで突き抜けるんですか!?」

「同行したいのはやまやまなのですが、まだ当校に訪れていない受験生も多くいますので……」

「そ、そうですよね。……いえ、ここまで本当にありがとうございました」


  相手の事情も考えずにわがままを言ったことを心の中で反省しながら意を決して嵐の入り口に足を踏み込んだ。


  嵐は一瞬にして反応した。センサーでも張っていたかのと思える察知の早さで在校生がこちらに気づく。獲物を発見した猛獣の如く眼光を放ち、最短の距離で波涛のように押し寄せてきた。


「ねぇ、君、バスケに興味はないかい!? プロリーグもできてまさに旬のスポーツさ!」

「いやいや、何を言っている!? 高校のスポーツといえば今も昔も野球に他ならない。どうだ? 我々と一緒に甲子園を目指さないか?」

「やだやだ、暑苦しくて敵わないわ。これだから体育会系の部活は品がないのよ。現代はまさしく表現の自由に彩られているの。つまり君は私たちと演劇で華を咲かせるのです!」

「体育会系が暑苦しいのには同意しますが、現代の最先端はITです。さあ、僕たち科学研究部で未来を切り開こうではありませんか」


  色々と殺し文句のような言葉が届けられる。その殆どが相次ぐ勧誘の声と重なって聞き取れていないのが実情なのたが、在校生は特別気にする様子はない。つまるところ勢いで勧誘を成立させようとしているのだ。若干の詐欺にも似た臭いがするが、これも学生ならではの活気かもしれない。


  だからこそその存在に気づけた。押し寄せる勧誘の輪に乗り遅れたように後方に取り残された在校生を見つけた。あわあわ、という言葉が相応な慌てぶりが傍目からでも分かる。皆が皆、勧誘に慣れているわけでもないらしく、安心感から目を伏せそうになったが、その在校生が持つ手作りの看板を見て伏せようとしていた目を強く開き直した。


  眼前の勧誘者たちを掻き分けるように進んで目的の人物の前に立つ。いきなりの行動に周囲の視線が俺と眼前の在校生に集まる。


「えとえと、……スカイロード部に興味はありませんか?」


 そよ風にすら負けてしまいそうなか細い声で在校生は勧誘の声をかけたのだった。

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