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入寮選別

 入り口の門からそそくさと逃げた俺は、入学式のおこなわれる大講堂に辿り着いていた。

 大講堂では上級生たちが東西南北の四区画に分かれて、俺たち新入生を囲んでいる。

 分かれ方にも意味がある。それぞれの区画には紋章の描かれた旗が立っているのだ。

 王冠を被ったフクロウ、ランタンを咥えた黒猫、手綱を噛む狼、杯を抱えるネズミ。それぞれ4つの寮を象徴するものだ。

 そんな中、白い長い髭をたくわえた老齢の学院長が俺たちの前に現れた。


「入学おめでとう諸君。諸君らはこれから4年間、この学院で切磋琢磨してもらうこととなる。決して平坦な道ではない。身体が傷付くようなこと、心が折れるようなこともあるだろう。だが、この学院で得られる経験、人脈、知識は必ず後の人生で役に立つ。諸君らの4年間に青い星の輝きがあらんことを!」

「「青い星の輝きがあらんことを!」」


 学院長の祝福に続き、先輩たちも祝福の言葉を発する。

 これで入学式は終了、という訳ではない。

 むしろ本番はここからだ。

 入寮選別。

 俺たち新入生が、これから4年間世話になる寮を決める儀式が始まるんだ。


「では、入寮選別を始める。名前を呼ばれた者から順番に、このアナライズキューブに触れるのだ」


 学院長が指をぱちんと鳴らすと、テーブルが現れる。

 そのテーブルの上には拳大の白い箱が置かれている。


「アナライズキューブは触れると、それぞれの寮を象徴する使い魔へと変化する。自分の寮が決まったら、各寮の列に移動すること」


 学院には4つの寮がある。


 フクロウのエンペラーオウル寮、黒猫のハーミットキャット寮、狼のチャリオットウルフ寮、そしてネズミのテンペランスラット寮だ。

 エンペラーオウル寮は皇帝を冠する名の通り、王族や貴族の血筋を持つ者が生徒に多い。もちろん、上流階級の血筋でなくても入寮できるが、その場合は総合的に高い魔力の素質を持った者になる。

 未来の為政者、リーダーなど国を背負って立つ者を多く排出する寮だ。

 欠点は御曹司、お嬢様が集まるため、傲慢な者が多く、マウントを取り合って大変だということだろうか。


 ハーミットキャット寮は隠者を冠する寮だ。

 この寮に所属する者の特徴は、冷静沈着で、賢く、単独行動に秀でている。その反面、変わり者が多くて協調性に欠ける。


 チャリオットウルフ寮は戦車を冠する寮だ。

 ハーミットキャット寮のライバルで対照的な生徒が多い。熱血漢の生徒が多く、寮生の連帯行動が得意だ。正義感が強すぎて、時に押しつけがましいのがたまに傷だ。


 そして、最後はテンペランスラット寮だ。

 調和と平和を愛する心を持つ、優しい生徒の多いのが特徴だ。生まれによる差別も他の寮と違って存在しない。ただ、誰でも受け入れる反面、どうしても実力の足りない者も増えてしまうため、落ちこぼれの寮だと認識され、他の寮生からバカにされやすい。


 どの寮も一長一短の特徴がある。

 俺はどの寮に入ることになるんだろう?

 そんな疑問を抱きながら、前の生徒たちの反応を見守る。

 新入生がキューブに触れると、どの寮に所属するかがキューブからアナウンスされ、アナウンスされた寮生たちが拍手と歓声で新入生を歓迎していた。


「エンペラーオウル!」

「ようこそ、エンペラーオウルへ。歓迎しよう」


 エンペラーオウルは上品に、優雅に新入生を受け入れる。


「ハーミットキャット!」

「4年間よく学ぶと良い。その先に真理がある」


 ハーミットキャットは冷静に、導くように新入生を受け入れる。


「チャリオットウルフ!」

「良く来た新入生! 今日からお前も誇り高き狼だ! ほら、こっちに座れ!」


 チャリオットウルフは暑苦しい。けれど、嬉しさがこっちまで伝わってくる。


「テンペランスラット!」

「わー、良く来たねー。これからよろしくー。仲良くしようね」


 テンペランスラットは穏やかに優しく新入生を受け入れる。

 どの寮もそれぞれの特徴が良く出た歓迎の仕方だった。

 そして、ついに俺の番がやってくる。

 机の前に立ち、キューブに手をかざす。

 するとキューブは回転を始め、動物の形へと変化していった――のだが。


「何だこれ……ヌエじゃなくて、西洋の妖怪か?」


 ネコの顔、犬の身体、ネズミの尻尾、そしてフクロウの翼が生えている。

 見た目がめっちゃ怖い! まるで、妖怪だ。


「キューブのキメラ化は良く見るが、同時に4つの変化を見るのは初めてだ。まさか、全ての寮に対して適正があるとはな」


 学院長までもが驚き、俺の隣にまで近づいてキューブを見つめる。


「ふぅむ、キューブの意見を聞こう。四霊よ、分かれ、意思を示せ」


 学院長が杖を取り出し、キューブをコツンと叩く。

 すると、妖怪のような姿をしたキューブから、4匹の動物が分裂した。

 そして、学院長は四匹の動物に問いかけた。


「エンペラーオウルよ。彼を選別した理由を問う」

「我は彼から王の素質を感じる。それも一国の王ではなく、多くの者を束ねる王の素質だ。力も申し分ない。素晴らしい研鑽を積んでいる。それ故、エンペラーオウル寮に相応しいと判断した。新たな王は我がエンペラーオウル寮で育つことで、より良い王になる」


 フクロウの形をしたものは、俺を王に相応しいと述べ、王として育てたいと言う。


「ハーミットキャットよ。彼を選別した理由を問う」

「私はこの子から真理の探究者の気風を感じたわ。ありとあらゆるものを自らの力として取り入れ、己の叡智にする賢さがある。ハーミットキャット寮で育てることで、より世界の真理に近づき、この魔法世界をさらに一歩高い次元へと、推し進める力を得ることが出来るでしょう」


 ネコの形をしたものは、俺の力を評価して、さらなる高い次元の力をつけさせたいようだ。


「チャリオットウルフよ。彼を選別した理由を問う」

「俺っちはこいつから燃えるような魂を感じたからだ。あらゆる害から、国を守る、人を守る、そのためになら力の行使を躊躇わない炎のような精神がある。悪から人を守るという正義を学ぶのなら、チャリオットウルフ寮が最も適任なのさ」


 狼の形をしたものは、俺の心を評価して、仲間を守ることを学ばせたいそうだ。


「最後にテンペランスラットよ。彼を選別した理由を問う」

「彼の使命は苦難に満ちている。けれど、その使命を一人で成し遂げられる力があることは、先の3人が既に伝えた。この寮では君の力をさらに特化させることは難しいけど、共に歩む仲間を作れる。友や恋人を作りたいのなら、テンペランスラット寮がオススメだよ」


 ネズミの形をしたものは、俺の力を伸ばせないと言うけれど、かわりに人間関係が豊かになると言う。

 これで全ての動物霊による寮の勧誘が出そろった。

 学院長が動物の霊を杖で触れると、分かれた動物たちはもとのキューブへと戻る。


「さて、識君。君は何を望む? 王への道か、真理への道か、正義への道か、それとも、人への道か」


 新入生だけでなく、先輩たちもざわつき始め、色々な声が入り混ざる。

 驚き、羨望、嫉妬、疑問、一体あいつは何者なのだ? という全校400人の視線が俺に注がれた。

 学院長が言うには、俺は何にでもなれる。けれど、俺が任された任務は日原の復権だ。

 なら、ここは迷う必要なんてない。


「俺は人の道を選びます」

「よかろう。テンペランスラット!」


 学院長の宣言でテンペランスラット寮のみんながわき上がる。

 良かった。どうやら今度はちゃんと歓迎されているみたいだ。

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