2.忍び寄る影
「そいつはお前、カレナ・エンジェリックといったら【漆黒の翼】のリーダーだぜ? 強くて当たり前だ」
「へぇ。あの女の子が、噂の……」
今日の仕事もひと段落して、休憩に入ったところ。
俺はパーティーのみんなに今朝のことを語って聞かせた。すると、いち早く反応したのはガイ。彼は二日酔いを醒ますためなのか、水で顔を洗いながら言った。
こちらが納得すると、続いて会話に入ってきたのはリン。
「年齢はボクと同じで、十四歳だったと思います。それであの実力、アレだけ規模の大きなパーティーをまとめるんですから脱帽ですよ」
彼はほんの少し、熱のこもったようなため息をついた。
なにやら思うところがあるようだが、そのことは気にしないことにする。
「でも、言うほどまとまってるか? 昨日の酒場で、末端が暴れてたけど」
「おそらく、エレンが思っている以上に【漆黒の翼】は規模が大きいぞ? それなのに、ああいった程度のイザコザしか発生しないんだ。むしろ珍しいだろう」
「ふむふむ。なるほど、そんなものなのか……」
俺が疑問を口にすると、今度はクレイスが淡々と答えた。
そう言われると、たしかにそうなのかもしれない。昨日の今日ですでにトップに連絡が行き、処罰が下されていた。それは組織として優れている点、ということになるのかもしれない。
「そんなところから、勧誘がくるなんて! やっぱりエレンさんは凄い!!」
「リン……。もういいって、さすがに恥ずかしいよ」
その話の流れで、またもやリンは俺のことを称えた。
でも、正直それはもう忘れてほしいと、そのように思える。
俺の願いはこの街、リリディアで静かに暮らすこと。『兵器』として見られていた日々からの脱却が目標なのだから、これ以上目立つのは勘弁だった。
「さて、それじゃ! そろそろ、もう一仕事しますか!」
なので、俺はそう話題を逸らすことにする。
するとみんなも同意して、装備を整え始めるのであった。
そして俺たちは一路、ダンジョンをもう一つ下へと降りていくのである。
◆◇◆
エレンたちがいなくなったのを確認して、ある一団が行動を開始した。
その者たちが身にまとうのは、緑色をした身軽な衣服。袖や裾の丈は各々異なっているが、しかし共通しているモノがあった。
胸に付けた、黒き翼を模したエンブレム。
それこそは一大パーティー【漆黒の翼】の証だった。
「あの者が、エレンか……」
その中でも先頭を行くものが、ふと確認するように口にする。
すると後方に控えていた者の一人が、静かに進言した。
「容姿、特徴など――情報と一致しました」
「分かった。それならば、行くとしよう」
「はっ!」
淡々としたやり取りのように思われた。
しかし、それを打ち破るようにして先頭の人物は声を張り上げる。
「いいか! これは、カレナ・エンジェリック様直々の指令である!!」
高い声は、女性らしいそれであった。
風になびく緑の髪。それを手で押さえながら、彼女はこう言った。
「我々、第十一番隊の目標は――エレンを確保すること!」
一度、そこで言葉を切り。
「そして、それ以外の三名――リン、ガイ、クレイスの抹殺である」――と。
巨大パーティー【漆黒の翼】、その目的を。
「待っていてください、カレナ様。私がこの命に代えても……」
第十一番隊――そのリーダーと思しき人物は、最後にそう呟いた。