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1.漆黒の翼のリーダー






 翌朝のこと。

 ギルドに顔を出した俺は、ちょっとした悶着に遭遇した。


「ん? なにをやってるんだ、あの人だかりは」


 リンやガイ、そしてクレイスの集合を待っていると、奥から怒鳴り声が聞こえてくる。野次馬根性が顔を出した俺は、例に漏れずその人混みの一員となった。

 一番外から背伸びをしてみると、確認できたのは大柄な男の姿。

 どこかで見たような、そんな気が……。


「アレってもしかして、昨日の酒場で倒した男か?」


 口にすると、それは次第に確信へと変わっていった。

 間違いない。この騒動の中心、そこで声を荒らげているのは酒場で従業員に手を出していた野郎だった。口論の相手は、ここからは視認できなかったが。

 俺は興味を持ち、聞き耳を立ててみることにした。


「なんでだ! どうして、俺様が【漆黒の翼】をクビにならなきゃならねぇ!?」

「……貴方は昨晩、酒場でパーティーのルールを破った。それだけ」

「それだけだぁ!? あの程度、屁でもねぇだろうが!!」

「……………………」


 すると聞こえてきたのは、そんな会話。

 男の話し相手は女の子だろうか。淡々としているが、どこか幼さを感じた。


「このアマ……リーダーだからって、いままで素直に従ってきたが――今日という今日は納得できねぇ! 痛い目みせてやる!!」


 さてさて。

 そうしていると、とうとう男の方が激昂した。

 それに伴って周囲の人々も、渦中の二人から距離を置く。そうすると、ようやく――女の子の姿が確認できた。俺は見やすい位置に移動し、観察する。


「おぉ……? 想像以上に、小さいな」


 で、そう呟いた。

 男の正面に立っていたのは、彼の半分に満たない背丈の少女。

 腰まである黒の髪に、赤の瞳。顔立ちは幼く、しかし感情というモノが見て取れなかった。淡々とした口調と同じくして、冷たい氷のような印象を受ける。

 腰には、そんな身の丈には余るような剣が一本だけ携えていた。

 そのことから分かるのは、クラスが剣士――ということだけだろうか?


「喰らいやがれ、カレナ・エンジェリック!」


 そんなことを考えていると、男が拳を振り上げた。

 カレナと呼ばれた少女は、相も変わらずな表情でそれを見上げている。周囲の人たちはみな、カレナが怪我をしないか肝を冷やしている様子であった。


「あぁ、馬鹿――」


 だが、俺には分かる。

 この勝負は、やる前から勝敗が決している、と。


「――相手の力量くらい、推し量れっての」


 そう漏らしてしまった。

 直後、男が動きを止めることになる。そして――。


「が、ふ……」


 ――気絶した。

 ばたりと、その場に倒れ伏してピクピクと痙攣を始める。

 周囲は何が起きたのかと、そうみなが口々に話し合っていた。現実を受け止めきれない者もいたが、俺は違う。しっかりと、この目で見ていた。


「――居合い、か。ってことは、アレはカタナ、ってやつか」


 もの凄い速度で一歩を踏み出し、少女が男に峰打ちをする様子を。

 それは俺でも惚れ惚れしてしまうモノだった。


「レイラ、この男の処理は貴女に任せます」

「はい。分かりました、カレナ様」


 そうしていると、カレナは傍らに控えた金髪の少女にそう指示をする。

 部下であろう彼女が答えると、黒髪の少女は一度目を伏せてからこちらを見た。


「…………う?」


 何故だろうか、一瞬だけ目があったような気がする。

 もしかしてだけど、あちらは俺のことを知っているのか?


「そんなわけない、か」


 でも、本当に一瞬だけのことだった。

 俺は気のせいだということで結論を出し、その場を離れることにする。そうすると丁度、ギルドの出入り口から三人の仲間がやってくるところであった。


「あ、おはようございます! エレンさん!!」


 元気良く、開口一番にそう言ったのはリン。

 ガイとクレイスも、それに続くようにして手を挙げた。


「まったく。遅いぞ? 三人とも」

「悪いな。文句があるなら、寝坊をしたガイに言ってくれ」

「な……! クレイス、お前! 言うなって言っただろ!?」


 どうやら、遅刻の原因は深酒をしたガイの寝坊だったらしい。

 俺はそのやり取りを見て、くすりと笑った。


「まぁ、とりあえず。今日も一日、よろしくな!」


 だが、すぐに気持ちを切り替えて。

 俺は三人にそう告げた。



 こうして、今日も一日が始まる。

 しかし、この時の俺は気付いていなかった。


「………………」


 無言で、俺のことを見つめる人の存在があったことを。



 


もしよろしければブクマなど。

応援よろしくお願い致します!!


<(_ _)>

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