表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

2.ファーシード





 三人と別れて、住まいであるボロ屋に帰る。

 夜風に吹かれているうちに、酔いはすっかりと醒めていた。

 さてさて。そんな感じで寝床までやってきた時、気付くことがある。


「ん、家の前に誰かがいるな……」


 それは、人気のない殺風景な場所にポツンとたたずむ一つの人影だった。

 女性のものと思しきそれであったが、深くフードを被っているため、その顔をうかがい知ることは出来ない。しかし、その人はこちらに気付くとゆっくりと歩み寄ってきた。そしてそれは次第に速度を増して、最後には駆けるようなそれになる。


「……って、アレは!?」


 そうやって、距離が近付き。

 風が吹いてフードが外れた時になってようやく、俺はあることに気付いた。

 女性の髪の色は鮮やかな赤色。瞳の色は金色。顔立ちは整っており、凛とした、まるで騎士のそれのようなモノであった。


 見目麗しきその人。

 しかし、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまうのであった。何故なら――。


「エル……お前、どうしてここに!」


 ――その人のことを、良く知っていたから。

 エル・グラニアドル。彼女は、俺の幼馴染みであり――。


「ようやく、見つけましたよ! エレン・ファーシード様!」


 ――『元』従者であった。



◆◇◆



「それでお前――エルがこの街にいるんだよ」

「それは、こちらがお聞きしたいです。エレン様こそ、ご実家を飛び出して三年……このような辺境の街で何をなさっているのですか?」

「なにって、冒険者だけど?」

「………………」


 狭い家の中。

 それこそ足がぶつかりそうな距離で、俺たちは向かい合っていた。

 エルはこちらの回答に、どこか呆れたような表情を浮かべる。そして一つ、大きなため息をつくのであった。彼女はこっちをまっすぐ見て、言う。


「エレン様? 大賢者――タクヤ・ファーシード様の孫である貴方は、このような場所にいるべき人ではないのです」――と。


 俺のひた隠しにしてきたこと。

 それを、当然の事実として口にした。


 そう――俺は人々が大賢者と呼ぶ、その人の孫だ。

 世界を救った大英雄であり、世界最高の識者。神から授けられた原初魔法を操り、さらにはその卓越した剣術によって魔王を打倒した勇者。

 その人の血を引くのが俺こと、エレン・ファーシードだった。


「なに言ってんだ。どこにいようと、俺の勝手だろ?」


 しかし、俺はそんな事実は知らないと。

 そういった風にベッドに寝転がりながら、エルにそう答えた。

 すると彼女はムッとした声になり、正座をしたまま語気を強めて話し始める。


「そのような勝手は許されません。貴方には力がある。それを世界のために還元しなければ――それに、新たな魔王が出現した今! 世界は貴方を求めている!」


 口調はだんだんと勢いを増していった。

 まるで、自分の語ることには大義名分があるかのように。

 だがしかし、俺はゴロンと寝返りを打ちながらヒラヒラと手を振った。


「あっそ。でも俺は、関係ないから」


 そして、言う。

 魔王だろうが何だろうが、自分には関係ない、と。

 長々と感情的に喋っているエルとは、まるで正反対に。


「な――関係ないなんて! エレン様には、自覚がないのですか!」


 そうすると、元従者は昂った感情そのままにこう言うのだった。



「貴方は……『そのためだけに生まれた』のに!!」――と。



 その言葉に、俺は過去を思い出す。


『魔王を封じるためだけの、都合の良い道具』

『化物が、人間らしい言葉を吐くなんて……』


 それらは、実際に俺が周囲から向けられた悪意だった。


「おい。いま、なんて言った……エル」

「………………っ!」


 ほんの少し怒りを向けると、彼女は言いよどんだ。

 俺は昔から、かの『救世の大賢者の孫』や『人間の形を模した兵器』として扱われてきた。俺は俺だというのに、周囲はいらない特別扱いをしてくるのだ。俺の思いを無視して。――それが辛くて、苦しくて仕方なかった。


 そして、今みたいに。

 まるでそうするのが当たり前かのように、役割を押し付けてくる。


 だから、俺は実家を飛び出してこの街にやってきた。

 自分を知らない、冒険者の街であるこの地ならきっと――そう。静かに、誰の干渉も受けず、自由に暮らすことが出来ると思ったから。


「こうなったら、力づくで……っ!」


 沈黙の中。

 先に口を開いたのはエルだった。

 彼女は立ち上がると強引に俺の腕を掴んだ。しかし――。


「きゃっ……!」


 ――気付けば、俺がエルのことを組み伏せていた。


「百戦百勝――エルが俺に勝てたことがないの、忘れたのか?」

「くっ…………!」


 俺とエルは、先にも言ったように幼馴染みでもある。

 幼少期は彼女に喧嘩をふっかけられて、適当に相手をしたことが何度もあった。今回もその延長線――下らない喧嘩の、その続きである。

 だから、俺は彼女を拘束したまま雑に外に放り出した。

 そしてこう宣言する。



「いいか? 俺はこの街で静かに暮らすんだ。絶対に実家には帰らないし、魔王討伐だなんて行かないからな! 分かったなら、さっさと帰れ!!」



 立てつけの悪いドアを、力いっぱいに閉じた。

 その前にエルは何かを言っていたように思えたが、無視すればいいだろう。



 俺はこの街で自由気ままに暮らすのだから。

 大あくびを一つ。やる気なく、再びベッドに横になるのであった。



 


もしよろしければ、ブクマ。

応援よろしくお願い致します!!


<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ