プロローグ エレンという青年
「――【フレア・オリジン】!」
俺がそう叫ぶと、目の前のドラゴンは炎に包まれる。
断末魔を上げながら魔素の結晶へと姿を変えるドラゴンを見ながら、ホッと息をついた。原初の炎に焼かれれば、いかにAランク相当の魔物でも耐えられない。
赤の宝石を埋め込んだ杖を仕舞いながら、俺は振り返った。
するとそこにいるのは、仲間の姿だった。
「お疲れ様です、エレンさん!」
真っ先に駆け寄ってきたのは、タオルを持った一人の少年。
名前をリンという彼は、少女のような外見をしたシーフだった。少しクセのある栗色の髪に、線の細い小柄な身体。腰元の短剣以外には装備らしいものはない。
「ありがとう、リン。ガイとクレイスもお疲れ様」
タオルを受け取って汗を拭いながら、残り二人の仲間にも声をかけた。
すると短い赤髪の青年――ガイが、やや不満そうに唇を尖らせる。
「お疲れ様も何もないぜ? 今回もほとんど、エレン一人で倒したじゃねぇか」
「そうだそうだ! たまには怪我して、仕事を寄越せ!」
「はははっ、それは勘弁かな」
そして、その言葉に同調して軽口を叩くのは治癒師のクレイスだった。
ちなみに、ガイは剣士。前線で主に陽動などを担当してくれている。対してクレイスは俺と同じく後方で待機しているのであった。
頑強な鎧をまとうガイに、軽装で長い金髪をしたクレイス。
彼らは文句を言いながらも、こちらを労ってくれた。
「それにしても、今回も良いところはエレンに持っていかれたな。ホント、どうしてお前みたいな凄い奴が、オレらのパーティーに入ってるのか不思議だぜ」
「この間だって、Aランクパーティーの【漆黒の翼】に勧誘されてましたよね? どうして、そっちにいかなかったんですか?」
その後に、おもむろに言ったのはガイ。
リンもその疑問に対して、不思議そうな顔をして同意した。
「あっちのパーティーに行けば、少なくとも収入は倍以上になるだろ。そりゃ、こっちはエレンがいてくれて助かるけどさ……」
クレイスも、どこか釈然としない表情で俺の方を見る。
「いや、どうしても何も――」
なので、こちたとしては当たり前のことを答えることにした。
「――大切な仲間を見捨てるなんてこと、出来るわけがないだろ?」
その言葉に、三人はきょとんとした顔を浮かべる。
そして一番に表情を変えたのは、リンだった。
「エ、エレンさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
「うわっ! どうしたんだよ、リン!?」
「ボク、嬉しくて、その……!」
彼はその円らな瞳に大粒の涙をたたえて、俺の胸に飛び込んできた。
その姿に驚く。だが、もっと驚いたのは残りの二人の反応に、であった。
「……って!? なにガイとクレイスも泣いてるのさ!!」
「な、泣いてなんかねぇ!」
「そうだ! これは、ゴミに目が入っただけだ!!」
「逆だと思うよ、クレイス……」
なんということか、剣士と治癒師までもが大粒の涙を流していたのである。
ダンジョンの真っ只中。魔物の気配はないとはいえ、その姿は隙だらけにも程があった。しかし、それも気にしない様子で三人は感極まったままだ。
そして、そのまま時間が流れるので俺は苦笑いしつつこう提案した。
「ははは、とりあえず街に戻ろうよ。それで今日も酒場に行こう?」――と。
すると三人は、大きく頷くのであった。
ガイは『祝い酒だ!』と、よく分からないことを言っていたけど。
とにもかくにも、場は収まってくれたらしい。そのことに、ひとまず安堵する俺。
「良かった。俺の素性について、聞かれなくて……」
でも、その理由は別のところにあった。
そして、その内容は三人に知られてはいけない。
「どうしたんだ、エレン。行くなら行こうぜ?」
「え、あぁ。分かった!」
クレイスの言葉に、ハッとする。
いけないいけない。ボーっとしてる場合じゃなかった。
俺は先を歩く仲間の後を追う。
そして、ひとまず街の酒場へと向かうのであった。
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