第1章 北の王国編2
バルク山。標高2000メートルほどの山。私達はその山の頂上辿り着いていた。
「ちょうど夜ね、ここを今日は拠点にしましょうか」
「そうだな」
夜空を見上げると、あたりいっぱいに星空が覆っていた。
「綺麗ね……」
「いい死に場所でしょう?」
「!?」
私達は後ろを振り向くと、黒装束の蒼色のメッシュを前髪に入れたヴァンパイアのような男が立っていた。
気配を感じなかった。こいつ、相当できる。
それはシルヴァも直感的に感じていたようで、オーラを強め臨戦体制に入る。
「まずは自己紹介からしましょうか。私はギラルーン。第4魔王の召使いのようなものです。以後お見知り置きを」
そういうと、彼は深々と会釈をした。隙だらけだ。余裕だとでもいうのだろうか。
「私は」
「シルヴァさんとティナさんですね? 存じております」
何故知っているのだろうかと、臆する私を横にシルヴァは飄々と応答する。
「殺りにきたんだろ? だったら殺ることは1つだろ?」
刀を取り出し、構える。こういう時のシルヴァは酷く冷静で残酷だ。人が変わったみたいに。
「そうですね。やりましょう。2人がかりでいいですよ?」
そういうギラルーンは構えずにポケットに手を突っ込んでいる。
私達はお互い目を見ると次の瞬間に2手に別れて、応戦していた。
「全力でいくぜ」
シルヴァはそういうと風のオーラを纏い早業を叩き込む。ギラルーンはそれを全てかわし、背後から斬りかかる私の太刀筋にも反応し、目を合わせ気味の悪い笑顔を見せた。
「なるほど」
そういうとギラルーンは、私達の刀を白刃どりした。
「なっ……」
抜けない。
「だいたい実力はわかりました。このまま北の王国で2日後に行われる武闘大会に出場してください」
「武闘大会だと?」
シルヴァが聞き返す。
「ええ。数日前、北の王国に行って武闘大会を開かなければ国を壊すと脅しておきましたので。ちなみに私の駒も参加させますので、面白い余興となることでしょう」
目的が見えない。すぐに壊して自分たちの領土にしたらいいものを。何を考えている。
そう私が勘ぐっているのを察したヴァンパイアのような男は言う。
「優勝すればわかりますよ」
「ここで吐かせる方がはええよ」
そういうとシルヴァは握っていた刀から手を離し、風の刃を打ち込んだ。直撃コース。あの速さを避けるのは無理だ。
だが、彼はシルヴァの背後をとり何事もなかったかのように呟いた。
「では、北の王国でお会いしましょう。ちなみに私は大会には出場しませんけどね」
そういうとギラルーンの姿は消えていた。
「魔王じゃなくてあのクラスかよ……。いよいよやべえな」
思ったより冷静なシルヴァはぼそっと呟いていた。
「とにかく、武闘大会に出れば何か分かるわよ!」
珍しく空気の入れ替えをしようとする私。自分で珍しくというのも癪なのだが。
「ま、そうだな。優勝してあのメッシュぼこぼこにしたらいいだけの話だからな」
そうねと私は頷くと緊張から解かれたからなのか自然と眠りについていた。