序章 日常の飽和3
城下町の中央に位置する時計塔の頂上につくとダッツ王国のエンブレムが入っている赤みのある騎士団の衣装を纏った女性の姿がそこにはあった。
「遅い!」
「お前がはやすぎるだけだっつの」
そんなやりとりをすると、待ち構えていたティナは唐突にこちらに向かって木刀を投げてきた。
「流石に真剣ではやる気はないわ。とりあえず一本取るまでやりましょうか」
「しょうがねぇ。デートに付き合ってやるよ」
お互い身構える。
「あの時の雪辱をここで果たす!」
そういうと、次の瞬間ティナは思いっきりこちらに飛び込んできて木刀を振り下ろす。それをぎりぎりのところで避けつつ蹴りを放つ。それをティナはガードしつつ間合いを取りすぐさま仕掛けてくる。
「つうっ!」
かわしきれず、ガードし間合いを取るがダメージは思いの外大きくよろけてしまった。
「とどめよ!」
ティナはそういうと俺の身体全体に木刀の連撃を放った。
「いたた……」
そういいながら俺は目を覚ますと、部屋のベッドの上だった。どうやら俺はティナにやられて気絶していたらしい。
「大丈夫?」
そういって看病してくれていたのはサンリアだった。
「まあ、身体中痛むが数日すれば治るさ」
「そう、よかった」
サンリアはホッとした様子で果物を剥いて食べさせてくれた。これには俺もテンションが上がった。
だが、それもつかの間でドタドタとうるさい足音が聞こえてきた。
「シルヴァ! 起きているかしら!?」
「何だよ」
嫌な予感が的中した俺は素っ気なくティナに言葉を返す。
「随分貧弱になったものね。あの程度でのされちゃうなんてさ」
「ほっとけよ」
何故か勝ったのに不機嫌なティナとまた口論になる。
「あなたが怪我させておいて何てことを言うんですか!」
サンリアが仲介に入って物申してくれた。彼女の方がティナより年下なのに大人だなあと思いながらいると、俺が隠していたことをティナは話し始めた。
「ここまで運んであげただけでも感謝してほしいくらいね。それに言いたくもなるわよ。こいつは自分の使命を放棄した臆病者なのよ」
「……」
無言になる俺をよそにティナは言葉を続ける。
「今から2年前の魔王との最終決戦に勇者一行のメンバーとしてこいつもその場にいたのよ」
「え、流浪の旅人じゃあ?」
サンリアがきょとんとした顔で聞き返す。
「魔王に敗れてからのこいつの動向はそれであっているでしょうね」
その問いに答えを返すティナ。
「正直言ってがっかりね。こんなんじゃ魔王どころかそこらの街を牛耳っているボス猿みたいなのにも勝てはしないわね」
「だろうな。あれ以来オーラも使ってないしな」
「使っていたらかすり傷くらいは負わせられたかもしれないわね。ま、もういいわ。過去に囚われた男に興味もないし、そこで世界の命運を眺めてなさい」
そういうとティナは部屋から出ていった。
そして、サンリアとの無言の空間が流れていた。
「悪いな、黙っていて」
俺の方から口を開いていた。自分でも分からないがなぜか謝っていた。
事実を告げなかったことだろうか。おそらく違う。今の状況は自分が、魔王を止められなかった自分が作り出してしまったといっても過言ではない。そのことに対する罪悪感から言えなかったのだろう。
「気にしてないよ。人間秘密の1つや2つあるよ」
サンリアはそういうと俺に微笑んだ。
「そっか、ありがとな」
俺はそういうと安心して眠りについていた。