第2章 いざ黒夢の地へ編1
「うっ……」
あれからどのくらい寝ていただろうか。 見覚えのある城下町の宿舎に俺はいた。傷はすっかり癒え、むくりと俺は起き上がる。
「ティナは……」
くそ。守れなかった。あいつがいなけりゃ俺はもう……。そう思っていた時だった。
「あら。シルヴァ、目を覚ましたのね!」
「なっ」
ティナが生きている。俺は幻をみているかのように果物を片手に持っている彼女を見入っていた。
「シルヴァ。幽霊じゃないわよ。私はちゃんと生きてるわ。流石に危なかったみたいだけどね」
「ははは」
俺は自然と涙が溢れ、ティナに抱きついていた。
「全く子供なんだから……」
そういいながらもティナは優しく包み込んでくれていた。
「ティナ、俺より先に死なせねぇからな」
「何言ってんのよ、私の方がお姉さんなんだからそういうセリフは私に言わせなさい!」
気づいたらいつのまにか言い争いになっていた。あ、本物だと思い笑顔が溢れていた。
「妬けますなぁ☆ 」
「「なっ」」
俺とティナは思わずハモる。いつからそこにいたという心の声を読むようにクジャは続ける。
「2人で抱き合ってたところからかな♡」
俺たちは無言になる。きっと考えてることは一緒だろう。次の瞬間クジャの記憶を消しにかかる。
だが、それすら読まれていてクジャのオーラで塞がれてしまった。
「野蛮だなぁ♢ シルヴァもティナもさ、黒夢の大陸にいくんだよね♪」
「ああ」
「僕も仲間に入れてよ♪」
クジャの突然の申し入れに俺は勘ぐってしまう。だが、魔王の部下。それも側近でもない魔族に対してこのザマだ。仲間は必要だと思っていた俺は承諾した。
「まあ、私もあんたの実力は認めているからしょうがないわね。よろしくね」
「よろしく♣︎ メスゴリラ♡」
「しばく!!」
そういうとティナとクジャの追いかけっこが始まっていた。
俺はというと街の様子をみに宿舎の外へ出ていた。きっとボロボロだろう。そう思っていた俺の目には全く想像していなかった情景が広がっていた。
何と街が元通りに戻っていたのだ。
「驚いたか?」
「何の用だ」
ギラルーン。吸血鬼のような男は日陰に潜み壁にもたれかかっていた。
「取引しないか? 私は今の黒夢の大陸の情勢を貴様に与えよう。その代わり貴様は私の主の城に来てもらう。それが条件だ」
「なるほど、情報次第だな。もっとも、城に招待されたところで俺がどうするかは俺が決めるけどな」
「ふん。いいだろう、後ろの小娘共。お前たちにも聞いてもらおう」
後ろで乱闘していたティナとクジャもその対象だった。俺たちは頷くとギラルーンに付いて歩いて行っていた。
少し歩くととあるバーについていた。ちなみに営業はしていないらしい。ギラルーンの能力で街を復旧した時に何となくで作った建物とのことだ。
それもあってギラルーンはある種敬われている。おかしな話だ。何故かティナもいつもならこんなにすんなり受け入れないのに様子がおかしい。
「ティナ、ギラルーンに対して警戒がなさすぎるぜ。何か変なものでも食べたか?」
「いえ、彼には死にかけていた私を救ってもらった恩もあるの。だから話くらい聞いてあげてもいいかなと思っただけよ」
納得がいった。あの状態のティナをここまで回復させれるなんて、流石だぜ。あの野郎。
「さて、ティナ君のもっている果物でもかじりながらご静聴願おうか」
そういうと、ティナのリンゴを取り出しかじりながら語り始めようとしていた。ちなみに俺は桃をかじっていた。
「僕はメロン貰うね☆」
「あっ、クジャ! 私も欲しいから半分にしましょう!」
「ローズって呼んで♡」
「ロ、ローズ、貰うわよ!」
すっかり仲良くなった2人は互いにメロンを細かく切っている。
こほん、と咳払いするとギラルーンは今度こそと語り始めめた。