序章 日常の飽和2
「聞きたいことは山ほどあるけれど、負けたのね?」
「ああ」
ティナの真っ直ぐな瞳を見て俺は頷く。
「それはこの状況を見れば明らかだから薄々気づいていたわ。そもそもここ最近まで魔物が活発にならなかったのがおかしなくらいよ。で、あんたはこの危機的状況で何をしていたの?」
「何もしてねぇよ。ただのうのうと生きながらえていただけだ」
俺は包み隠さず話す。おそらく性格上そうなってしまうのだろう。
「ふざけないで、こっちの苦労も知らないで!」
ティナは続けていう。
「あなたたちがいない間、私は各地から物資を集めたり兵士を育て準備してきた。それなのにあんたは……」
罵倒されてむっとした俺は言い返す。
「……また俺たち頼りかよ」
「選ばれなかった人間が選ばれた人間を頼って何が悪いのよ」
昔からこうだ。ティナとは出会った当初から仲は良くなかった。当時勇者の仲間を決める闘技大会の決勝の相手。いわば因縁の関係なのだ。
「だけど、俺たちは負けた。俺はあの時最年少だったこともあって勇者たちに助けられたがあいつらは……」
あの時からだろう。魔王に敗れた時から俺は戦う気力を失くしてしまったのだろう。だからこそティナに会いたくないという気持ちがあった。
だがそれよりも、あいつらを失いたくないという思いが勝ってしまったのもあったのだろうが。
そんなことを沈黙の中考えているとティナが俺に1つ提案してきた。
「私とデートしましょう」
「嫌だよ!」
俺は即答する。彼女のデートというのは決闘のことだというのは付き合いが長いので知っているからである。
「断る権利なんてないでしょう? 私に頼みがあって尋ねて来てるのでしょうしね」
やっぱこうなるか。と思いつつも俺も引けないし、引くわけにはいかないので承諾することにした。
「じゃあティナ。お前に勝ったら俺の頼み聞いてもらうぞ」
乗ってきたわね、とティナは笑みを浮かべていう。
「時間は今日の夜10時、城下町の時計塔の最上階よ。楽しみにしているわ」
そういうとティナは去っていった。俺もモルクの元へ戻り事情を話すことにした。
「なるほどね〜ヒック、あのダッツ王国の戦姫と呼ばれるティナ王姫を決闘で倒してキャラバンのメンバーの救援をしてもらうってことかい」
場所は城下町のとある酒場。飯をメンバーで食べた後、モルクとこの付いてきたよっぱらいヤックと落ち合っていた。
「で、勝算はあるのか?」
「わかんねぇ、2年前は俺の方が大分上手だったとは思うが、実際今大分鈍ってるしな」
「そうか」
モルクはひどく落ち着いていた。
「冷静だな、負けたらこの魔物の量や強さでキャラバン生活だぜ?」
俺は気になったので煽るような形でモルクに問いかけた。
「まぁ、駄目なら駄目なりになんとかするさ。これまでもそうやってやって来たんだ。お前が全部思い込む必要もねぇんだよ」
気楽にやってこいと言わんばかりにモルクは俺の肩をぽんぽんと叩いてくれた。
「ありがとな」
小さい声で俺はそう呟くと約束の時間が迫ってきていたため酒場を後にした。そこにあった不安はすでになくなっていた。