序章 日常の飽和1
「シルヴァ。食料そっちにいったぞ」
「おーけい」
俺はおびき出された魔物を仕留めると、拠点に戻り飯を食う。
「はは、流石だな。シルヴァ。お前のところに誘導すりゃあ魔物を逃すなんてありえねえ」
「モルクはもう少し傷を負わせといてくれよな」
俺はいつも通りだなと言わんばかりに憎まれ口を叩く。
「ちげえねえ」
いつも通りの会話。それがとても心地よい。
西暦不明。魔王軍にこの世界が蹂躙されて早2年。
俺は勇者一行のメンバーの1人で魔王との戦いの後、森で死にかけていたところを救われ、このキャラバンの用心棒をやっている。
モルクはキャラバンの仲間であり狩りにおけるパートナーだ。この村のリーダーであり、最初に流浪の俺を引き入れてくれるきっかけになった人物でもある。
ごつい身体つきの割に腕っ節がないのがたまに傷ではあるのだが。
「風呂沸いたわよ〜」
「ありがとう、ルトさん」
彼女はルトさん。食事や洗濯、もろもろしてくれる世話焼きでこのキャラバンにおいて欠かせない存在だ。
彼女の料理を食べる為に狩りを頑張っていると言っても過言ではない。容姿は緑色のロングヘアで穏やかな雰囲気をもっている人だ。年齢は20代後半と思われる。
「はあ〜」
やはりいつの時代も風呂は落ち着くものだ。そんな感じでゆっくりしていると1人の男が乱入してきた。
「よお。シルヴァ。ここでの生活にはなれたか?」
「もう2年経つし結構慣れたかな」
この人はヤック。普段俺たちが狩りをしている間、木の実や鉱石などを探してきてキャラバンに貢献している人だ。
今のような生活をおくる前はあらゆる土地をまわって商売をしていたため、地理や物の相場に詳しい人だ。
見た目は少し胡散臭そうなところがたまに傷といったところか。
「シルヴァ。今日探索していたんだが、少し魔物の量が増えたように感じないか?」
「増えてるね、確実に」
続けて俺は言う。
「そろそろ拠点の移動をモルクに提案しようと思う。このままでは危ないからな」
「だよな、俺も同じ考えだ。ならまた明日な」
そういうとヤックは風呂から上がっていった。俺はと言うと物思いにふけっていた。
一人で旅していた時とは大分状況が変わったし、行きたくはないが、こいつら守るためにはあそこに向かう事を提案するっきゃねぇか。
そんな事を考えつつ俺は風呂から出て眠りについた。
翌日。モルクに昨日考えていた案を話した。
「おいおい、本気かシルヴァ。ここから西にあるダッツ王国に行き救援を求めるというのは」
「ああ、本気だ。最近魔物の増え方が尋常じゃないし、俺らみたいに動ける人間だけがキャラバンにいるわけじゃないからな。それに、頼りたくはないがつては一応あるからな」
続けて俺は言う。
「まあ、あくまで提案だ。決めるのはリーダーであるモルクだからな」
「なるほどな。確かにここにいても事態は悪化するだけだからな。西の王国目指して拠点を移動するぞ」
そういうとモルクはメンバーを全員集めて話し始めた。全員といっても小規模なので俺を含めて8人しかいないのだが。
「拠点を移動しようと思う」
そういうとモルクは移動する理由や場所を話し始めた。
「明日の朝には出る準備をしておくように。解散」
こうして俺を含めたメンバーは解散していく。
「シルヴァ、ちょっといい?」
そういって呼んできたのは、このキャラバンで唯一同年代の女の子、サンリアだった。
サンリアも俺と同様で行き倒れていたところをモルクたちに助けてもらってキャラバンに入れてもらった人だ。
主にいつもルトさんのお手伝いをしている優しい少女で、ピンクのショートヘアにくりくりした目が特徴の小柄な女の子だ。
「どうした?」
「いやあね、今までも拠点の移動はあったけど、国に救援に行くなんて言うのは初めてで、不安で眠れなくて」
不安。無理もない。普通に国に行って救援など得られるわけもないのだ。正直交渉出来るのは俺次第なところもあるからだ。
「俺を信じろ。必ず交渉を成立させてみせる」
そういうと俺はサンリアの頭を撫でて安心させた。
「何か凄いね。私と歳も変わらないのに」
「一緒だよ。今の世界で生きているんだからな」
やはり俺に平穏は似合わないらしい。そんなことを思うとシルヴァは静かに眠りについた。
翌日。モルクが指揮をとり出向する。移動する手段が徒歩しかないためヤックがダッツ王国に着くための日にちの見積もりを立てたのだが1週間はかかるらしい。
そして、目指すコースとしてはなるべく密林の方から行くこととなった。理由としては、密林の方が魔物は多いが、上空からの奇襲や、魔王軍の直属の兵士に見つかることを避けるためだ。
出発した俺たちは幾度となく魔物と対峙し何とか全員生き延びてきた。そして、西の王国、ダッツへ着いていた。
「何とか行けたな」
俺はホッと一息ついていた。
「ああ、ここはまだまだ大丈夫そうだ」
モルクだけじゃなく他のメンバーからも笑顔が溢れていた。1番の幸運は犠牲者が1人も出なかったことだろう。
まあ、問題はここからなのだが。
「シルヴァさん、生きていたのですか」
そういいながら走ってくるのは何処かで見覚えのある兵士だった。
「お前は確かティナのとこの……」
丁度いいかと思い、俺は兵士にティナにあわせてくれと頼む。正直この状況でなければ会いたくないのだが。
「勿論おーけーです! 今魔王討伐に向けて強い者を募集しているところでしてね」
「わかった、モルク。ちょっと出掛けてくるからまた宿で落ち合おう」
おう、とモルクは返事をして別れた。
さて、問題はこれからだ。そして、俺は兵士と城へと向かっていた。
向かった先で待ち受けていたのは、栗色のショートヘアでつり目が特徴の女性。ティナだった。