08. レベル上げ
台風のせいで調子悪い……。10/29、二回目。
全員SPを使って、自分たちのレベルを上げた。
俺はこんな感じだ。
名前 :イクト ヤクモ
所属PT:アラクネマスター
状態 :病(中)
体力 :38→40
攻撃力 :100→106
耐久力 :95→101
敏捷 :32→36
反応速度:43→47
魔力 :30→32
魔力耐性:31→33
SP :103→73
職業 :狂戦士LV3(NEXT30)
スキル :狂化LV1(30min)、自動回復LV1、精神汚染耐性LV1
レベルを一つ上げると、必要なSPが増えたため、レベルは二つしか上げられなかった。
伸びたのはステータスだけで、スキルは伸びていない。
俺が知っている異世界小説の中では、なかなかにハードモードだ。
次に春川さん。
名前 :ナオ ハルカワ
所属PT:アラクネマスター
状態 :健康
体力 :9→10
攻撃力 :16→17
耐久力 :13→14
敏捷 :24→26
反応速度:28→30
魔力 :29→35
魔力耐性:31→37
SP :106→96
職業 :黒魔法使いLV2(NEXT:20SP)
スキル :炎弾LV1(5/5【12min】)、水刃LV1(5/5【12min】)、風刃LV1(5/5【12min】)、
岩弾LV1(5/5【12min】)
春川さんは20SP使うと言っていたが、結局10SPだけしか使わなかった。
そしてステータスの伸びだが、やはり俺と比べると違う。
俺が攻撃力と耐久力が伸び易かったのに対し、春川さんは魔力と魔力耐性が伸び易いらしい。
次にレン。
名前 :レン クズミ
所属PT:アラクネマスター
状態 :健康
体力 :5→9
攻撃力 :6→10
耐久力 :3→7
敏捷 :9→11
反応速度:16→18
魔力 :13→19
魔力耐性:11→17
SP :100→70
職業 :白魔法使いLV3(NEXT:30SP)
スキル : 癒しの光(5/5【12min】)、解毒の聖水(5/5【12min】)、退魔の光(5/5【12min】)
同じ魔法職でも、春川さんとは伸び方が違うらしい。
それに計算してみると、俺と春川さんはレベル1上げると、ステータスは計13上がったのだが、レンは計14上がっている。白魔法使いは結構当たり職だったのかもしれない。
そして最後に、ルージュだが、
名前 :ルージュ
所属PT:アラクネマスター
状態 :健康
体力 :633→637
攻撃力 :512→517
耐久力 :638→643
敏捷 :119→123
反応速度:161→165
魔力 :113→116
魔力耐性:125→128
SP :10→0
職業 :騎士LV2(NEXT:20SP)
スキル : 聖破斬LV1(3/3【15min】)、武装硬化LV1、騎乗LV1
何でこいつだけイージーモードなんだ?
レベル1に対する上昇値が28ある。
俺たちの倍以上あるっていうのに、それさえも誤差に見えるステータスを誇っているのだから恐ろしい。
「ふふふ、マスター、ついに準備が整いましたね。これからいよいよ私の輝かしい栄光への伝説が始まるのです」
「ごめん、ちょっと何言ってんのかわからない。あと、初めに言っとくけど、お前を見たらだいたいの人が『キャー、蜘蛛の化け物よぉ!』って言いつつ、逃げ惑うと思うからな」
「ぐっ、それもそうですね。あと、エキストラの女性の声マネ、見事です」
「ありがとう」
ルージュの高まるテンションに水を差しておく。じゃないと暴走しそうで怖い。
そして、まず連れて行くかどうかを俺は悩んでいたのだが、ルージュはもう出る気満々のようだ。
だが陽はまだ出ている。大丈夫なのだろうか。
ルージュに訊いてみると、
「気合でなんとかします!」
うん、好きにしてくれたらいいと思う。
ともかく準備はもう出来ている。
あとは心の準備だけだ。
「ルージュはともかく、春川さん、レン、心の準備はいいか?」
「はい」
「うん!」
よし行こう。
俺たち三人はまずドアモニターで外の様子確認し、異常が無いことを確認してから外に出た。
そう、俺たち三人だけ。
「おい、こら! ルージュ!」
振り返るとルージュはドアから上半身だけ出し、何やら苦しそうにもがいている。
「マ、マスター、駄目です。私は外に出られません。か、体がつっかえます。体の柔らかさには自信があったのですが、無理そうです」
「も、もういいよ。ぶっ壊してでも出て来い」
「わかりました。では、ちょっと先に向かっていてください。すぐに追いつきます」
「ああ、わかった。向かいの公園にいるから」
何とも締まらない感じのスタートとなってしまったが、とりあえずは俺たち三人だけで先に進むことにした。
道路を横切ったら、すぐに公園なのだが、早速問題が発生する。
草地の広場で寝ていたのだ。レンの母親の命を奪った奴らが。
普通のワニのような姿勢なのだが、それに人間の手足が生えているから、俯せで寝ていると表現した方が良いのかもしれない。
起きている奴はおらず、合計で十体ぐらいのワニ男が寝ている。
「さて、どうするか……」
「迂回して行けば、気付かれなさそうですね」
「ああ、だけど……」
レンを見る。
レンは瞳に憎しみの炎を滾らせ、小さな拳を肌が白くなるほど強く握り締めていた。
普段の俺なら迷わず迂回する。そして今回もそうするつもりだった。
レンとの約束を忘れたわけではないが、相手が多い。レンには悪いが、やはり戦闘は避けた方が良いだろう。
そんな俺の考えは、パッリーンというガラスの音と共に砕け散った。
そして俺たちの目の前に、巨大な蜘蛛が降ってくる。
巨大蜘蛛、ルージュは、ビシッと着地し、剣を抜き掲げてポーズを決めた。もちろんすでに完全装備である。
「はーはっはっはっはっは! 出たな、悪しき異形の怪物どもめ! この騎士たる私、ルージュが、貴様らを成敗してくれるわ!」
出たのはお前だし、お前も異形だろ、という突っ込みはやめておこう。
もうそんな場合ではない。
ワニ男が全て起き上がっているのだ。
立ち上がったことで何体いるのかわかった。総勢十二体である。俺たちのちょうど三倍だ。
俺は正直二対一ですでに勝てる自信が無い。
こうなってしまったら、もうルージュに期待するより他ないだろう。
「おい、ルージュ。お前ちゃんと戦えるんだろうな?」
「マスター、日差しが強いです」
……もう駄目かもしれない。
「八雲さん、私が先制攻撃します!」
どこかのポンコツ騎士などとは違い、春川さんが勇ましかった。
こちらにじりじりと近付いて来るワニ男に向かい手を突き出し、「炎弾」と唱える。
すると、春川さんの突き出した手の前に、ファンタジーお馴染みの魔法陣が浮かび上がり、そこから火の玉が発射された。
速度はキャッチボールほどの速さだが、ワニ男はそれを避けられずに真正面から喰らった。
ワニ男は後方にぶっ倒れ、転げまわっている。
「炎弾!」
さらに春川さんが追い打ちをかけると、ワニ男が燃え上がり、光となって消えた。その光は俺の時と同じように、春川さんの体に入っていく。
恐らくパーティーを組んでいる俺たちにも、春川さんの倒したワニ男のポイントが入っているはずだ。
「なおおねえちゃん、かっこいい!」
「むむ、なかなかやるな、泥棒猫殿」
「あ、あの、名前で呼んでもらっていいですか?」
「遊んでいる場合じゃないぞ、ルージュ!」
「私ですか!?」
ワニ男たちが一斉にこちらに突撃してきた。
さすがにこれは不味い。
「レン、退魔の光を敵に向かって使ってみてくれ」
「う、うん。【たいまのひかり】」
ワニ男に向かって伸ばした、レンの小さな手から魔法陣が発生する。そしてそこから白い柔らかな光が生まれるのだが、それは敵に向かわず、レンとすぐ隣にいた春川さんの体を包み込んだ。
「え、えーっと……」
「計算通りだ。それはバリアーみたいなもんだろう。しばらくその中にいてくれ」
「……」
ルージュがジト目を俺に向けてくる。こっち見んな。
「ルージュ、行ってこい」
「き、きもいです。マスター」
ポンコツ騎士め。
もうこうなったら俺がやるしかない。
「おい、俺がもしも暴走したら抑えてくれよ」
「や、やるつもりですか?」
「ああ、【狂化】!」
途端に全身に力が漲ってくる。体が熱い。
いや、見た目にも異変がある。手を見ると、赤い光を放っているのだ。多分全身そうなっているのだろう。
「おお、マスターがゴッドです」
「アホなこと言ってないでお前も戦え」
「あ、あれ? 自我がおありで?」
「ああ、だけど、その、何て言うか……」
熱い、興奮する、力が湧きあがる……!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ! やってやらぁぁぁぁぁ!」
「うわっ、マスターが燃え上がった」
俺は止められない昂ぶりもそのまま、牛刀包丁を手にワニ男に向かって行った。
今ならやれる気がする。
二匹だろうが、三匹だろうが、怖くない!
一番近くにいたワニ男に突撃し、ワニ男の下あごから上に向かって包丁を突き刺した。
膂力が上がっているのだろう。俺の突き刺した包丁は一気に脳天まで貫通し、ワニ男はあっけなく絶命した。光の粒子となって俺の体に吸収される。
この調子でどんどん倒していこう。
だがその考えは甘かったようだ。
俺を包んでいた赤い光が消えていく。
えっ? もうお終い? そんな馬鹿な……。
「マスター、危ない!」
「八雲さん!」
「イクト!」
俺の目の前に、何匹もの大口を開けたワニ男が迫っていた。