表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/33

07.アラクネマスター

10/29一話目。


 ホーム画面にアイコンが増えている。

 初めは三つしかなかったのに、今は五つだ。

 新しく増えたのは、「パーティーメニュー」と「所持アイテム」である。


 先に「所持アイテム」の方から見ていく。

 タップするとメニュー画面が現れた。

 上から「素材」と「食材」がある。

 素材を見る。


・カイマンマンの皮×1


 あのワニ男、カイマンマンっていうのか……。

 そしてもう一個の食材の方だが、凄く嫌な予感がする。

 あまり見たくはないが、確認しないわけにはいかない。


・カイマンマンの肉×1


 うん、やっぱりあった。

 食えないだろ。というより、食いたくない。

 春川さんを見ると、彼女も渋い表情でスマツの画面を見ていた。


 これはそっとしておくとして、「パーティーメニュー」の方も見てみる。

 またメニュー画面が現れる。

 上から「パーティー結成」、「パーティー加入」、「パーティー脱退」、「パーティーコール」だ。

 さらにその下に説明がある。

 『パーティーは最大六人で編成できます。パーティーを結成し、魔物を討伐すると、パーティーメンバー全員に同討伐ポイントが入ります』

 滅茶苦茶便利じゃないか。

 これは早速設定するべきだ。


「皆、パーティーメニューを開いてくれ」


 全員が言う通りにする。

 レンはよくわからないようで、春川さんが手伝ってあげていた。


「とりあえずこのメンツでパーティーを編成しようと思うんだが、いいか?」

「はい、八雲さん」

「イクトとなかまになるの?」

「ああ、そうだ」

「ふふ、前衛は任せてください、マスター」

「うるさい、駄蜘蛛」

「うぅ、マスター……」


 まず「パーティー結成」を選ぶ。


『パーティー名を決定してください』


 うぐ、面倒臭い。


「パーティー名何にしよっか?」


 考えるのが面倒くさいので、迷わず仲間たちに振った。もちろん駄蜘蛛の意見は無視するが。


「はい、マスター。『マスターと愉快な仲間たち』なんてどうでしょう。ぐへへ」


 わかりやすいおべっかを使ってきやがった。

 無視だ、無視。


「春川さんはなんかない?」

「えっ、私は無視ですか?」

「え、えっと、『八雲ファミリー』はどうでしょうか……?」


 あ、この人も駄目だ。

 なんかちょっと照れるように言っているし、下心を隠すつもりもないらしい。


「レンは?」

「あれ? 私も無視ですか?」

「う~ん、スーパーライダーズがいい」

「くそっ! まともな意見が無い!」


 レンがちょっとショックを受けたような顔をしているが、捨て置き、仕方なく真面目にパーティー名を考えることにした。


「マスター、もう許してくださいよ。ねぇ、マスター」


 駄蜘蛛が鬱陶しい。


 しかしこれから外に出ようとしているわけだが、こいつはどうしよう。目立ってしょうがない。

 ん? 目立つか……。

 いわばこいつは俺たちのパーティーのシンボル、という表現は嫌だから、マスコットと言っても過言ではない。


「ねぇ、マスター、マスター」


 よし、決めた。


「『アラクネマスター』と。皆、『パーティー加入』を押してみてくれ」

「え、八雲さん、もう決めちゃったんですか?」

「うん、もうこれ以上考えるのも面倒くさいから。それにほら、こいつ目立つし、ちょうどいいんじゃん?」

「ま、まぁ、そうですね」

「マスター、パーティー名に私を入れてくれたんですね!」

「あらくねますたー? どういう意味?」

「アラクネっていうのは、このデカい以外取り柄のない蜘蛛女のことで、マスターっていうのは支配者、命令する人のことだ。つまり、皆でこの蜘蛛女を、馬車馬の如く扱き使ってやりましょうって意味だな」

「鬼畜ですか!?」


 レンは首を傾げている。

 ちょっと難しかっただろうか。


 メニュー画面に『パーティー管理』という項目が増えていた。

 タップすると、またメニューになり、「メンバー」、「パーティー名変更」、「パーティー解散」という項目がある。

 その中の「メンバー」が赤く点滅しているので、タップする。

 すると、俺の名前と顔写真が一番上にあり、名前の横に星マークがついていた。どうやらリーダーという意味のようだ。

 しまった。こういう面倒臭そうな役割はやりたくなかった。いまさらどうしようもないけど。

 俺の下に、三人の名前と顔写真が並んでいて、赤く点滅していた。恐らく許可待ちという事だろう。

 俺のすぐ下にあった春川さんの名前をタップする。


『パーティー加入の申請がありました。許可しますか? はい/いいえ』


 『はい』をタップ。

 次にレンも『はい』。

 ルージュは『いいえ』。


『ルージュのパーティー加入の申請を、今後一切拒否しますか? はい/いいえ』


 『はい』してみたいが、我慢して『いいえ』を押す。


「マ、マスター、『パーティー加入の申請が拒否されました』と出てきたのですが……」

「ん? ああ、ちょっと試してみた」

「もう許してくださいよぉ」


 ルージュはそう言いながら俺を抱き上げ、抱き締めてきた。

 痛い。鎧が痛い。


「やめろ! 鎧が当たって痛い!」

「うぐ、申し訳ありません」


 ルージュが俺を下ろし、鎧をガチャガチャやり始めた。

 痛いと言われて一度脱ごうとしているらしい。


「あ、あれ? どうやって脱ぐのだ?」

「どうやって着たんだよ……?」

「買った時に『その場で装備しますか?』と出てきたので『はい』を押したら、次の瞬間体が光って装着していました」


 ルージュはスマツを弄り始めた。

 しばらくすると、ルージュの体が光って、鎧が消える。


「どうやら個人メニューのような所から着脱ができるみたいです。初めのステータス画面で左にフリックしたら装備欄になりました」

「へぇ、便利だな」


 装備が嵩張らないのは良い。

 スマツで日用品とかも買えるようになれば、非常に便利になるのだが。

 それこそ、俺が欲しかった「無限収納(アイテムボックス)」だ。

 今後のアップデートに期待しよう。


「ルージュさん、すごくいい体してますね……」

「くものおねえちゃん、ママよりおっぱいおおきいね」

「ふふん♪」


 ルージュが見せつけるように胸を張って見せた。

 下着をつけていないので、浮いている。何がとは言わんが、やめてほしい。

 それにしても、レンの母親はそんなに大きかったのか。惜しい人を失ってしまった。


「さ、マスター、これで痛くないですか?」


 ルージュが再び抱き締めてきた。

 確かに痛くはない。むしろ今までの経験で一番柔らかい。でも、だからこそ、やめてほしい。


「ちょっとルージュさん、子供のいる前で何してるんですか!?」

「何と言われても、マスターとコミュニケーションを取っているだけだ。いつも通りですよね、マスター?」


 わかってやっているんだと思っていたが、違かった。

 確かにいつも通りと言われれば、いつも通りだ。寝ている俺の胸に乗っかかってきたり、起きている時は肩に乗ったりしていたし。


「いつも通りって……あれ? 八雲さん、ルージュさんって元は蜘蛛なんですよね? その、種類は?」

「アシダカ軍曹だ」

「八雲さんって、奇特な趣味をお持ちだったんですね……」


 春川さんにドン引きされてしまったが、今は気にしている余裕が無かった。

 俺の胸で、巨大な柔らかいものが圧し潰されてぐにゃりと変形している。


「お、おい、離れろ。馬鹿蜘蛛」

「イヤです。許してくれるまで放しません」


 ルージュが目を潤ませて見つめてくる。

 こんなの卑怯だ。

 まさかこんな圧倒的火力で武力制圧されることになるとは……。


「わ、わかった。許すから放してくれ、ルージュ」

「ありがとうございます、マスター。でも、抱き締めてたら、何だか変な気分になってきました。もう少しこのままでいてもいいでしょうか?」

「よくねぇよ。パーティーに入れないぞ?」

「うぐっ、わかりました」


 ルージュがやっと俺を放した。

 なにやらルージュの顔が赤いが、多分俺の顔はもっと赤いだろう。

 とりあえず体育座りでマットレスの上に座る。


「イクトとくものおねえちゃん、なかよしだね」


 レンは無邪気で良かった。

 しかし春川さんの視線が若干冷たい。

 しばらく春川さんの方は見れなさそうだ。


「レンよ、私のことはルージュと呼びなさい。これからは仲間なのだから」

「そうだな。お姉ちゃんは、無いな」

「マスター、それはどういう意味で……?」

「私は奈穂でいいわよ」

「わかった、ルージュとなおおねえちゃん」

「お姉ちゃんは要らないんだけど、まあいっか」


 さて、パーティーの親睦を深めるのも結構だが、今はそれよりも試したいことがある。

 それは「パーティーコール」だ。

 早速タップしてみると、今いるメンバーの名前と顔写真が現れた。試しにルージュを押してみる。


「な、なんだ!? 急に『八雲育人さんからお電話です。応答しますか?』と聞こえてきました。これはマスターが何かしたのですか?」

「ん、ああ。取ってみてくれ」

『あーあー、マスター、聞こえますか? どうぞ』


 ルージュは声を出していない。

 しかし彼女の声が俺の脳内に直接響いてきた。


『ああ、聞こえている。これは便利だな』

『はい、敵が近くにいても、これなら勘付かれませんね。どうぞ』

『そういうネタはいいから』


 俺は画面にあった「通話終了」を押し、全員にこれでこの四人なら簡単に連絡が取れることを伝えた。


 あとは武器と装備だが、どうしようか。

 俺は正直、このマゴロクブレードで十分だ。他の武器があっても、使いこなせる自信が無い。それにも拘わらず前衛職だが……。

 他の二人にしてもそうだ。

 ナイフぐらいしか使えそうなものはないだろう。もしかしたら、新しく増えた杖とかに、魔法の威力が上がったり、使用回数が増えたりするものがあるのかもしれないけど。「鑑定」が無い事にはわからない。


「武器と装備なんだが、俺は正直どれを選んでいいかわからないし、とりあえず今回は見送ろうと思う。二人はどうする?」

「ちょっと待ってください、マスター。剣を選ばないのですか? 先程部屋を弄った時に木刀と竹刀を発見しました。マスターには剣道のご経験があると思ったのですが」

「剣道なんか実戦で役に立つかよ。はい、以上」

「そんなぁ、マスターに剣道を教えて頂こうと思っていたのに」

「まぁ、基本的な剣の振り方とかなら教えてやれるけど、剣道が使えても実戦では使えないと思っておけよ」


 もっと実践的な剣術とかなら使えたのかもしれないが、剣道は所詮スポーツだ。あれでモンスターと戦えるとは思えない。

 たまに剣道とボクシングどちらが強いか、なんて話を聞くことがある。

 俺は実際に同級生のボクサーと異種格闘技戦をしたことがあるのだが、一本を取る、つまり先制攻撃を当てる勝負なら俺が勝った。

 だが、相手からダウンを奪うという勝負では、ボクシングには勝てなかった。

 他にも柔道やら空手やらをやっている同級生もいたのだが、ポイントなら剣道が一番有利、ダウン、つまり相手を倒す技術ならボクシングが一番強かったのである。

 だけどそのボクシングも、相手を殺す技術ではない。

 一応ボクサーの同級生に殴り方を教えてもらったことはあるが、それも過信できないだろう。

 まぁ、本当にいざとなったら、俺は違う戦い方をするが。


 結局二人も武器を選ばず、とりあえずこのままで行くことになった。

 あとは装備なのだが、それを迷っていると、ルージュがある提案をしてきた。


「私の糸を使いましょう。鉄より硬いはずです」


 そういえば蜘蛛糸はかなり丈夫で、同じ太さなら鉄より硬いんだったか。

 あれ? それを易々引き裂いたルージュの足って、どうなってるんだ? 鋼の剣って必要だったんだろうか……?


 ルージュが俺たちの体を糸でぐるぐる巻きにした。

 試しに全力で引っ張ってみるが、確かに全然引き千切れる気配がない。

 まぁ、見た目は酷いが。


 あとは俺の出掛ける準備だが、常日頃から俺は防災グッズを用意している。

 これに残りの薬をすべて突っ込み、食料を入るだけ入れて準備完了だ。

 待てよ、SPが100もあるんだ。レベルを上げておくべきか。


「皆、俺はSPを30ぐらい使って、職業のレベルを上げてみようと思う。皆はどうする?」

「はい、マスター。私もそうします」

「お前、あと10SPしかないだろ……」

「うーん、私は20SPにしときます。さっき戦った時、確かに倒すのに時間がかかったんですよね。とりあえずは試してみるという事で」

「ぼくはいくととおなじにする」


 というわけで、出発する前に各々レベル上げをすることにした。

 さて、どれくらい強くなるのだろう?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ