06. 復讐する力を
本日三話目、今日はこれでおしまいです。
「おい、やってくれたな。ダメ騎士」
俺はスマツの画面を紋所の刻まれた印籠宜しく、ポンコツ蜘蛛に見せつけた。
「お、おめでとうございます、マスター。こ、これで晴れて無職ではなくなりましたね」
そういうことではない。
俺はラノベ主人公のように、知恵を使って上手く立ち回りたかったのだ。できれば楽をして。
それがよりにもよって、対極に位置すると言っても過言ではない狂戦士になってしまうとは。
どう落とし前をつけてくれようか。
「ポンコツな上に自分の過ちを他人に着せようとしやがって、それが騎士様のすることなんですかねぇ?」
「う、うぅ、悪気はなかったんです。ど、どうかお許しを」
「そう簡単に許せるわけないだろ! このポンコツ蜘蛛! クズ騎士! 無駄乳! レンも覚えとけ。こんな大人にだけはなっちゃ駄目だぞ」
「無駄乳……」
「うん、ならないよ」
レンが若干軽蔑するような眼差しをルージュに送っている。
いい気味だ。
「そ、それで、八雲さんはなぜ動物博士なんかを狙ってたんですか?」
「ああ、春川さんはあんまりファンタジー物の小説読まないかな? ファンタジー世界だとさ、三大チートスキルっていうのがあるんだ。その中の『鑑定』っていうスキルを狙ってたんだよ」
最後に「どこかのクズ騎士のせいで無駄になったけどな!」と言って、ルージュを睨んでおいた。
ちなみに俺の中での残り二つは、「無限収納」と成長系のチートスキルである。だいたいここら辺が鉄板じゃないだろうか。
「はぁ、とりあえず一度、全員の情報を交換しておこうか」
まず俺のステータスを全員に見せた。
名前 :イクト ヤクモ
所属PT:なし
状態 :病(中)
体力 :38
攻撃力 :100
耐久力 :95
敏捷 :32
反応速度:43
魔力 :30
魔力耐性:31
SP :103
職業 :狂戦士LV1(NEXT:10SP)
スキル :狂化LV1(30min)、自動回復LV1、精神汚染耐性LV1
さっきワニ男を一匹倒したからだろう。SPが3増えている。
肝心のスキルだが、いまいちよくわからん。
自動回復というのが一番期待できるが、一体何を回復してくれるのだろうか。
「わ、私と全然違いますね。私、こんなので大丈夫かな……」
春川さんが少し落ち込んでいる。
そんなに違うのだろうか。
春川さんのステータスも見せてもらう。
名前 :ナオ ハルカワ
所属PT:なし
状態 :健康
体力 :9
攻撃力 :16
耐久力 :13
敏捷 :24
反応速度:28
魔力 :29
魔力耐性:31
SP :106
職業 :黒魔法使いLV1(NEXT:10SP)
スキル :炎弾LV1(5/5【12min】)、水刃LV1(5/5【12min】)、風刃LV1(5/5【12min】)、
岩弾LV1(5/5【12min】)
なるほど、俺とルージュはスキルが三つだったが、黒魔法使いを選ぶと四つ増えるのか。
しかしどれも攻撃魔法と思われるものしかない。完全な攻撃職というわけだ。
そして春川さんの言葉通り、ステータスがまるで違う。男女の差、だけではないだろう。
敏捷あたりは男女の差かもしれないが、攻撃力の高さは違う理由だろう。
何となく心当たりはある。奇しくも選んでしまった狂戦士と同じ理由だ。だけどあの攻撃は、モンスター相手には絶対使いたくない。
他にも春川さんのステータスで気になることがある。
「あれ? 春川さん、ここに来るまでにワニ男倒した?」
「はい、二匹ほど倒しました」
ルージュにはビビってしまったらしいが、なかなか肝の据わっているところもあるらしい。一緒に行動するのなら、心強い。
さて、あとはレンだけだが、さすがにまだ子供。戦力を期待するのは酷というものだ。
それでも、一応見てみる。
名前 :レン クズミ
所属PT:なし
状態 :健康
体力 :5
攻撃力 :6
耐久力 :3
敏捷 :9
反応速度:16
魔力 :13
魔力耐性:11
SP :100
職業 :なし
スキル : なし
うん、まぁやはりこんなものだ。
「レンは職業選ばなかったんだな?」
「うん、ママがあぶないからやめなさいって」
戦わせたくないという意味だったのか、そもそも非日常的なことを恐れていたのか。
どっちにしたって気持ちはわからなくもない。
日常生活が壊れるというのは、恐怖を伴うものだ。
だが、これから先は戦って行かなくてはいけない。
俺がレンにしてやれることは、守ってやることではなく、自分の身を守る方法を教えることだ。
そんな大層なことが言えるほど、俺は強くはないが。
「大丈夫だ、レン。これからは私が守ってやるぞ」
出たよ、駄目な大人が。
「黙ってろ、クズ騎士」
「うぅ……」
レンはルージュを見てしっかりと首を振った。
「ぼくもつよくなりたい。それで、あのワニをやっつける!」
うん、強い子だ。こういう子は嫌いじゃない。クソガキは嫌いだが。
「ああ、そのためにはまず職業を選ぼう。なんか役に立ちそうなのがあると良いな」
レンの職業一覧を見せてもらった。
格闘家、斥候、投石手、白魔法使い、音楽家。
選ぶのはレンに任せるつもりだが、助言できそうなことはしてやるつもりだ。しかし意見し辛い。
いや、役に立ちそうなのはある。
だが、なぜこのラインナップなのかわからん。
「なぁ、レンはなんか格闘技やってるのか?」
「かくとうぎ?」
「殴ったりとか、蹴ったりとか、投げ飛ばしたりとか」
「よくスーパーライダーごっこしてるよ」
「……じゃ、じゃあ、習い事はしてるか?」
「うん、ピアノ」
どうしよう。
俺にはもう何と言えばいいのかわからない。
そうだ、こういう時は……助けて、ハルえもん! ジャイレンが無垢な瞳で僕を追い詰めるんだ!
春川さんに視線を向けるが、どういうわけか視線が合わない。
春川さんは子守ロボットではなかったらしい。しかし残りはルジュアンしかいない。
暴君ばっかりじゃねぇか……。
レンが戦う力を得るには、物理攻撃系の職種は駄目だと思う。
力っていうのは、要は重さと速さだ。
まだ体が小さく未発達のレンには両方足りない。
ステータス的なことを考えても、俺の十分の一以下の攻撃力じゃ、どうしようもできないだろう。
できれば、春川さんみたいに、黒魔法使いとかがあれば良かったのだが。
となると、残された道は白魔法使いか音楽家だが、音楽家はどういう効果があるのか不明なので、出来れば避けたい。あとはレンの選択に委ねるしかないだろう。
「レン、正直今のお前の力じゃ、魔物と戦うのは厳しいかもしれない」
「えっ……」
レンが絶望したような表情を見せる。
だけどいい加減なことは言えないのだ。俺はレンの親じゃない。彼の人生に責任は持てないのだから。
「戦える職業はあった。だけど、もっと大きくなって強くならなくちゃ、使いこなせないと思うんだ。わかるか?」
「それは、ぼくがまだこどもだから?」
「そうじゃない。まだ小さくて体重が軽いからだ。俺はレンより大きくて体重も重いから、レンよりも強いけど、俺より体が大きくて体重の重い象とかには勝てない」
俺の言葉を理解してくれたらしく、レンは小さく頷いた。
「だけど、お前のママの敵討ちを諦めろと言ってるんじゃない」
「かたきうち……」
レンの瞳が暗く輝いた。
「とりあえず、今のお前の体格で俺が無理だと思うのは、格闘家、斥候、投石手だ。だけど、これは魔物と直接戦う職業でもある。反対に直接戦うことは出来ないけど、白魔法使いと音楽家ならお前でも使えるかもしれない」
「しろまほうつかいとおんがくかって、なにができるの?」
「白魔法使いは、恐らく味方の傷を治したりするものだと思う。音楽家は……ちょっとわからん。多分だけど、何か演奏したりして、味方の力を強くするとかだとは思うが、どうなるかわからないしお勧めは出来ない」
レンは眉間に皺を寄せて、一生懸命考えているようだった。
自分が何をしたくて、どうすべきなのか、この子にはまだ難しすぎる選択かもしれない。
「八雲さん、さすがにレン君を戦わせるわけにはいかないんじゃないですか? まだこんなに小さいんですよ」
「春川さん、俺はレンの親じゃない。いや、親だったとしても、俺はレンに直接選ばせたい。死んでも一矢報いたいというなら、俺にそれを止める権利は無いんだ。レンは子供でも、自分の意志を持った一人の人間だから」
「マスター、私もレンを戦わせるのは反対です。子供は大人に守られるべきです」
「それを決めるのはレンだって言ってるだろ。この駄クズが!」
「うぐっ、も、もういい加減許してください……」
やがてレンは俺を真っ直ぐ見つめてきた。もう迷いはないらしい。
「しろまほうつかいになれば、イクトたちをたすけられる?」
「ああ、必ずな。お前が俺たちを助けてくれれば、俺たちが魔物どもをやっつけてやる。そうしたら、レンだって一緒に戦ったことになると思うぞ」
「じゃあ、ぼく、しろまほうつかいになる」
「本当にそれでいいのか?」
「うん、ほんとはぼくがわるいモンスターをやっつけたいけど、しんじゃだめだもん。ママがね、ぼくに『いきて』って、いってたから」
レンはそう言って少し涙ぐんだ。
俺は思わずレンを胸に抱き締め、頭を撫でてしまった。
ガラでもないが、ついこの子の力になってやりたいと思ってしまう。
「レン、一緒に戦おうな」
「うん」
こうしてレンは白魔法使いになった。
名前 :レン クズミ
所属PT:なし
状態 :健康
体力 :5
攻撃力 :6
耐久力 :3
敏捷 :9
反応速度:16
魔力 :13
魔力耐性:11
SP :100
職業 :白魔法使いLV1(NEXT:10SP)
スキル : 癒しの光(5/5【12min】)、解毒の聖水(5/5【12min】)、退魔の光(5/5【12min】)
退魔の光が何かわからないけど、戦いながら見ていくしかないだろう。
あと今できそうなのは、武器と防具を選ぶくらいか。
そう考えていたところで、どこからか変なメロディが聞こえてきた。
『テッテレテッテ、テッテテー』
自分のスマホを見てみるが、何も異常はない。
春川さんを見るが、彼女は首を横に振って応える。
「マスター、この音は脳内に直接響いて来ているようです」
「へー、お前みたいな駄クズでも脳みそあるんだな」
「もぉ、本っ当に、許して頂けませんか?」
駄クズはさせておき、もしかしてと思い、スマホではなく、スマツの方を見てみる。
やはり原因はこれだったらしい。
【新しいシステムのアップデートが完了しました】
またストックが貯まったら、何話かまとめて投稿します。