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03.我が道を往く

早速のブックマーク、誠に有難うございます!


「そ、その、でも、やはり奥様と別れる気が無いなら、それでも構いません。しかし私はこの身を剣として、命の限りマスターにお仕えしましょう」


 またルージュはキリっとした表情をしている。


 どうやら彼女は、俺の記憶をすべて知っているというわけではないらしい。まぁ、その方が助かる。妻とのあんなことやこんなことも知られていると思うと、声を上げながら逃げたくなる。


 それにしてもアラクネというと、どうしても暗殺者みたいなイメージを抱いてしまうが、彼女は女騎士のような性格らしい。思い返せば、声が聞こえるようになってから、ずっとそうではあったけど。


「ちょっとさ、『くっ、殺せ』って言ってみて」

「……嫌です」


 だがどうも、あまり忠誠心は高くないらしい。

 別にルージュは俺の従者じゃないし、忠誠心なんて求めてはいないが。


「まずは情報を整理しませんか? お互いの、スマートツールでしたか? それを確認してみましょう」


 ということで、まずはお互いの情報を見せ合うことにした。

 俺はルージュに自分のステータスを見せ、ルージュは俺に彼女のステータスを見せてくれた。


名前  :ルージュ

所属PT:なし

状態  :健康

体力  :633

攻撃力 :512

耐久力 :638

敏捷  :119

反応速度:161

魔力  :113

魔力耐性:125


SP   :100


職業  :なし


スキル :なし


 ふぁっ!?

 何だこいつ!? 強すぎるだろう! いや、まさかとは思うが、俺が弱すぎるのか?!


「マスター、……お悔やみ申し上げます」

「うっさいわ! お前がおかしいんだろ!」


 そういえば思い出した。

 こいつに軽くビンタされた時、トラックにでも轢かれたのかと思った。トラックに轢かれたことなんてないけど。

 俺がおかしいんじゃない。ルージュがおかしいんだ。

 そしてそう思っていたのは、俺だけじゃなかったようである。


「冗談です。私もこの姿になってから、力が漲っているのを感じます。どうやら私は強くなりすぎてしまったらしい……」


 遠い目をしているルージュを無視し、画面の気になっていた箇所を調べてみることにした。

 ステータスの数字横に+と-の表記がある。

 これを押すとどうなるかずっと気になっていたのだ。

 試しに体力の+を押してみる。すると、普通に体力が+1された。代わりに、SPというのが1減っている。

 どうやらSPを消費することで、ステータス値の操作が可能らしい。

 さらに、画面の一番下に確定とキャンセルという文字が現れた。とりあえず今回はキャンセルしておく。もしかしたら、SPは他にも使い道があるのかもしれないし。


 うん、そうだ。

 職業とか、武器だとかもあったはずである。

 俺はホームボタンを押し、「職業」を押してみた。

 やはりRPGゲームとかのジョブに違いない。

 上から順に、前衛職、中衛職、後衛職、支援職、一覧とある。

 その下にいくつか説明がある。


・職業にはレベルがあり、一度選ぶとLV50に達するまで、変更できない。

・レベルアップするごとに伸びやすいステータスが、それぞれの職業によって違う。

・職業ごとに、取得できるスキルがある。

・選べる職業は人によって違う。


 試しに前衛職を押してみる。

 すると、侍と狂戦士の二つが出てきた。

 侍は何となくわかる。俺は中学の時は剣道をやっていた。それが理由ではないだろうか。

 しかし狂戦士は……。

 まったく心当たりがないわけじゃないが、どう見ても地雷だ。

 他にも色々あるようだが、ひとまずジョブは放っておこう。

 俺がそう考えていると、ルージュが突如嬉しそうに声を上げた。


「マスター、見て下さい! 『職業』に騎士がありましたので、早速選んでみました!」

「……」


 人が慎重にしようとしていた矢先に……。

 まぁ、ルージュは俺の相棒であって、家来ではない。彼女が何を選ぼうと自由だ。イラッとはするけど。


 気を取り直してルージュのステータス画面を見せてもらう。


名前  :ルージュ

所属PT:なし

状態  :健康

体力  :633

攻撃力 :512

耐久力 :638

敏捷  :119

反応速度:161

魔力  :113

魔力耐性:125


SP   :100


職業  :騎士LV1(NEXT:10SP)


スキル : 聖破斬(ホーリースラッシュ)LV1(3/3【15min】)、武装硬化LV1、騎乗LV1


 確かにスキルが増えている。

 だが、騎乗は完全に死にスキルだ。ここら辺に馬なんていないし、ルージュの乗れる馬なんていない。いたらモンスターだ。

 ルージュは騎士になれてご満悦のようだが、これは結構失敗しているだろう。

 俺はもっと慎重に考えよう。

 ルージュがこの先俺と一緒に行動してくれるなら、彼女の能力との兼ね合いもある。


「よし、早速剣と盾を買いましょう!」

「ちょっと待て!」

「は、はい?」

「いや、お前のことをお前がどう選ぼうと自由だが、もう少し慎重になろう。な?」


 俺が少し呆れてそう言うと、ルージュは少しばつの悪そうな顔をした。


「少し興奮していたようです。お恥ずかしい」

「いや、まぁいいんだ。俺は別にお前にあれこれ命令するつもりはないから」

「はい、では、慎重に剣と盾を買いたいと思います」

「あ、うん、好きにして」


 興奮していようが、落ち着いていようが、根本的な所は何も変わらないらしい。

 うん、もういいや。これだけ強ければどうとでもなるだろ。


 とりあえず、何があるのかだけ俺も確認してみることにした。

 画面の『武器&防具』をタップする。

 次にメニューが出てきたのだが、購入の一つだけだ。

 もしかしたら、そのうち売れるようにもなるのかもしれない。じゃないとメニューがあるだけ無意味だし。

 購入を選ぶと、さらに武器と防具が選べるようになる。

 俺はとりあえず武器を押してみた。

 出てきたのは、青銅の剣(10SP)、鉄の剣(20SP)、鋼の剣(30SP)の三つだ。

 ちょっと少ないし、きっとこれからアップデートでもされるのだろう。

 防具の方を見ても、だいたい同じようなものである。聖銀(ミスリル)みたいなファンタジー色のものはない。ただしこちらは、着ける個所や形など、様々な違いがあるため、数が多かった。

 こう、色々見ているとだんだん買いたくなってくる。

 俺も試しに何か買ってみようか、と思ったところで、再びルージュの嬉しそうな声が聞こえてきた。もう嫌な予感しかしない。


「マスター、見てください!」

「お前って奴は……」


 ルージュは剣と盾、プレートメイルを装備していた。

 多分こいつのことだから、全部鋼製だろう。

 締めて90SP、残り10SPしかないわけだ。

 もう呆れて声も出ない。


「どうですか? 似合いますか?」


 まぁ、確かに似合ってはいる。

 そしてそんな風に嬉しそうに聞いて来られると、ついこっちも嬉しくなってしまう。

 美人っていうのは卑怯だ。


「まぁ、似合ってるよ。でも、なんか足りないな」

「? 何でしょう?」


 ルージュが首を傾げて訊いてきた。

 自分で言ったものの、何だろう? 思い付かない。しかし何かが足りないのだ。

 うーん、女騎士、長髪、ポンコツ……わかった。こいつになくて、俺の思い浮かべたドM変態女騎士にあるもの、それはアレだ。


「ポニーテールだ!」

「割とどうでも良かったです」


 ぐぐ、そうは言ってもイメージは大切だ。それにSPを消費しなくていいんだから、やってみたっていいだろう。

 俺は妻の残していった私物からヘアゴムを取り出し、ルージュに渡した。


「そ、そんなにポニーテールが良いんですか? 仕方ないですね」


 口ではそう言っているが、満更でもなさそうにポニーテールを作って、俺に見せてきた。

 九割九分ぐらいネタだったのだが、こうしてみると、やっぱり綺麗だ。


「綺麗だよ」

「ふえっ!?」


 ルージュは何やら顔を赤くし、俯いてしまった。

 こういうところは可愛らしい。


「マ、マスターは天然の女誑かしですね」

「いや、ある程度はわかって言ってるよ。本心だけどさ」


 うん、俺は残念ながら鈍感系ではないので、ちゃんと計算している。

 尤も、ルージュとそういう関係になるつもりはなかったりするのだが。

 だから一応フォローもしておこう。


「ルージュは男から見て綺麗だ。間違いない。イイ女は、そう言う時は『ありがとう』とか言って、上手く躱すんだよ。今のうちに覚えとけよ。もしかしたら、これから声を掛けられるかもしれないし」

「で、ですが、私はこんな体ですし、やはり男性に声を掛けられたりはしないのでは?」

「いや、人間とは言ってないし。トロールとかに求愛されるかもしれないだろ?」

「……溶かしますよ?」

「すいません」


 うん、そうだった。

 蜘蛛好きの俺からしてみれば、ルージュは全然ありなのだが、普通の人からしてみれば恐ろしいモンスターに見えるかもしれない。

 俺もこれがゴキ娘とかだったら、正直どうなっていたかわからないし。


「それで、マスターは『職業』や『武器』は選ばないのですか?」


 ルージュが完全にご機嫌斜めで訊いて来る。


「とりあえず俺はもう少し慎重に選ぶよ。これからお前と二人で行動するわけだしさ。何が必要になるかわからないだろ? それとも俺と一緒にいるのは嫌か?」

「そ、そんなことはないですけど」


 ルージュの表情が柔らかくなる。ちょっとは機嫌を直してくれたようだ。


「ま、いざとなったら何か適当に選ぶよ。何も選ばずに死ぬのもバカらしいしね」

「その、マスター。もしかしたら、その『いざとなったら』が近づいて来ているかもしれません」


 ルージュの視線が外を向いている。

 彼女の視線を追ってみるが、俺には何も見えない。

 そういえば、蜘蛛というのは、聴毛という発達した聴覚器官があり、それで振動などを捉えているのだったか。人間では感じ取れない何かを敏感に感じ取っているのだろうか。


「なあ、何が起きて……」


 ルージュに訊こうとした時だった。


――きゃあああああ!


 女の悲鳴が外から聞こえてきた。

 どうやら、ついに始まってしまったらしい。



※聖破斬は魔王によく効くわけではありません。予めご了承ください。

※ルージュの年齢ですが、多分この先明かされることが無いので、この場で紹介させていただきます。

 名前:ルージュ

 年齢:15歳

 蜘蛛で15歳、人間でいうと200歳ぐらいという妖怪設定です。

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