表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/33

25.新メンバー


 楓子ちゃんが俺たちに言った「私はどうすればいいか?」。うん、知らん。

この子は完全に俺の嫌いな糞ガキだ。


「えっと、楓子ちゃんだっけ? あなたはどうしたいの?」


春川さんがちょっと困惑したようにきく。


「た、助けて欲しいんだけど」


そこで楓子ちゃんはなぜか俺を睨んだ。本当になぜだ?


春川さんがやっぱり困ったような表情のまま、口を開くのだが、それをいつものことながらルージュが阻止する。


「はっはっは、それならこの私に任せるがいい。この騎士、ルージュに」

「た、助けてくれるの?」


 楓子ちゃんの表情は硬い。

 助けては貰いたいようだが、異形の存在であるルージュが苦手らしい。


「よし、ルージュ。早速命令だ」

「えぇっ!? い、今、ここで、ですか……?」


 ルージュが驚愕し、頬を染める。

 そんなルージュのリアクションは無視し、俺はルージュを真っ直ぐ見た。


「俺がいいと言うまで呼吸をするな」

「死んでしまいますが!?」


 下の蜘蛛の方で呼吸できないのだろうか。

 あ、そうか。今の命令だと、蜘蛛の方も呼吸してはいけないことになるか。


「わかった。命令変更だ。黙ってろ」


 ルージュは何か言いたそうにするが、俺が睨みつけると、口をへの字に曲げて何も言わなくなった。


「あのな、楓子ちゃん」


 楓子ちゃんが俺をキっと睨む。


「何? 馴れ馴れしく“ちゃん”付けで呼ばないでよ」

「おう、じゃあクソガキ」

「……楓子ちゃんでいい」

「俺たちは別に救助隊じゃないんだ。君を助ける義務もなければ義理もない。わかるか?」

「そ、そんなこと言うけど、そっちに小さい子がいるじゃん」


 そう言って楓子ちゃんはレンを指差した。

 指を差されたレンは、不快そうな顔をする。


 確かに俺は一度レンを助けたが、今も助けているかといえば、それはちょっと違う。

 俺たちは助け合っている。

 レンもアラクネマスターの立派な一員なのだ。


「レンはただの足手まといじゃない。魔法を使って俺たちを助けている。それにレンは助けてもらいたいんじゃなくて、一緒に戦いたいんだ」

「うん!」


 レンが俺を見て嬉しそうに微笑んだ。

 俺はそんなレンに微笑み返し、楓子ちゃんに視線を移す。

 レンに比べて、何だこの中坊は。呆れてくる。


「レンなんてまだ五、六歳だぞ」

「えっ? ぼくよんさいだよ」


 楓子ちゃんに説教するのを中断し、レンに視線を移した。

 え? レンって四歳なの?

 四歳っていうとサザ○さんの息子と同い年じゃないか。いや、あの子だって相当しっかりしてると思うけど。


「レン、お前、老けてるな……」

「八雲さん、せめて大人びてるとか言ってあげてください」


 話が逸れた。

 俺は再び楓子ちゃんを見る。


「自分の三分の一しか年取ってない子が戦うって言ってるのに、自分は『助けて、助けて』って恥ずかしくないのか?」

「そんなこと言ったって……」


 楓子ちゃんが涙目だ。

 おうおう、泣け泣け。君が泣いたところで、俺は痛くとも痒くとも無い。


「イクト、おんなのこなかせてるの?」


 あ、うん。それは痛い。


「違うのよ、レン君。八雲さんは楓子ちゃんにメってしてるの」

「ふーん」


 楓子ちゃんが俯いてぽろぽろと泣き始めた。

 まぁ泣かれようが何だろうが、助けるつもりはないが。


 春川さんが俺に困惑した表情を向けてくる。レンは自分より大人の楓子ちゃんが泣いているのを見て、オロオロしていた。ルージュはといえば……何だ? 手をピンと上にあげて、何か言いたそうにしている。無視しよう。


『ルージュさんからお電話です。応答しますか?』


 うっとしい奴だな。

 仕方ない。取るか。


『何だ?』

『困っている人を助けるのは、悪いことではないですよ。見返りなど求めなくても……』


 俺は通話を切った。

 ルージュが睨んで来るが、知らん。


『春川さんからお電話です。応答しますか?』


 ん? 今度は春川さんか。どうしたのです。


『どうかした? 春川さん』

『はい。私も助けても良いかもしれないと思います』

『でも、そんなこと言ってたら、これから先もっと助けなきゃいけない奴が増えるかもしれない』

『いえ、助けられてもせいぜいあと一人です。パーティーの人数制限がありますから』


 なるほど、そういう考え方もあるか。

 だけど、結局足手まといを助けても、俺たちが負担を負うだけだ。

 だが、春川さんの考え方は違ったようである。


『それに戦力にならないなら、何か生産職的なものを取らせてみるのもいいかもしれません。戦力はルージュさんと八雲さんがいれば、十分ですし。労働力は必要じゃありませんか?』


 黒い。春川さんが黒いよ……。

 確かに春川さんの言うことも尤もだ。

 戦力は十分かもしれないが、それ以外が俺たちのパーティーにはない。せいぜいレンの回復ぐらいである。

 もっとこう、役に立ったり面白い生産職があったりしてもいいと思う。


『分かった。戦えないなら働け、という方向で話を進めよう』


 俺は(はな)っから乗る気のないルージュの泥船は早々に見捨て、春川さんの大船、いや、黒船に乗ることにした。

 わざとらしく、一つ咳払いをしておく。


「まぁ、確かにだ。ここで楓子ちゃんを見捨てて、死なれるのも後味が悪い」


 俺がそう言うと、楓子ちゃんは顔を上げ、俺を凝視した。

 可愛い女子というのは、泣き顔も絵になるな。鼻水はいただけんが。


「助けてくれるの?」


 舌打ちしそうになるのを我慢して、言葉を続けた。


「まぁ、ちゃんと俺たちの助けをしてくれるならな」

「うん、何でもする!」


 女の子がそんなに簡単に何でもするというのはどうかと思うが、とりあえず彼女のスマツを見せてもらう。

 選べる職業は、ランナー、学生、風俗嬢、白魔法使い、赤魔法使い、だ。

 ……。

 顔を上げると、真っ赤な顔をした楓子ちゃんと目が合った。


「まぁ、あんま説教するつもりもないけど、中学生が風俗で働くのは、色々アウトだと思うぞ」

「ち、違うもん! 私処女だもん!」

「ああ、うん。そ、わかった」

「絶対わかってないでしょ!?」


 またルージュが手を上げた。


「何だ?」

「そう言えば、私の選べる職業にもホステスというのがありました。一概にその職業があるからと言って、その職業に就いていたとは限らないのではないでしょうか?」


 そう言われるとそうかもしれない。

 俺だって青魔法使いとかいうわけわからないのがあったし、狂犬と呼ばれたことはあるが、狂戦士と呼ばれたことは無かった。

 だが、ルージュのホステスはなぜだろう。

 以前、嫁の残していった焼酎を何かの料理に入れ過ぎて泥酔してしまい、グダグダと愚痴を語ったことがあるが、まさかそれのせい……なのか?


 ともかく今は楓子ちゃんの職業を決めよう。

 しかしどれを選ぶか迷う。

 残念ながら悪い意味でだ。

 無難そうなのが何もなかった。一番まともそうなのは白魔法使いだが、それだとレンと被る。

 その他で一番気になるのはやっぱり風俗嬢だが、楓子ちゃんが絶対に嫌がるだろう。

 となると、残りは三択だ。

 ランナーか学生か赤魔法使い。

 うーん、何ができるのかは謎だが、やはり赤魔法使いがまともそうか。


 しかし楓子ちゃんは唐突に「これにしよっと」と言って、ランナーを選んでしまった。

 ……何でだ?


「私、陸上の長距離やってるからさ、ちょうどいいかなって」


 なんて適当な理由……。


 もう選んでしまったものはしょうがないので、どんなスキルを取得したか見せてもらう。

 楓子ちゃんの取得したスキルは「韋駄天」「消費軽減」「給水所」だった。

 うん、二つはわかる。だが「給水所」がさっぱりわからない。


「ちょっと使ってみてくんね?」

「うん、【給水所】」


 まさか給水所が現れる能力ではないと思うのだが、と思っていると、目の前に本当に給水所が現れた。マラソンとかで見る給水所、まんまアレだ。

 紙コップは六つあり、それぞれに何か透明な液体が並々注がれていた。

 飲めるのか? 飲んでみるべきか……?


 俺が悩んでいると、特に迷う様子を見せず楓子ちゃんがそれを一つ手に取り、ごくごくと飲んでいった。


「あ、これ、スポーツ飲料だね」


 この子、勇気あるな。


「マスター、甘いです」


 さらにルージュが飲んでみせる。


 春川さんと目が合い、頷き合って二人で同時に飲んでみた。

 確かにスポーツ飲料だ。冷たくてうまい。


「ぼくにものませて」


 レンにも飲ませてやり、誰にも何も起きないことが証明された。

 三十分の待機時間はあるが、常に飲み物が確保できるなら、これは相当便利な能力、なのだろうか? わからん。

 そこら中に自動販売機はあるし、何か月かはもつはずだ。

 まぁしかし、何かしら役に立つこともあるだろう、きっと。


 それから楓子ちゃんステータスを50SP上昇させ、残ったSPでレベルを上げた。

 そして俺たちアラクネマスターに新メンバーが加入したのである。


名前  :カエデコ イチノセ

所属PT:アラクネマスター

状態  :健康

体力  :15→48

攻撃力 :13→15

耐久力 :10→15

敏捷  :25→41

反応速度:26→42

魔力  :18→20

魔力耐性:19→21

SP   :100→20

職業  :ランナーLV1→3(NEXT30)

スキル :韋駄天LV1、消費軽減LV1、給水所LV1(30min)




そういえば、楓子ちゃんはヒロインじゃないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ