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22.新しい武器


「は、入ってます」


 何を言っているんだろう? 俺は。

 恐怖のあまり、少々トチ狂ってしまったらしい。


「良かった……! 人、だよね?」


 隣のおそらく少女が、喜色を露わにする。

 しかしモンスターどもはしゃべるという事を知っているのか、一応警戒しているようだった。


「俺は人ですけど、そういう貴女も人ですよね?」


 人だとは思うが、一応聞いておく。

 初対面、それも顔すら合わせていない人だ。大人のマナーとして敬語は忘れない。


「う、うん。そっちに行ってもいい?」

「はぁ、別に構いませんけど、よく外を確認してからにしてくださいね」


 暫くして、隣からカーテンを開ける音が聞こえ、俺のいる試着室のカーテンを開けて、セーラー服を着た少女が中に入ってきた。

 JC? JK? 若い子の違いはよくわからんが、制服を着たこの子が、多分道を歩いていれば十人中十人が振り返るような美少女だという事はわかる。

 もし普段の俺であれば、こんな狭い空間にこんな美少女と二人っきりになったら、理性を保つために壁に頭を打ち付けるぐらいのことはするだろうが、生憎今はそんな余裕はない。

 だが一人じゃなくなったことで、少しは恐怖が薄まってきた。

 これからどうするか冷静に考えてみよう


「あぁ、良かった。私、あの鳥の頭をしたマネキンに追われて、ここまで逃げてきたの。お母さんも一緒だったんだけど、途中で襲われちゃって……うぅ、お母さん」


 なんか色々と限界だったらしい。

 聞いてもいないのに、彼女はべらべらと話し始めた。

 

「ここに逃げる前に、何人か人に会ったの。助けてくれるって言われたんだけど、地下で蟹の化け物に遭遇した時に、私だけ置いて行かれちゃって。

 あぁ、でもほんと助かった。イケメン、ではないけど、お兄さんさっきの人たちよりカッコいい。それに真面目そうだし」


 何だ? けなされてるのか、褒められてるのか、よくわからん。多分思ったことをそのまま言っているだけだとは思うけど。

 だが敬語を使え。どう見ても年上だろうが。


「ちょ、ちょっと待って。いくつか訊きたいことがある」


 相手が明らかに年下だったため、俺は敬語をやめて、彼女の言葉を遮った。


「まずは自己紹介しよう。俺は八雲育人。君は?」

「う、うん。私は一之瀬楓子(かえでこ)

「そう、楓子ちゃんね。楓子ちゃんのジョブは何?」

「ジョブって、職業のこと? えっと中学三年だけど」


 やっぱりかなり年下だったな。

 中学三年というと、十四ぐらいだろうか。えっ? 一回り以上年下? 一回り年下にタメ口きかれてんのか、俺……。

 いやいや、今はそれはいい。俺が知りたかったのはそんなことじゃない。


「いや、そうじゃなくって。このスマホみたいな奴で職業選べるでしょ? 何の職業選んだの?」

「それ、どうすればいいかわかんなくて、まだ何も弄ってないの。で、でも、お兄さん、助けてくれるよね?」


 え? 何で? 何で当然みたいな感じで言ってくるの、この子?

 これは、失敗したか。

 確かに一人じゃなくなって恐怖心は薄れたけど、楓子ちゃんは明らかにお荷物な感じの子だ。

 最悪この子を囮にして逃げようかな……。


「見ればわかると思うけど、俺も敵に襲われて逃げてきたんだ。だから期待しないでほしい」

「そんな……! ねぇ、そんなこと言わないでよ。お兄さん、男でしょ?」


 え、うん。女ではないね。

 俺はもうそれ以上楓子ちゃんに戦力を期待するのは諦め、自分のスマツを取り出した。

 こんなことになるなら、敏捷にSPを全て振り分けてしまえば良かった。

 今更悔いても遅い。今はとりあえずレベルアップと何か武器を手に入れよう。なるべく遠距離で戦える武器が良い。もし戦うにしても、あんなのに近づきたくない。


 現在のSPは219だ。

 よし、結構増えている。

 俺はとりあえず狂戦士のレベルを二つ上げた。


名前  :イクト ヤクモ

所属PT:アラクネマスター

状態  :病(中)

体力  :57→59

攻撃力 :120→126

耐久力 :120→126

敏捷  :53→57

反応速度:53→57

魔力  :40→42

魔力耐性:41→43

SP   :89→89(+130、-130)

職業  :狂戦士LV6→8(NEXT80)

スキル :狂化LV2(27min)、自動回復LV2、精神汚染耐性LV2


 よし、あとは武器だ。


「ね、お兄さん、お願い。私を助けて」


 楓子ちゃんはとりあえず無視し、良さそうな武器を探す。

 俺の買える武器の中では、ミスリルの剣が一番良いだろう。

 ルージュと被るのは業腹だが、致し方あるまい。

 他にないしなぁ、と思ってスクロールしてみると、普通に下に行けた。俺が気付かなかっただけで種類はまだあったようだ。

 結構種類が多いが、俺が今必要なのは遠距離攻撃できる武器なのだが、……ない。

 消去法でリーチが長い物を探すとなると、


・太刀(30SP)

・大太刀(40SP)

・鉄の大剣(30SP)

・鋼の大剣(40SP)

・ミスリルの大剣(60SP)


 となる。

 太刀、大太刀はなんとなくわかる。というより、実家に太刀と小太刀があるから、見たことはあるのだ。大太刀はあの太刀より長いという事だろう。

 大剣というのは、もしかしてドラゴン殺す用の、振る度に鐘の音みたいなのが鳴るアレだろうか? 確かにアレならこの中では一番リーチが長いが、使える自信が無い。

 かと言って太刀だと少々不安だし(奴との距離が)、うん、大太刀にしよう。

 という事で、俺は大太刀を購入した。


『すぐに装備しますか? はい/いいえ』


 俺は迷わず『はい』を押した。


『手を前に出してください。光が発生するので、それを掴んで下さい』


 画面の指示に従って手を前に出すと、本当に縦長の棒状の光が発生した。


「きゃっ」


 楓子ちゃんが悲鳴を上げるが、俺はそれを無視し、無言で指示に従ってそれを掴んだ。

 すると俺の掴んだ光は黒い鞘となり、全ての光が消えて、俺の前に長い刀が姿を現す。

 やはり長い。

 佐々木小次郎の物干し竿というのが、確かこんなだった気がする。

 これなら多少は距離を取って戦えそうだが、扱いが難しそうだ。だけどあの邪神に近づかなくて済むというなら、俺は何としてもこれを扱ってみせる。


「わ、私のために戦ってくれるの?」


 何でだ……?

 何というか、男なら自分を守るのが当然、とでも思っているらしい。

 美少女だし、今まではきっとそうだったのだろう。

 だけど俺にそんなつもりはない。こっちだって病人だしね。守られる優先順位なら俺の方が上のはずだ。


「悪いけど、自分の身を守るので一杯一杯だから。ついて来たいって言うなら、好きにしてくれればいいけど」

「な、何で守ってくれないの? ねぇ、私を助けてよ。私のこと、好きにしていいから……」


 凄いこと言い出したぞ。

 エロゲの主人公ならここで抱くという選択肢を選ぶだろうが、俺は違う。そういうわけにはいかない。

 もし手を出そうものなら、俺に有罪判決を下し、速やかに死刑を決行しそうな人物が数人浮かび上がってくるのだ。ハニートラップどころか、デストラップである。

 しかし楓子ちゃんは、突然俺に抱きついてきた。

 咄嗟に俺はホールドアップの体勢を取った。これで万が一誰かに見られても、俺は何もしていないと言い張れる。


「このまま死ぬのなんて、イヤ。私まだ処女なんだよ。キスだってまだだし……ねぇ、して?」

「そういうのは好きな人にしてもらいなさい。ほら、離れて」


 俺が手でしっし、と追い払うと、大人しく楓子ちゃんは従ってくれた。

 だがしかし、彼女はセーラー服に手を掛け、脱ぎ始めてしまった。

 何だ、この子。どうしても俺を有罪にしたいのか?

 もしこんな現場を誰かに見られたら……。


 シャッ。


 カーテンが勢いよく開かれた。

 まさかルージュ!? それとも邪神に見つかったか!?


――ドウゾゴランクダサーイ。


「い、いやぁぁぁぁぁ!!」


 お前かよ!

 悲鳴を上げる楓子ちゃんを背中に庇い、俺は鯉口を切り、大太刀を引き抜いた。実家で子供頃、親に隠れて何度も練習しておいて良かった。

 しかし太刀より扱い辛いな。

 大太刀を引き抜いたそのままの勢いで、マネキンの脇の下から斜め上に向かって斬り上げる。


 八雲流居合術。

 昔じいちゃんに見せてもらったことが数回あるだけだが、何とか上手くいったようだ。

 ステータスのおかげもあって、鳥マネキンの体は真っ二つになり、光の粒子となって俺の中に吸い込まれて行った。

 しかしこんなことになるなら、ちゃんと剣術を学んでおけば良かった。

 世界がファンタジー化したと知った時も、上手く立ち回れるような職業を選ぶつもりだったからそんな風には思わなかったが、まさか狂戦士なんぞになってしまうとは。

 くっ、全てはあのポンコツ蜘蛛のせいか。


 とりあえず振り返って、セーラー服がはだけて下着丸見えで蹲っている楓子ちゃんに声を掛ける。


「おい、もう大丈夫……」


 楓子ちゃんはガバッと立ち上がり、俺に再び抱きついてきた。

 危ないから! 俺、抜身の刀持ってるからね!


「お兄さん、強い、カッコいい!」


 どさくさに紛れてキスして来ようとするのを、片手で顔を鷲掴みにして押し止めた。


「お兄さんも、もしかして童貞?」

「妻・帯・者だ! だいたい俺の仲間は俺よりもっと強い」

「そ、そっか、奥さんいるんだ。しかも仲間もいるんだね」


 楓子ちゃんが嬉しそうに俺にまとわりついて来る。

 頼むから離れてくれ。

 もしこんな所をルージュあたりに見られたら、溶かされるかもしれない。


 ……今度は視線を感じる。

 楓子ちゃんに抱きつかれたまま、そちらを向くと、


――カサカサ、カサカサ。


「ひぃっ……」


 楓子ちゃんが小さく悲鳴を上げた。

 だが俺は、


「いやぁぁぁぁぁ!!!」


 楓子ちゃんを上回る悲鳴を上げ、楓子ちゃんの腕を引っ張って、その場から逃げる。

 果たしてルージュと邪神、見つかるならどちらがましだったろうか。



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