19.仲良くお買い物
11/05、2話目(深夜に1話投稿済み)
ルージュ視点です。
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マスターとレンと別れた私たちは、二人で下着を選ぶことになった。
泥棒ね……奈穂殿と二人っきりで行動するのは少々やりにくいことではあるが、同性同士、これからはきっとこういう機会が多くなるだろう。今のうちに慣れておかねばなるまい。それにマスターに想いを寄せる者同士、仲良くなれる事もあるやもしれん。
しかしそれにしても種類が多い。
地味なものから派手なもの、際どいものから可愛らしいものまで色々とある。
どれにするか迷ってしまう。
狡猾な……しっかり者の奈穂殿はきっとすぐに選んでしまっているのだろう。そう思って奈穂殿の様子を観察してみると、意外なことに、彼女もまた悩んでいるようであった。
「こう種類が多いと悩んでしまうな」
奈穂殿に話し掛けてみると、彼女ははっとした表情で私を振り返り、とり作ったように笑顔を浮かべる。
「ええ、本当にそうですね。悩んじゃいます」
ふむ。さてはマスターの好みを考えていたな。
そんなことを気にしても意味はないと思うぞ。見せる機会など一生来ないのだから。
私はそんなことは気にせず、とりあえず目の前にあった可愛らしいフリルのついた赤いショーツを手に取ってみた。
「ルージュさん、結構攻めるんですね」
「そうだろうか? 私はマスターに付けて頂いた自分の名前から、何となく赤を選んだだけなのだが」
「赤い下着なんて、誘惑しているようなものですよ」
「ほう、それは知らなかった。しかし私はルージュだからな」
「……」
「……」
「うふふふふふ」
「はっはっはっはっは」
暫し見つめ合った私たちは、何事もなかったように再び下着選びを始めた。
奈穂殿は先程よりも真剣な眼差しだ。間違いなく私に対抗意識を燃やしている。
ふっ、私に勝負を挑もうなどと浅はかなことだ。私が何年マスターと同棲していたか知っているのだろうか。
だが私に対抗しようというなら、全身全霊を以って相手になろうではないか。
しかし、とりあえずこのショーツを試着してみたいと考えたところで、はたと気付いてしまった。
私はどうやってショーツを履けばいいのだ……?
ど、どうすればいい?
少しの間呆然と思い悩んだのだが、解決方法は簡単に浮かんだ。
そうだ、紐ショーツにすればいいのだ。
ということで、早速紐ショーツを探す。
あった。ちゃんと赤色もある。
私はそれを手に取ってみた。
んん? 何やらバックの面積が異様に狭いような?
「ちょっとルージュさん、それは明白過ぎませんか?」
「はて、何のことだろう? 私はこの体なので、紐でないと履けないだけであるし、たまたま選んだのが、このような形になっていただけなのだが」
「そ、そうですか。そう来ましたか。でもルージュさん。Tバックってお尻に食い込んで痛いですよ」
「ぬう、そうなのか。確かにこれは痛いやもしれぬ」
多分奈穂殿は私の邪魔をしたいだけなのだろうが、言っていることにも一理ある。
私は商品を棚に戻し、もっと良いのがないか探して見ることにした。
暫し店内をうろついていると、小さな箱に梱包された赤いショーツを発見した。
何だろうこれは? 少し高級感がある。
一瞬躊躇った後、もうこれを買う者はいないのだと考え直し、ビリビリと破いて中身を取り出してみる。
何とも高級感のあるショーツだ。柔らかな手触りといい精緻な作りといい、これはなかなかの逸品だと言える。しかもこれは、あのTバックだ。
だがしかし、残念ながら紐ショーツではなかった。
うーむ、どうすればいい……。私はこれが履きたい。
いいことを思い付いた。失敗したら失敗したで構わないだろう。
私は思い切ってショーツの両端を手刀で断ち切り、そこに自分の糸を絡めていって紐ショーツを自作してみた。
「あ、これって今ニューヨークセレブの間で話題だっていうメーカーのじゃないですか。随分思い切ったことをされますね」
奈穂殿が私の様子を窺いに来る。
「うむ、しかし出来はいまいちだな。もう少し練習が必要そうだ」
という事で、同じ商品を大量に卵のうの中にしまうことにした。
私が取っている横で奈穂殿も二着ほどそれを選んだ。
「泥棒ねk……奈穂殿、私の真似をしないで欲しいのだが」
「明白に言い直しましたね……。えっと、何のことですか? 私もたまたまこれが欲しかっただけですよ」
奈穂殿が鉄壁の笑顔で私を見る。
「そうか、では仕方ないな」
なぜか私も鉄壁の笑顔で奈穂殿を見返した。
よくわからないが、ここで引いたら負けな気がしたのだ。
その後、私は普通の紐ショーツを五着と紐ショーツのTバックを三着選んだ。
本当はもっと欲しかったのだが、脳裏に青筋を立てて「おい、ルージュ、お前どんだけ下着持っていくつもりなんだ?」と、憤怒の表情で私を睨みつけてくるマスターの姿が浮かんだので、やめておいた。
奈穂殿も十着くらいでやめている。
「あ、ルージュさん、ちゃんと生理用のショーツも用意した方がいいとおも……いいんでしょうか?」
「生理か。知識として知ってはいるが、私にそれが来るのかはわからないな。だが一応用意しておこう」
ということで、新たに五着選び、また少し量が多くなってしまった。
しかし私の卵のうにはまだまだ余裕がある。問題ないだろう。
あとはブラなのだが、困ったことに、私の胸に合うサイズがなかなか見つからない。
なるべくショーツと合わせたかったのだが、難しそうだ。
私がブラ選びに手間取っていると、また奈穂殿がやって来た。
「それだけ大きいと大変そうですね」
「うむ、困ったものだ。その点、奈穂殿は私ほどではなさそうだから、羨ましい限りだな」
ふむ、奈穂殿の眉がピクリと反応したぞ。
「そうですね。ルージュさんのそれ、あんまり大き過ぎると引いてしまう男性もいそうですもんね」
ほう、つまり私がマスターに引かれると言いたいのか。
「なるほど、男の中にはそういう風に思う者もいるのか。しかし私にはあまり関係のない話だ。マスターが私の胸を気に入ってくれているなら、私はそれ以上を望まないからな」
「どうして気に入っているってわかるんですか?」
「それはさすがに言えないな。マスターの名誉に関わる」
奈穂殿は笑顔のままだが、どうやら少し動揺しているようだ。
実際にマスターは私をいきなり襲おうとしたし、そのあと私はマスターの下腹部が大蛇の如く変貌している様を見てしまっている。
あれはつまり、そういうことだろう。
だが今思えば、惜しいことをしたのかもしれない。マスターの方から襲い掛かってくることなど、この先あるのだろうか?
いや、待て。アレは入らなくないか? 考えたら少し怖くなってきた。
「う、うーん……」
「どうしたんですか? 急に考え込んでしまって」
「い、いや、その、マスターと、その、致すとなると、裂けてしまうのではないかと思えてきて……」
奈穂殿の目がすっと細められた。
今回は別にそんな気はなかったのだが、今日一番の逆鱗に触れたらしい。
だがそれも一瞬のことで、またすぐに鉄壁の笑顔に戻っている。
「八雲さんのって大きくて太いですもんね。……硬さは普通でしたけど」
そうだった。すっかり忘れていたが、奈穂殿はマスターと一度寝たことがあるのだ。
いや、何もなかったとは言っていたが、奈穂殿は間違いなくマスターの服を脱がしている。見てもいるだろう。
「うむ、私は他の男のは見たことが無いが、さすがはマスターだ」
だが動揺などしてなるものか。ここは笑って受けて立とうではないか。HAHAHAHAHA……。
んん? しかし、何やら重要なことを聞き流してしまったような気がするが、何だったろうか?
首を傾げてみても思い付かない。
私が考えていると、奈穂殿が話を続けてきた。
「でもルージュさんって男性とのご経験はないですよね?」
「ないな」
「初めての相手が八雲さんだと大変かもしれないですよぉ。痛さのあまり死んじゃうかもしれません。先にどなたかと経験しておいた方が良いですよ」
「なるほど、確かに腹上死などとは恥ずかしい限りだ。だが、初めての相手がマスターなら私も本望だぞ。その点、奈穂殿は心配なさそうだな」
「……」
「……」
「うふふふふふ」
「はっはっはっはっは」
マスター、どうやら私は不倶戴天の敵を見つけてしまったようです。
しかしこの勝負、必ずや勝利して見せましょう。
下着を選び終わったら、次は服で勝負だ。
ふっ、だが私が負けることなどあるまい。なぜなら私は、ここ最近では最もマスターと同じ時間を共有してきたのだ。
マスター、期待していてくださいね。




